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名画プレイバック

『冬の猿』(1962年)監督:アンリ・ヴェルヌイユ 出演:ジャン・ギャバン、ジャン=ポール・ベルモンド:第31回【名画プレイバック】

『冬の猿』(1962年)監督:アンリ・ヴェルヌイユ 出演:ジャン・ギャバン、ジャン=ポール・ベルモンド:第31回
ジャン・ギャバン&ジャン=ポール・ベルモンド、フランスの名優が夢の共演!映画『冬の猿』より - (C)Everett Collection/アフロ

 ジャン・ギャバンとジャン=ポール・ベルモンド。フランスの名優2人のただ一度の共演作は、年齢も境遇も違う男たちに生まれた束の間の友情を描く『冬の猿』(1962)。日本では1996年、ギャバン没後20年を記念して初めて劇場公開されたアンリ・ヴェルヌイユ監督の隠れた名作だ。(冨永由紀)

 製作から53年経った今だと簡単に名優2人と括ってしまうが、当時すでにフランス映画界の至宝だった58歳のギャバンと、ヌーベルバーグの台頭でスターになったばかりの29歳のベルモンド、新旧スターの共演として観る方が自然だろう。彼らが演じる男たちのたった1つの共通点、それは「酒に酔う」という感覚だ。ミシェル・オディアールが手掛けたセリフと男優2人の好演が、酩酊がもたらす多幸感とその裏側にあるメランコリーを浮かび上がらせる。

 物語は1944年、ノルマンディー地方のドーヴィル近郊の小さな町ティーグルヴィルから始まる。酒好きで、いつも悪友と飲んだくれていたアルベール(ギャバン)は激しい空襲の最中、避難していた地下室で妻のシュザンヌに「もし生き延びることができたら、もう二度と酒は飲まないと誓う。多分、これが最後の一杯だ」とグラスを手に宣言し、ゆっくりと飲み干す。

 それから15年経ち、町にある通りの名前がヴィシー政権の「ペタン元帥」から「ド・ゴール将軍」に変わり、アルベールとシュザンヌが営むホテルに1人の客が訪れる。冬の夜にふらりとやって来た青年・ガブリエル(ベルモンド)はスペインの闘牛士だと名乗り、酒に溺れて奔放に振舞う。

 風変わりなタイトルは、かつて揚子江に出兵していたアルベールが語る中国の言い伝えによるものだ。冬になると人里に降りてくる迷い猿。アルベールは、ガブリエルがそんな冬の猿に似ていると話す。妻との約束を守って酒を断ち、今は代わりに飴をなめてやり過ごすアルベールは、泥酔して醜態をさらすガブリエルの相手をしてやりながら若き日の自分を思い出し、ふざけてアルベールを「パパ」と呼んでみたりするガブリエルも彼になついて、やがて町に来た本当の理由を打ち明ける。

 男2人の友情物語なのだが、同時に夫婦の物語でもある。ガブリエルが到着した翌日、分別ある大人になったはずの夫が、かつて酔っ払った際の定番のお題だった揚子江の話を前夜ガブリエルにしたと知るや、シュザンヌはたちまち不安に駆られる。この場面はホテルの台所で、朝市で魚を仕入れて戻って来たアルベールと酔いが醒めたガブリエル、2人を心配そうに観察するシュザンヌの3人で構成されている。貯蔵庫の整理をするアルベールを庫内から映すショットで、倉庫の3つの扉にアルベール、ガブリエル、シュザンヌの姿が映る。その扉の開閉のタイミングで3人の関係性や心理を見せる表現もまた秀逸だ。

 海辺を散歩しながら、アルベールがガブリエルに語ってみせる女心についての考察はなかなか的を射ている。そして、急速に意気投合していく2人に危機感を募らせ、友好的に振舞いながら牽制し続けるシュザンヌ。それを察知するガブリエル。空気を読むのはフランス人も得意なのだ。

 彼らの言動の一つ一つを見ながら、男って、女ってこうだよね、と思う。結婚は忍耐であるということをさりげなく、だが切実に描く。実際、シュザンヌ・フロンが演じるアルベールの妻には女性として共感を禁じ得ない。働き者で世話好きで、いろいろ気を回すことができる。何より夫を大切に思っている。それを身にしみてわかっているアルベールは彼女に向かって、おまえは理想の妻だ、人生をやり直せるとしてもまた一緒になりたいと言うのだが、そのままさらりと「でも、おまえはうるさい」と言い放つ。次に表情も険しく一変させ、一語ずつ区切って念を押すのだ。

 決定的な危機に見えるが、夫婦は翌朝にはいつも通りに働いている。その様子に曰く言い難い日常のリアリティーを感じてしまう。そこに、酔っ払ったガブリエルが往来で騒動を起こしたという知らせが入り、引き取りに行ったアルベールは、その帰り道、ごく当たり前のように長年の禁を破る。昔なじみだった町外れの怪しげな“中華レストラン”にガブリエルを連れて行き、ついに酒に手を出すのだ。

 そこから2人はやりたい放題だ。小さくまとまった者たちに悪態をつき、夜の往来で騒ぎまくり、町のよろず屋の店主も仲間に加えて、夜の海岸で花火を打ち上げる。耳をつんざくようなけたたましい音、昼のように空を明るくし、雨のように降り注ぐ火花。モノクロだからこそ、この狂騒のうら寂しさが同時に伝わる名シーンだ。

 本作の素晴らしさは、その後に続く翌日の描写だ。祭りのあとをきっちりと描いている。夫婦というもの、親子、人生をわずか数分間で見せる。それぞれの目的地へ向かう列車の中で、同乗の少女にせがまれてアルベールは“冬の猿”のおはなしを聞かせる。それは少女の父親であるガブリエルにこそ伝わる内容だった。寂しさに共感させる余韻のあるラストシーンは、ギャバンという名優、映画スターの力をしみじみと味わえる。『冬の猿』は、ベルモンドとともにギャバンの背中を見ながら、大人の男について学ぶ作品なのだ。


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