映像業界が大変革 ドラマ、映画、テレビ、ネットが区別のない時代に

コラム

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Netflixオリジナル・シリーズとして世に送り出された「ハウス・オブ・カード 野望の階段」 - Netflix / Photofest / Getty Images

 近年、アメリカの映像業界はNetflixに代表されるサブスクリプション型の動画サービスの登場によって、驚くほどのスピードで業界再編が進んでいる。これは、基本料金とは別に課金のあるプレミアム・ケーブル局HBOが1990年代終わりから台頭したことのインパクトに匹敵する、あるいはそれ以上の影響を与えていると言えるだろう。HBOは映画界との強いコネクションと潤沢な資金を武器に、破格の製作費と制作スタイルで従来のテレビ業界の常識を覆すクオリティーの高い番組作りで業界を席巻し、テレビ業界全体の質の向上を著しく促す原動力となった。結果として、映画スターやヒットメイカー、デヴィッド・フィンチャースティーヴン・ソダーバーグからマーティン・スコセッシといったビッグネームから映画界の人材をテレビ業界に引き込み、現在の活況を牽引した。(今祥枝)

Netflixの成功を皮切りにネットドラマが台頭

 そこに登場したのが、日本にも昨秋上陸して話題の動画サービスNetflixである。レンタル店から出発した同社の転機となったのは、2013年に勝負をかけて世に送り出したオリジナル・シリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」の成功だ。本作がテレビシリーズか否かといった論争があったことなど、今となってはジョークのよう。本作がエミー賞、ゴールデン・グローブ賞など主要なアワードで高い評価を得たことを皮切りに、「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」や「ブラッドライン」ほか数々のオリジナル番組が成功を収めた。並行して「トランスペアレント」や「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」といった番組を擁するAmazonプライム・ビデオもめきめきと頭角を現し、1年も経たないうちにネットドラマが主要なアワードを席巻するようになった。

 驚くほどにケーブルの普及率が高いアメリカで、従来基本料金で視聴できるベーシック・ケーブル局は地上波の二次放送、再放送が主流で地上波に匹敵するようなオリジナル番組は極めて少なかった。そのため、1990年代半ばまでエミー賞などの主要な賞にノミネートされる作品は、ほとんどが地上波だった。そこに現在は「ゲーム・オブ・スローンズ」等を擁するHBOが、映画スターが比較的早い段階から出演していたミニシリーズ / テレビムービー部門のほかにドラマ部門、コメディ部門でも存在感を示すようになり、2000年代に入ると最多ノミネート数や最多受賞数を誇るようになった。HBOは視聴料で成り立っているので、スポンサーに配慮することなくバイオレンスや性描写などを売りにしているが、最大の魅力は映画に匹敵する圧倒的な質の高さにある。

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「MAD MEN マッドメン」以後、存在感の薄くなる地上波 AMC / Photofest / Getty Images

ケーブル局優勢の決定打は「MAD MEN マッドメン」

 このHBOの躍進に追いつけ追い越せとばかりに、同じくプレミアム・ケーブル局Showtimeが「デクスター ~警察官は殺人鬼」など過激さを売りにしたセンセーショナルオリジナル番組を次々と世に送り出した。さらに、HBOよりも娯楽性が強く刺激を追求して成功したShowtimeとHBOの中間あたりで、ライアン・マーフィーの「NIP/TUCK マイアミ整形外科医」など、作り手の作家性を生かした大胆な作品に挑戦したのがベーシック・ケーブル局のFXである。そしてケーブル局の圧倒的な優位性を決定づけることとなったのが、ベーシック・ケーブル局AMCの初のオリジナル番組「MAD MEN マッドメン」の成功だ。2008年、ついにエミー賞ドラマ・シリーズ部門にFXの「ダメージ」とAMCの「MAD MEN マッドメン」が候補になり、ベーシック・ケーブル局初の同賞ノミネートの快挙が大々的に報じられた。以後、賞レースにおける地上波の存在感は薄くなり、2013年に「ハウス・オブ・カード 野望の階段」が登場して以降はケーブル局と動画サービスに完全に押された形となっている。

録画してイッキ見のスタイルが激増

 HBOを筆頭にプレミアム・ケーブル局やベーシック・ケーブル局のAMC、FXあたりは、芸術性重視か娯楽性の度合いが強いかの差はあるがコンテンツの質は、抜群に高い。一方、動画サービスのNetflix、Amazonのオリジナル番組もまた質は高く、さらなるクリエイティビティーの自由度を感じさせるものがあるが、作風、配信スタイルともに今時のトレンドをおさえている点が重要だ。それは、“Binge-watching”と言われるイッキ見と定額制見放題である。
 もはやウイークリーでのリアルタイムという視聴パターンは時代にそぐわないものであり、ネットワークの視聴者数のカウントもDVR(デジタルビデオレコーダー)の一週間以内の再生率まで含めて数字を出すようになっている。リアルタイム視聴の数字より何十パーセントもアップするケースは、若者向け番組やシリアルドラマ(連続性の強い)に比重があり、録画してイッキ見のスタイルが激増していることは明らか。もちろん、各局オンデマンドや自社の動画サービスに乗り出しているが、少なくとも課金して視聴するケーブルチャンネルよりは定額制見放題の方が便利だし、若い世代を中心にPCやタブレットでの視聴を主とする「コードカッティング」と呼ばれるテレビ離れが加速するのもうなずける。

NetflixやHuluをはじめとする動画サービスが視聴スタイルを変えた-iStock.com / LPETTET

急速なテレビ離れが進行中

 かつてHBOの存在は地上波の脅威となり、ケーブル局の台頭を牽引した。それはコンテンツの質そのものの変化を意味したのだが、動画サービスの台頭は番組の視聴スタイルそのものの変化を促すものだ(それによってイッキ見にふさわしい番組作りも必須となる)。既存のブロードキャストの仕組みを根底から揺さぶる存在がだからこそ、地上波はもとより最強のコンテンツ力を誇るHBOまでもが、Netflixを筆頭とする動画サービスに戦々恐々とするのは当然だろう。

 ニールセンほか有力紙や市場のアナリストによれば、テレビ離れが急速に進み数年後には既存のケーブル局で残るのは20チャンネル以下程度、また視聴者数は全ネットワークの合計を動画サービスの視聴者が上回るとの予測が2014年後半あたりから2015年にかけて出回っていた。実際に昨年は、ついに国内におけるDVDのレンタル&セルの販売の売り上げを動画サービスが上回り、2017年には映画館の売り上げを超えるとの予測もある。テレビだけでなく映画業界も含めて、時代の方向性は確実に動画サービスにあることは確かではあるが、テレビに関していえば、この予測よりは緩やかな変化となっているのが現状だ。

テレビドラマは自社制作でハイリスク、ハイリターン

 特に地上波はメジャーの強みを発揮して、いまだ動画サービスとは綱引きの状態を保っている。最新の2016~2017年シーズンの新番組の特徴は、ヒット映画のドラマ化、ヒットシリーズの復活やリブート、人気シリーズのフランチャイズの拡大にアメコミの映像化と、知名度をフル活用したラインナップ。一見するとネタ不足とも取られるが(実際にそれもある)、地上波のCBS、ABC、FOX、NBC、The CW の5社は再放送枠を減らし、オリジナル番組、特に1時間枠のドラマの新作の本数を増やし、制作費を高騰させて新たな戦略に打って出ている。これは国内の収益以上にワールドワイドの市場を徹底的にねらったもので、例えば今期トップクラスの人気を誇る「ブラインドスポット(原題) / Blindspot」は、その代表格。シーズン1で約5,900万ドル(約70億8,000円 1ドル120円計算)という制作費は、同局のドラマ部門では過去最高額を記録している。同時に、外部の制作会社を極力使わない自社制作を増やし、コストを抑えることができるカナダなどに流出していたプロジェクトをロサンゼルスに呼び戻している(「スーパーガール」など)。番組が当たればテレビ局にとっての利益は大きく、動画サービスに配信権などが買われた場合も自社制作なら利益は丸々テレビ局のものとなるからだ。もっとも、ハイリスク、ハイリターンの法則なのでどこまで結果につながるかはわからないが、地上波は地上波にしかできないマスを相手にしたコンテンツ作りで動画サービスに対抗している。対して、HBOやShowtime、FX、AMCなどは密でエッジの効いた作風を追求しており、ややケーブル局寄りではあるが重すぎないイッキ見路線を行く動画サービスのオリジナル番組とうまくバランスを取る形となれれば、共存していけるかもしれない。

Netflixはコンテンツに50億ドル

 今年、Netflixはオリジナル番組とライセンス獲得の両方におけるコンテンツの調達に50億ドル(約6,000億円)を費やすことを発表して、その額の大きさが業界で物議を醸している。しかし、蓄積されていくコンテンツこそが財産であるNetflixからすれば、世界190か国もの地域でサービスを展開していることを考えても、それぐらいの投資は無謀とは言えないだろう。新規会員獲得のためには巨費を投じた新番組は必須だが、一方でネットワークの人気シリーズの配信権を買い付けることは、日本のNetflixのラインナップを見てもわかるように海外ドラマファンにとってはとりわけ魅力的だ。FXの「ジ・アメリカンズ」など、秀作だが放送もDVD化もされずに視聴できなかった作品を気軽に観ることができるのはありがたい。これはHulu、Amazonプライム・ビデオにも言えることだが、基本的には世界同時配信であるオリジナル番組以外のコンテンツに世界各国の番組、ローカルプロダクションをタイムラグが少なく視聴できることもまた魅力である。もちろんアメリカで起きていることをそのまま日本に置き換えることはできないが、観たい時に好きなスタイルで観たいものを観ることが可能な動画サービスは、日本でもテレビのあり方を変えつつある。

全米俳優組合(SAG)賞の映画部門の助演男優賞を受賞した映画『ビースト・オブ・ノー・ネーション(原題)/ Beasts of No Nation』のイドリス・エルバ / Christopher Polk / Getty Images

映画業界にも進出する動画サービス

 さらに動画サービスは映画業界をも脅かす存在になっている。既にインディー映画の製作・配給は、HBOや動画サービスにその役割をスイッチしていると見られており、NetflixやAmazonは、次に狙うのはアカデミー賞だと明言している。先日、イドリス・エルバが先日の全米俳優組合(SAG)賞の映画部門の助演男優賞を受賞した映画『ビースト・オブ・ノー・ネーション(原題)/ Beasts of No Nation』(劇場公開と配信日が同日)は、今年から本格的に映画配給&配信に力を入れるNetflixの作品だ。Netflixは今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門に2作品がノミネートされている。さらに今年は、自身の制作会社プランBを率いるブラッド・ピット主演の映画『ウォー・マシン(原題)/ War Machine』など期待作が控えている。一方のAmazonは、昨年12月に公開されたスパイク・リー監督の『シャイ・ラック(原題) / Chi-Raq』で映画製作に参入し、年明けにはジム・ジャームッシュ監督がアダム・ドライバー主演作のほか映画に力を注ぐことを発表した。また、今年1月に開催されたサンダンス映画祭では、AmazonとNetflixの作品が存在感を発揮したことが話題を呼んだ。テレビ業界で起きた変革は、映画業界でも起こりつつある。テレビかネットか、映画かテレビか、ネットか映画かといった区別の仕方が通用しない時代に突入しているのだ。

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