『浅田家!』中野量太監督、エンタメ作品で3.11を描く不安と覚悟

3.11パートに登場する北村有起哉と菅田将暉
3.11パートに登場する北村有起哉と菅田将暉 - (C) 2020「浅田家!」製作委員会

 映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)で数多くの映画賞に輝いた中野量太監督。これまで“家族”をテーマにさまざまな物語を紡ぎ出してきた中野監督が、最新作『浅田家!』(公開中)のモデルとなった浅田家の人々や、被災地の人々への取材を通して感じたことについて語った。

『浅田家!』二宮和也、妻夫木聡、菅田将暉らの舞台裏ショット!

映画の“浅田家”を作り上げる過程

浅田家
(C) 2020「浅田家!」製作委員会

 原案となったのは、写真家・浅田政志の「浅田家」「アルバムのチカラ」という2冊の写真集。「家族がなりたかったもの」「家族でやってみたいこと」をテーマにしたユニークな家族写真がまとめられた写真集を見た中野監督は、その面白さに惹かれると共に「絶対にドラマがある。家族が一緒になってコスプレをするなんて、ここにドラマがないわけがない」と確信したという。

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 “家族”というテーマ自体は中野作品に共通するものだが、一口に家族と言ってもその形は各家庭によってさまざま。今回、浅田家を取材するうちに監督の目に魅力的に映ったのは、浅田家ならではユニークさと根底にある“お互いを思いあう気持ち”だった。

 「最初は『どんな面白い家族なんだろう?』って思っていたんです。実際、取材をしても面白いんですよ。でも不思議なことに、話せば話すほど普通なんです。何で家族写真を撮るのかっていったら、ご両親は子どものためだっていうんですよ。一方、子どもは親が喜ぶからやる。お兄さんに『何でやるんですか?』って聞いたら、『超面倒くさいし恥ずかしいけど、でも親がやっぱり喜ぶから』って言うんですよ。いろいろとハチャメチャだけど、心の芯の部分は誰よりも真っ当な家族で。今回はそこをぶらしちゃいけない、観てる人に『へー、こんな変わった家族なんだ』と思われたらアウトだと思いました。『こんな変わった家族だけど、僕らと一緒なんだな』そう思ってもらえるように作っていこうと思いました」

 二宮和也妻夫木聡ら浅田家キャストの“家族感”を作り上げるため、監督は家族キャストの撮影にあたって、劇中でも登場する家族写真を撮ることから始めた。基になった十数枚の家族写真を完璧に再現するべく、一緒に苦労して笑いながら写真撮影をすれば、その間にキャストは浅田家になれるはず……中野監督の狙いは見事に的中したそうで、「みんなワイワイ言いながら、十数枚を2・3日かけて撮って。そしたらもうみんな完全に家族でした」と振り返る。

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 一番最初に家族キャストが集結して撮影したのは、消防士の写真のシーンだった。「消防士さんたちにも協力していただいて、みんな嬉しそうでしたよ(笑)。実際に消防車に触って、乗れるなんて今でも光栄じゃないですか(笑)」。家族写真の撮影はモデルとなった原案の浅田が担当したそうで、中野監督は「浅田さんが撮ってくれたやつを、こういう風に撮れたよってその場で見せてくれるんですよ。すると、撮られている方も『おお~!』ってなるじゃないですか」と撮影現場の温かな雰囲気を明かした。

3.11を描く覚悟

中野量太監督

 中野監督がメガホンを取るきっかけとなったもう一つの要因は、東日本大震災で泥だらけになった写真を洗浄して返却する作業を行った人々を取材した「アルバムのチカラ」にあった。

 「3.11をいつかどうにかして描きたいと思っていたけど、それまではできなかったんです。僕の作風というか、最後は前向きに明るい映画を作りたいんだけど、(3.11を描くとなると)やっぱりそれができなかったんですね。どうやっていいかわからなかった。でも今回浅田ファミリーと出会って、浅田さんが実際に東北で経験したことなので、彼を通してなら初めて3.11もちゃんと描けるんじゃないかなと思ったんです。浅田政志っていうユニークな人と家族を通してっていうことと、それにプラス、知らないことを伝えるのも映画の仕事だと思っているので、写真洗浄を映画にして知らせることは意味があると思えたこと。その二つが合致したのでやろうと思ったんです」

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 本作の監督をする決心をしたものの、3.11パートを描くにあたって中野監督は「今回、絶対エンターテインメント作品にしようと思っていたんです。それは単に笑えるとかではなくて、ちゃんと映画として観て『あぁ面白かったな』ってものにしたいという意味で。でも、3.11を描いてそれをやるのは結構勝負だし、どっか怖い部分もあったんです」と不安も抱えていたことを告白する。

 そんな監督の不安を吹き飛ばしたのは、東北の人々への取材だった。「やっぱり取材が大事なんです」としみじみと口にする中野監督は、東北の人々の前向きな姿勢が印象的だったと語る。

 「取材をしてみたら、もちろん心の奥に傷を持っているけど、僕らが思っているより全然明るくて、みんなが前を向いていたんです。これはもう描いていいし、この人たちにちゃんと恥ずかしくなく見せられる映画を真摯に撮ろう、と。そこで完全に吹っ切れました。ちゃんとエンタメにして届けようと思えたのは取材があったからだし、取材から生まれたエピソードもたくさんあるんです。北村有起哉さん(演じる被災者)の娘の写真のエピソードも実話で。政志に家族写真を依頼する少女・莉子だけはフィクションなんですが、それも結局いろんな人を取材したからこそ生まれたキャラクターなので、フィクションだけどちゃんと息をしているというか。本当に取材できて良かったです」

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 「これを撮っている時は、こんな世の中になるとは思ってなかったけど、でも、これからもいろいろな自然災害とか、困難な時代が来るのはわかっていたじゃないですか。だからそういう苦しい現実の中で、希望になるような映画を撮りたいなと思っていたので、今観るべき映画が、今観てほしい映画ができてるって自分では思っているんです」と自信をのぞかせる。その言葉通り、中野監督らしいユーモラスかつ温かなタッチで描かれた主人公・政志の姿は、大変な日々のなかで疲れた心に希望をもたらしてくれるはずだ。(編集部・吉田唯)

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