細田守監督&ミュージシャン中村佳穂「巧いを超えた何か」を目指して 『竜とそばかすの姫』アフレコ秘話

細田守監督&中村佳穂
細田守監督&中村佳穂 - 写真:島田香

 細田守監督の新作アニメーション映画『竜とそばかすの姫』(7月16日公開)で主人公の女子高生すず/歌姫ベルの声に決定したミュージシャンの中村佳穂。演技未経験、声優初挑戦にしてオーディションで類まれな表現力を発揮し、細田監督を魅了したという。細田監督が中村を抜擢した理由、中村が未知のフィールドに飛び込んだ経緯を語った。

【動画】細田監督を魅了した中村佳穂の「そのいのち」

 2人の出会いは、2019年7月のこと。「中村佳穂というすごい人がいる」という話を聞いた細田監督が、京都をベースに活動していた中村のある1曲に感銘を受け、ちょうどその頃奈良で行われた靴屋「NAOT NARA」の4周年記念ライブに駆けつけることとなった。「中村さんの『そのいのち』 という曲を聴いて『わあ、すごい!』と。ライブは折坂悠太くんと対バンで、すごく良くて……。お店の人の計らいで打ち上げにも参加させてもらって深夜2時ぐらいまで飲んだんですよね」。そう懐かしそうに振り返る細田監督に、中村は「靴屋さんの中で行われた30、40人ぐらいの小さなライブだったんですが、来てくださってうれしかったです」と恐縮する。

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 そんな中村が主役の声を務める『竜とそばかすの姫』は、高知の田舎町で父とふたりで暮らす17歳の女子高生すずが、50億人以上が集う超巨大インターネット仮想世界<U>で大切な存在を見つけ、成長していく物語。母の死をきっかけに歌うことができなくなっていたすずが、<U>に歌姫「ベル」として参加し、その歌声でたちまち世界に注目される存在になっていく。中村は、本作で初めて声優に挑んだ心境を以下のように語る。

 「誤解を恐れずに言いますと、わたしは何事においても自分がやらせていただく意味があるのかと冷静に考える癖があります。例えばイベントに呼ばれたとしたら、なぜそこでわたしの歌を望まれているのか、ということをきちんと納得したいんです。なので、この映画のオーディションの結果をいただいたときはすごく驚きましたし、うれしかったのですが、同時になぜ監督はわたしを呼んでくださったのか、その理由を知りたい気持ちがありました。その後に絵コンテを拝見する機会があったんですけど、そこから伝わってくる細田監督の作品に対する執念に感動してしまって。声優の経験はないので、もしかしたらお門違いになってしまうかもしれないけど、この執念に応える機会をいただけるのはとても光栄なことだと思い、本作に参加させていただきました」

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 オーディションでは、中村の予想を上回る表現力に驚いたという細田監督。「今回の役はすずという普通の女子高生、そのアバターであるベルという歌姫、さらに歌唱の場面もある。その三つをこなせるのは誰だろうと。中村さんは、歌の表現力があるのは当然わかっていたんだけど芝居については未知数で。だけど、原稿を読んでもらったら『この人だ!』と。それから1か月ぐらいスタッフの間で話し合って、オファーさせていただきました」

 そう細田監督が衝撃を受けた中村だが、アフレコへのアプローチも独特のもので、すずの時には「ヒールの低い靴」を、歌姫ベルの時には「ハイヒール」を履いて行ったのだという。「例えばアバターが筋肉モリモリのキャラクターだったら性格も果たして変わるのか? と考えた時に実際にやってみないとわからないなと。ベルは美しく、皆の憧れの的でもあるという設定をふまえたときに、想像力を巡らすというより、衣服に引っ張ってもらおうと。それで自分に合って、なおかつ自分とはちょっと違うと思えるような靴をいくつか用意して、すずとベル、その都度履き替えてアフレコを行っていました。細田監督が一緒に探してくださる感覚もありました。すずはこう、ベルはこう、というのではなく、すず&ベルはもっとこうあるべきかもしれない、というふうに」

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 そんな中村の発想に細田監督も「とてもいいアプローチだと思う。それは中村さんがミュージシャンとして歌っているときも同じなんじゃないかと。ライブでもセットリストによって衣装が変わることだって、きっとありますよね」と興味津々。「人間にはいくつもレイヤーがあって、話す相手によって無意識にしゃべり方や性格も違ってきたりする。この映画は、田舎の高校生すずと世界の中心で歌うベル、全く別人の二人が同じ人物だったら? という話なわけだから、どちらも本当と思わせる説得力が必要になるわけで、それは声色を変えるとか2人の人物を演じ分けるのとはちょっと違う気がして」

 一方、中村が劇中でベルとして歌う歌唱シーンも見どころ。millennium parade(ミレニアムパレード)の常田大希の作詞・作曲によるメインテーマ“U”をはじめ、4つの楽曲が登場する。ポイントとなるのは、中村佳穂としてではなくベルとして歌うことだった。中村は、歌唱シーンについて以下のように振り返る。「耳に自分がアフレコしたベルの声を記憶させてから、歌のレコーディングをするようにしていました。あまり『ベルだったらこう歌うのでは』『巧く歌わなくては』といったことを意識すると“頭”で歌うことになって、そうすると歌が心を打つものではなくなってしまう。ですから、これまでのミュージシャンとしての経験をふまえて、耳に覚えさせてあとは素直に歌う。そうするとベルが心から歌っている状態になるのではないかとアプローチしていました」

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 中村のアプローチに細田監督も「それむちゃくちゃいい話だね」と感銘を受けた様子。「確かに頭で考えたお芝居って、わかってしまうんだよね。訓練でやっている、類型的にやっているなとか。そういうものはあまり響かない。『巧い』で終わってしまうのではなく、『巧い』を超えた何かを僕らは目指さなくてはいけないわけだから、そういうつもりで中村さんがいてくれたのは大きかったと思う」と中村の表現力を称えた。(取材・文:編集部 石井百合子)

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