役所広司「夢を諦めた人も…」　コロナ禍のエンタメ業界で前を向く

　俳優の役所広司が、第13回TAMA映画賞・最優秀男優賞を受賞し、21日に府中の森芸術劇場どりーむホールで行われた授賞式に出席。自身の今後の夢を語りつつ、コロナ禍で厳しいエンタメ業界に力強い言葉を残した。

【写真】村架純、伊藤万理華、尾野真千子ら美の競演　第13回TAMA映画賞授賞式

　『すばらしき世界』『バイプレイヤーズ～もしも100人の名脇役が映画を作ったら～』、そして声優を務めたアニメ『竜とそばかすの姫』での演技が評価され、同賞を受賞した役所。なかでも『すばらしき世界』において「主人公の美しさ、暗さと人生の深遠を、愛らしさを覗かせつつ描き、観客に切なさ、虚しさを掻き立てた」と評価理由が述べられると「僕は（監督を務めた）西川美和監督の作品が好きでコメントなども書いていたのですが、ようやくお声を掛けていただけました」と感無量の表情。

　『すばらしき世界』は、『ゆれる』『永い言い訳』などの西川美和監督が、佐木隆三の小説「身分帳」を原案に描いた人間ドラマ。役所は、実在の人物をモデルに13年の刑期を終えた元殺人犯を演じた。

　役所は「西川監督のもとに集まったスタッフ、キャストは素晴らしく、本当にいいチームでした」と作品に関係するすべての人を労い、「細田（守）監督のアニメーションと、『バイプレイヤーズ』の役所広司役も後押しをしてくれたと思います。さらにこうやって映画を観てくださったお客さんのおかげで、素敵な賞をいただけたこと感謝しています」と頭を下げた。

　2020年、世界中に広がった新型コロナウイルスの猛威。役所は「2021年に仕事をしたのは、全部2020年に中止になった作品なんです」と現状を報告すると「今も撮影中なのですが、当初の撮影時期から1年半も延期になるとスタッフも変わるんです。話を聞くと、映画を志したたくさんのスタッフや俳優さんも、コロナ禍で夢を諦めたという人もいたようです。今ようやく少しずつ動き出しています。まだまだ不自由な撮影が続きますが、みんなが帰ってこられるように頑張りたいです」と自らを鼓舞して映画界を盛り上げることを誓っていた。

　そんな役所には夢があるという。「若いころ、火野正平さんとお酒を飲みながら『70歳ぐらいになったらロードムービーを撮りたいね』って話していたんです」と切り出すと「耳の聞こえないお爺さんと、目が見えないお爺さんが住むアパートに怪しい大金が転がり込んできて、日本中を旅するんです」とプランを明かす。デヴィッド・リンチ監督の『ストレイト・ストーリー』（1999）のイメージだと言い、「せっかく爺さんになってきたのだから、いつかそういう作品をやりたいですね」と未来に思いを馳せる。

　最後に「日本には大小にかかわらず、たくさんの映画祭があります。映画を支えてくれているのは、映画祭の存在なんです。大変な苦労もあると思いますが、これからも映画を守っていただけると幸せです」と、主催者に感謝と期待を伝えた。

　TAMA映画賞は、多摩市および近郊の市民からなる実行委員が、明日への元気を与えてくれる・夢を見せてくれる活力溢れる「いきのいい」作品・監督・俳優を、映画ファンの立場から感謝をこめて表彰するイベント。（磯部正和）