ADVERTISEMENT

東出昌大、1日6食で18キロ増量 夭折の天才プログラマーと向き合った日々

東出昌大
東出昌大

 42歳の若さで亡くなった天才プログラマー、金子勇さんの実話に基づく映画『Winny』(3月10日公開)で金子さんを演じた東出昌大が、約18キロもの増量を経た役づくりや当初のセリフから変更されたクライマックスの法廷シーン、役者人生の中で初めて体験した“憑依”の瞬間までを振り返った。

【画像】『Winny』で18キロ増量の東出昌大

事件の全容を知るまでは金子さんに懐疑的だった

 本作は、ファイルを簡単に共有できるソフト「Winny」を開発し試用版を「2ちゃんねる」に公開した金子さんが、2004年に著作権法違反幇助の容疑で逮捕された経緯と、彼の弁護団が逮捕に対する不当性を訴えて警察・検察側と全面対決した裁判の行方を描いた物語。東出と三浦貴大がダブル主演を務め、三浦が金子さんの弁護を引き受けた壇俊光弁護士を演じた。メガホンをとったのは、2008年の秋葉原通り魔事件を題材にした『Noise』や、ネグレクトされた少年の受難を描く『ぜんぶ、ボクのせい』などで注目を浴びた松本優作。東出は出演オファーを受けた当時、事件のことを知らず、初めは金子さんに対して懐疑的だったという。

ADVERTISEMENT

 「本当に自分の無知を恥じるんですけど、事件の全容を把握するまでは金子さんがソフトを違法に使われることをどこかでわかりながら作っていたんじゃないかと疑念を抱いていました。ところが、実際は全く違った。壇先生が事件のことを書かれた著書(『Winny 天才プログラマー金子勇との7年半』)を拝読し、壇先生、松本監督、脚本の岸(建太朗)さんにもお会いしてお話しするうちに、金子さんが本当の天才だったんだと。それまで金子さんに抱いていたイメージと実像がかけ離れていたことに衝撃を受け、のめりこんでいった感じです。金子さんは誰も登ったことのない頂に登りたかった人。その精神を知った時にこの素晴らしい人を演じるということは僕の人生にも影響を与えてくれるのではないか、と思いました」

プロの協力のもと18キロの増量

映画『Winny』より東出昌大演じる金子勇さん(C) 2023 映画「Winny」製作委員会

 2021年に公開された『BLUE/ブルー』では天才ボクサーを演じるためにボクシングを始め、撮影から2年経ってもなお続行するなど、役にのめりこむことで知られる東出。本作では金子さんの容姿に近づくため18キロ増量の肉体改造に挑んだが、「なぜそこまで?」と問うと「金子さんに『なりたい』一心でした」とシンプルな答え。

 増量を決意したものの実践するにはプロの助けを借りたという。「まず整腸剤とビタミン剤を飲んで、一日に6食とるんです。メニューは主に玄米と卵とブロッコリーと鶏肉。例えばファストフードとかヘビーなものだと胃が疲れて6食は無理なので。あとは生卵を飲んだり、ゆで卵を食べたり。撮影中も、一日仕事をすると体重が落ちてしまうのでプロテインを飲んだりしてキープしていました」と増量の過程を振り返るが、「でも体重を増やしたり減らしたりすることは自分にとって特別なことではなく、役をつくるうえでは金子さんのメガネや腕時計などの遺品をお借りできたこと、ご家族のお話を伺えたことの方が重要でした」と打ち明けた。

ADVERTISEMENT

最も難関だったシーン

映画『Winny』より法廷シーン(C) 2023 映画「Winny」製作委員会

 クランクイン前には肉体面のアプローチのみならず、金子さんの人物像を知るための取材を重ねた。金子さんの2ちゃんねるへの書き込みや膨大な裁判記録に目を通し、金子さんの生家跡や少年時代に通っていた電器店を訪ね、当時の金子さんの胸中に想像を巡らせた。そうしたアプローチを経て肌で感じたのが、金子さんを知る人々が「みんな金子さんのことが好きだった」ということ。

「“少年のようだった”とか“ちょっと天然なところがある”とか。金子さんのことを話すときに皆さんすごく嬉々とされるので、愛情を傾けてもらえる人だったんだなあと。それが金子さんを演じる一番のヒントだったかもしれないです」

 そのほか、壇弁護士の協力のもと模擬裁判も行ったという。「三浦貴大さんも一緒だったのですが壇先生が裁判でのやりとりを実際にしゃべって、それを僕らが見て学ぶ。“こういうとき金子さんはどんなご様子でしたか?”“腕を組んで揺れていたよ”といった風です。壇先生と飲みをご一緒して、金子さんへの想い、事件への想いを伺ったりもしました」

ADVERTISEMENT

 撮影において東出にとって最も難関となったのが、金子さんが裁判で最終意見陳述を行うシーン。ここでは東出の提案により、実際に金子さんと壇弁護士が考案した文章を使用したという。「初めは別のセリフが用意されていたのですが、裁判記録を読ませていただき、絶対この言葉を使うべきだと監督に提案させていただきました。このシーンは映画の肝になるという気負いもあって難しかったです。セリフを話すお芝居はできて当たり前ですが、感情が乗っかるとか憑依する“ゾーン”みたいな瞬間は偶然にだったり、気負いがない瞬間に生まれるものだったりするので。ここの精神コントロールが一番難しいなと思います」と悩まし気に振り返る。

俳優人生で初めて体験した“憑依”の瞬間

 ところで、この“憑依”を味わった初めての作品が、やはり実在の人物を演じた2016年公開の映画『聖の青春』だったという。29歳の若さでこの世を去った天才棋士・村山聖さんの生涯を追った作品で、東出は棋士の羽生善治さんを演じた。1996年に羽生さんが史上初のタイトル七冠を達成したときに実際にかけていたメガネを譲り受け、クセや仕草、居住まいまでを体現した。

 「いわゆる“憑依”を感じた初めての経験が『聖の青春』の最後の対局シーンでした。3時間長まわしで撮影を行いました。棋譜をすべて覚える作業はありましたが、将棋の手というのはすべて対話なんです。“あなたがそうきたのなら僕はこうします”という。松山ケンイチさん演じる聖と指しているときに、涙が止まらなくなってしまったことがあって。もちろん羽生さんは対局中に泣きませんが、感情がどうしようもなくなる瞬間がありました」

 本作でもそういった瞬間があり、「法廷のシーンでは壇先生とお姉様がいらっしゃって、僕の姿を見て『弟がいる』と言ってくださったので、それはうれしかったですね」と忘れがたい出来事を打ち明けると共に、「こういう天才がいたということは知っていただきたいですし、技術、正義、革新、そして人を考える、あるいは知る一助になれたら」と思いを込めた。(取材・文:編集部 石井百合子)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT

おすすめ映画

ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT