272キロの男をどう演じたか…『ハムナプトラ』俳優が語る
映画『ザ・ホエール』で主演を務めたブレンダン・フレイザー（『ハムナプトラ』シリーズ）が来日し、体重272キロの男という役柄にどう挑んだかを明かした。本作は、ゲイの恋人を選んで家族を捨て、その恋人の死後、贖罪するかのように暴飲暴食を繰り返して重度の肥満症となったチャーリーの物語だ。ブレンダンの熱演とあまりに自然な特殊メイクの技術が評価され、第95回アカデミー賞では主演男優賞とメイク・ヘアスタイリング賞の2冠に輝いている。
役づくりでは、肥満症の人々と家族の支援団体 Obesity Action Coalition の協力を仰いだというブレンダン。「彼らのより大きな目的は、肥満症の人々に対する偏見を終わらせることなんだ。本作は、見た目だけでいかに簡単に人を見下せてしまうのかを描いた物語。それはアメリカのみならず、世界のどこでだって起きている。僕たちはこうした物語が、このようなやり方でスクリーンで語られるのを今まで観たことがなかった。僕たちは、このキャラクターを、特殊メイクを使って誠実に生み出せたことを誇りに思っているよ。リサーチを通じて、彼らが抱えている健康面と感情面の問題を理解できたんだ」
実際に肥満症の人々に話を聞くなかで、興味深く、悲しい事実を知ることにもなった。「彼らにはまだ小さい頃、大人、親、先生、いじめっ子によって、自分をみじめだと思わされていたという共通点があったんだ。そしてそれは、彼らが恥の意識を持ったり自分自身を非難したりするようになるまで続いた」。自身の経験を基に本作を手掛けた原案・脚本のサミュエル・D・ハンターの場合は、その痛みを食べることで和らげようとしており、こうして精神と健康を害する負のサイクルにとらわれてしまう人が多いのだという。
「僕たちが互いについて言うことが、体の健康に甚大な影響を与えるんだ。子供の自信を奪うことなんて誰もしたくないと思うが、僕たちの話し方によっては実際に害を及ぼすこともある。だから伝えたいのは、“寛容であれ”ということ。それは僕にとって、チャーリーが何者かを理解するのにとても役立った。彼は肥満症の男というだけでなく、教育者で、恋人で、父親で、メンター。単なる見た目ではわからないことだらけなんだ」
しかし、チャーリーは聖人ではない。ブレンダンは彼のダークな部分も恐れることなく表現している。「彼は後悔を抱えていて、もし過去に戻れるならそれを正すだろう。だけど、そんなことは誰にもできない。つまり彼は、まさにダーレン・アロノフスキー監督の映画の世界の住人というべき、とても人間らしいキャラクターなんだ。彼の映画は常に、僕たちが目をそらすことを選ぶかもしれない茨の人生を描いてきた。そしてこの映画は、観客に“目を向けろ”と挑むものなんだ。たとえ、観客が望まなくてもね。だけど、この映画を観る前に信じていたことは、物語が終わる頃には、完全には変わらないにしても、高い確率で考え直すことになるはずだと約束するよ」
ブレンダンは肥満症の人々についてのリサーチを進めつつ、3週間のリハーサルも同時に行っていた。「長期のリハーサルは映画では珍しいことなんだけど、これはダーレンの要求でね。劇が原作だから、僕たちは舞台のリハーサルと同じやり方で本作にも取り組んだんだ。床に立ち位置のテープを貼り、小道具を並べ、俳優たちは互いのシーンを観ながら、という風に。『ザ・ホエール』のとてもいいオフブロードウェイ劇ができる準備すら整ったって、僕たちはとても誇りに思ったよ」と顔をほころばせたブレンダン。
「だから映画のセットに入る頃には、僕たちはとても自信に満ちていた。なぜなら僕たちはすでに、全ての発見もミスもしていたし、互いに絆で結ばれていたから。だからカメラの前で演じる頃には、自分たちが何をやっているかがすでにはっきりわかっていた。それは素晴らしかった。だから今回のことで僕が学んだのは、準備がいかに大切か、かな。そしてとてもいい仕事をすれば、結果が得られる」と充実感に満ちた表情で語っていた。（編集部・市川遥）
映画『ザ・ホエール』は公開中
