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ティモシー・シャラメ、ボブ・ディランが観なくても驚かない 伝記映画『名もなき者』にかけた5年

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のティモシー・シャラメ
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のティモシー・シャラメ - (C)2025 Searchlight Pictures.

 ティモシー・シャラメが伝説のミュージシャン、ボブ・ディランを演じたジェームズ・マンゴールド監督作『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』がいよいよ公開。シャラメがすべての曲を生演奏してディランになりきり、『君の名前で僕を呼んで』に続いて、2度目のアカデミー賞主演男優賞候補になっている本作は、作品賞や助演男優賞(エドワード・ノートン)、助演女優賞(モニカ・バルバロ)など計8部門でノミネートされ、高い評価を得ている。今ハリウッドでもっとも注目される若手であるシャラメが、全米公開前の記者会見で、役づくりやディランに対する熱い思いを語った。

【画像】自転車で『名もなき者』プレミアに登場したシャラメ

 1961年、故郷のミネソタからニューヨークにやって来た19歳のボブ・ディランは、憧れの伝説的歌手ウディ・ガスリーの見舞いに行き、そこでフォークシンガーのピート・シーガー(ノートン)に出会う。シーガーの後押しもあり、フォークシンガーとして一躍有名になるディランだが、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルで、周囲の反対を押し切って、エレクトリック・ロックンロール・パフォーマンスを披露し、論争を巻き起こす。

 シャラメが今作の話を持ちかけられたのは約5年前。トロント国際映画祭で、『フォードvsフェラーリ』(2019)のプレミア上映をしていたマンゴールド監督から話をされた時は、ディランのことをほとんど知らなかったという。

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 ディランとの初めての出会いを訊かれ、「父の友人のラリーが、ボブ・ディランに夢中で、彼のアパートに大きな白黒のポートレート写真が飾ってあったのがとても印象的でした」と答えたシャラメ。役づくりのために、ディランの世界にどっぷり浸ることになり、自分の血の一部のように感じられる「風に吹かれて」や「時代は変る」が、実はこの素晴らしい詩人によって書かれたことに気づいたと言う。

 「ある時点でリサーチをリサーチだと感じなくなり、オブセッション(憑依)になりました。そしてそれは今も続いています。コロナ禍の前と最中、その後と5年も時間があったので、その経験を心から味わうことができました。ボブの生まれ育ったミネソタ州のヒビングとダルースを訪れ、彼がどのように成長したかを感じ取ることができたんです」。

 劇中には、ディランの歌唱シーンが数多く登場し、ギターやハーモニカまで、あまりにも上手なシャラメの演奏に驚かされる。「僕はすでにニューヨークでギターのレッスンを受け始めていました。高校時代にはミュージカル・シアターの経験がありましたが、今でも自分がシンガーだと言えるかどうかわかりません。ただひたすら歌に打ち込んだんです。そして彼の音楽を深く愛するようになりました。彼の音楽は親しみやすく、過去数十年にわたって大成功を収めてきた一方で、深く詩的で、感情的で壮大です。学ぶべき最高のアーティストでミュージシャンなんです」と絶賛するシャラメは、ディランの曲の素晴らしさは、時代を超越していることにあると言う。

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(C)2025 Searchlight Pictures.

 「『風に吹かれて』や『時代は変る』には、ある意味、その時代を象徴するような特定の文化的背景はありません。これらの曲は常に存在し、真実なんです。今日に至るまで、新しい耳にも受け入れられ、聴かれ続けています。現在に関連しながらも、前進する道を指し示し、光を照らし続けているんです」。

 1960年代が舞台となる今作を撮影中、シャラメは、出来るだけ時代に忠実に演じるために、現代のものを避けていたという。そのエピソードだけで、彼がどれほどこの役に入れ込んでいたかがわかる。「撮影現場にいる時は、携帯電話や現代的な意義や価値のあるものは一切使わないようにしていました。そして、シーンとシーンの合間には、ジャック・ケルアックの本や当時のものを読んだり、ジャーナルを書いたりしました。僕たちみんなが犠牲になっている現代の習慣に陥らないようにしていたんです」。

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 マンゴールド監督とは、脚本の段階から、どの曲を入れるかなども含めて常に話し合いをしたというが、全幅の信頼を寄せていた。「彼のように名声ある映画監督なら誰でも信頼するでしょう。特にジェームズは『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でホアキン・フェニックスを演出した。文字通りミュージシャンの伝記映画を監督した経験を持っていますからね」。

 ところで、脚本にも携わるマンゴールド監督は、ディランにも脚本を読んでもらったそうだが、シャラメ自身はやりとりしたことは全くなく、今作を観てくれるかもわからないという。「彼が映画を観てくれたら大興奮するでしょうね。とても光栄なことだと思います。でも、ボブはとても気まぐれでミステリアスな人だから、観なくても驚かないです。僕が聞いた噂ですけど、彼がマーティン・スコセッシ監督の(ディランについての)ドキュメンタリー映画『ノー・ディレクション・ホーム』(2005)を観たかもわからないそうですよ」とほほ笑んだ。

 シーガー役のノートン、ジョーン・バエズ役のモニカの歌声も素晴らしく、ディランの恋人役のエル・ファニングも役にピッタリ。そのキャスト全員が、シャラメの役にかける献身ぶりに感銘を受けたと話していたが、ディランが今作を観たらどう思うのか、ぜひ聞いてみたいものだ。(吉川優子 / Yuko Yoshikawa)

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