池松壮亮、上京時に観た伝説の映画『クー嶺街少年殺人事件』の影響力語る

俳優の池松壮亮が13日、シネマート新宿で行われたエドワード・ヤン監督の『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991※クーは「牛」へんに古)トークイベントに出席。池松は、ヤン監督の影響について「言葉にするのは難しい」と言いつつ「映画を一番知りたい時期に、映画をいろいろ教えてもらったつもりでいる感じの存在」と語っていた。
本イベントは、エドワード・ヤン監督の『カップルズ』(1996)4Kレストア版の公開を記念して行われたもの。『クー嶺街少年殺人事件』は、1961年に台北で起きた、14歳の少年によるガールフレンド殺人事件をモチーフにした青春ストーリー。1960年代初頭、エルヴィス・プレスリーに憧れるごく普通の少年たちの心情や、事件に至るまでの機微を描いている。
池松は1990年生まれ。日本で1992年に公開された『クー嶺街少年殺人事件』は当然のことながらリアルタイムではない。初めて触れたのは、池松が日本大学芸術学部に入学し、上京したときのこと。当時幻と呼ばれていたVHSで観たという。池松は「どういう経緯でたどり着いたのか覚えていませんが、当時伝説になっていたこの作品が、なぜそう言われているのか知りたかったんだと思います」と振り返る。
借りてきたVHSテープは「画質が悪すぎて、ほぼ何も見えなかった」というが、池松は「4時間の作品ですが2回観たんです。でも何が映っているのかも把握できず、字幕を読むことも厳しい状況で、正直印象は、ほぼなかった」という。その後、2017年にデジタルリマスター版として再上映された際、再度鑑賞し「ここまですごい映画だったんだとやっとわかった気がします。青春、民族対立、社会など、あの時代の台湾がすべて映っている。塗り替え続けられている歴史を切り取っているのに、果てしなく続く人生が描かれている」と思い至った。
池松は「いまだに『クー嶺街少年殺人事件』という映画をどう言葉にしていいのか分からない」と語りつつも「エドワード・ヤンやホウ・シャオシェンは映画を志したときから特別だった。自身をたどっていくと、この二人にたどり着くような気がします」とリスペクトを示していた。
「エドワード・ヤンから受けた影響は?」との問いに池松は「うーん……」と熟考し「勝手に遺伝子を受け継いでいるような感覚。映画を一番知りたい時期に、映画のことをいろいろと教えてもらったつもりでいる感じになっています。もし出会っていなかったら違っていただろうなと思うことがいろいろあります。観るたびに視点の高さが浮かび上がってくる」と回答し、思い入れの深さを伺わせた。
トークイベントには映画評論家の森直人も出席した。(磯部正和)


