リブート版『新幹線大爆破』樋口真嗣監督が描く“かっこいい鉄道人”の姿 運転台・指令所にもこだわり

1970年代を代表するパニック映画を『シン・ゴジラ』『日本沈没』の樋口真嗣監督がリブートした『新幹線大爆破』。犯人と鉄道人の息詰まる攻防戦をスペクタクルを交えて描いたエンターテインメント大作がNetflixで独占配信される。少年時代にオリジナル版を見て衝撃を受けたという樋口真嗣監督が、リブートへの強い思いやこだわり、特別協力で参加したJR東日本との連携など舞台裏を語った。(取材・文:神武団四郎)
【画像】草なぎ剛、のん、斎藤工が奮闘!Netflix『新幹線大爆破』場面写真(12枚)
JR東日本のコールセンターに、新青森発東京行きのはやぶさ60号に爆弾を仕掛けたと電話が入った。新幹線の時速が100kmを下回れば爆弾は自動的に爆発するという。車掌の高市(草なぎ剛)や藤井(細田佳央太)、運転士の松本(のん)は、新幹線総合指令所の笠置総括指令長(斎藤工)の指示を仰ぎながら車内の混乱を抑えていたが、解決の糸口がつかめないままはやぶさは東京に迫っていった。
佐藤純彌監督の『新幹線大爆破』を「奇跡のような映画」だという樋口監督が、初めてこの映画を観たのは小学校4年生の時。シリアスな展開や旧国鉄職員が困難に挑む姿に心を奪われたという。映画界に進み『日本沈没』や『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』、『シン・ゴジラ』と伝説的作品をリブートしてきた樋口監督。いつか『新幹線大爆破』を撮りたいと思っていたのかと聞くと「そんな畏れ多いこと……」という返事。「でも、やってみませんかと声をかけてくる悪い人がいるんです(笑)。そう言われるとアイデアを考えはじめ、『面白くね? これ』とか思いつく自分がいたりします。映画作りは辛い作業ですが、大好きな作品に関われるのは、“こんな幸せなことはない”ってくらい楽しいんですよ」と嬉しそうにふり返る。

オリジナル版が公開されたのは今から50年前のこと。新幹線の車両やシステムはもちろん、交通インフラとしてのあり方も大きく変化した。新たに作るなら「なぜ新幹線なのか」から考える必要があるという。「令和に作る意味を見つけなければなりません。こういう事件が起きる意味や解決する理由を含め、話し合いながら作りました」という樋口監督は「殺さないこと」を前提にストーリーを考えたという。「まず乗客が死なないこと、それでもきちんと事件を解決させること。だけどしっかり爆発はさせるようにと考えました」。そして生み出されたのはリメイクとは一線を画す物語(リブート)。「どこかで枝分かれしたもうひとつの世界を作ることで、何かオリジナルと関連づけができたら面白いんじゃないかと考えたんです。アメリカではマルチバースを取り入れた作品が人気ですが、それもヒントになりました」

オリジナル版の鉄道人の姿に心動かされたという樋口監督のこだわりが光るのが、運転シーン。劇中では過酷な状況の中で、運転士が精神力とテクニックを試される運転シーンがスリリングな見せ場になっている。「運転台はセットですが、実際の運転用シミュレーターを借りて、その周りに足りない部分を作って再現しています」と樋口監督。ミスが許されないミッションに挑む運転士を演じたのんの気迫ある演技も、緊張感を盛り上げた。「彼女の監督・主演作『Ribbon』をお手伝いしてからずっと仕事をしたいと思っていたので、まさに念願のキャスティングです」と樋口監督。指さし確認からレバーの操作まで、運転台での所作は実際の運転士が撮影現場で指導を行った。「どういう時にレバーをどの位置まで動かすかなど、細かく教えていただきました。少しでも勾配があるだけで同じレバー位置でもスピードがどんどん変わるので、精密な操作が必要です。停車する時も10cmの誤差も許されない正確さが求められるので、俺には絶対無理ですね(笑)」

もうひとつ樋口監督がこだわったのが、新幹線の運行状況を管理する新幹線総合指令所。オリジナル版では宇津井健さん演じる運転指令長が、運転士と息詰まるやりとりを繰り広げた最前線だ。今作では斎藤工が演じる総括指令長がここで事態解決に当たっている。「広い司令所の壁いっぱいの電光掲示板を、宇津井さんが双眼鏡で確認するシーンを絶対やりたかったんです。見学させていただいたらいまは自席のモニターで確認できるので双眼鏡を使っていませんでしたが、映画ではあえて使いました」
総合指令所は、1日数百本も走る新幹線を管理している場所。各新幹線は単体で走っているわけではない。「運転手が判断する自動車と違って一括で管理されています。線路で繋がった巨大なひとつの生き物のようで、『シン・ゴジラ』を経た人間からすると、ここだけでご飯10杯はいけるという(笑)。運行に関わっている人たちが働くかっこいい姿を見てほしい、そんな気持ちになりました」と製作における原動力も教えてくれた。
いよいよNetflixでの配信がスタートした『新幹線大爆破』。本作は樋口監督にとっては初めての配信映画だ。「映画は無事に完成しましたが、これまでとは違った緊張感がありますね。映画館であれば初日の舞台あいさつなどがありますが、配信だと初日にお客さんにどう届くのだろうという。今からドキドキしています(笑)」
Netflix映画『新幹線大爆破』は世界独占配信中
スタイリスト:三島和也(tatanca)