高橋一生&飯豊まりえ、互いにリスペクト 「いつも感嘆する」(高橋)「憧れる」(飯豊)

荒木飛呂彦の漫画「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズから生まれたスピンオフ漫画・小説を実写化する「岸辺露伴は動かない」シリーズ。2020年からドラマ4期9エピソード、映画版1作品が制作された。ドラマ第1作の放送から足掛け5年、原作漫画の1話目である「懺悔室」に基づく新作映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』が5月23日より公開される。新作が制作されるたびに、そのクオリティーの高さに感嘆するファンが続出するなか、妥協せずに作品に取り組んできた岸辺露伴役の高橋一生、そして露伴先生を斜めの角度から支える担当編集・泉京香役の飯豊まりえが、長く携わってきたからこその作品への思いや、俳優としての互いの魅力などを語り合った。(取材・文:磯部正和)
毎回、露伴の新しい一面が見えてくる

Q:第1話が放送された2020年から作品を重ねていくなか、岸辺露伴の人物像も徐々に変化しているように感じますが、『懺悔室』ではどんな露伴を表現しようと意識されていましたか?
高橋一生(以下、高橋):作品に入る前に原作や台本を読ませていただくなかで、これまでの作品と決定的に違うなと感じたのが、襲い掛かってくる怪異の原因というものが、人知を超えた何かというよりは、人が生み出したモノのような気がしたんです。それに対する露伴の向き合い方がこれまでとは違うな、というのは演じていて思いました。これまでは怪異に対して「のまれないように」ということが主眼だったような気がしていたのですが、本作では怪異と呼ばれるモノに対してしっかり拒絶している。その部分に関しては、これまでにないアプローチの仕方をしているのかなと思います。
Q:かなり感情的な部分も見え隠れするような露伴先生でした。
高橋:確かに演じていて、台本にまったく書かれていないようなこともしていました。それは自分の中である種、露伴が形を成し始めているんだなと思うぐらい。それはチームワークが醸成してきたこともあると思います。あとは、荒木飛呂彦先生が、変わらないスタンスで露伴を描き続けてくださったことも大きいような気がします。つまり漫画自体が、毎回新しい露伴の一面が見えてくるような作りであったので、僕の方も「こういう露伴もいるんだろう」と新たなアプローチをしやすい環境を作ってもらっていたような気がします。

Q:泉京香はドラマ、映画と実写シリーズを通じて登場していますが、飯豊さんは今回どんなことを意識しましたか?
飯豊まりえ(以下、飯豊):これまでの作品では、京香はいつも露伴先生に帯同する中で不思議な事件に巻き込まれているんですよね。だけど、今回はちょっと離れたところから巻き込んでいくところが、今までとは違うなと思いました。ただ今回も「幸せの絶頂に不幸がやってくる」という呪いにまつわる暗くて恐ろしい場面もあるのですが、京香はそのことに気づいていないので、露伴先生にとって明るく光のような存在でいるんですよね。京香は原作では出てこないので、そういう役割を与えていただけたのはとても嬉しかったです。
露伴と泉は“陰陽”の関係が最適解

Q:原作では1話完結で進むなか、実写シリーズでは縦軸として露伴と京香コンビの関係があります。本作では二人の距離感はどのように捉えましたか?
高橋:台本を読ませていただいたとき、(脚本の小林)靖子先生が冒頭の部分の二人のやり取りをはじめ、とても考えて書いてくださっているなと思いました。僕らが何か考えるよりも、靖子さんや監督の(渡辺)一貴さんが、すでにしっかりチューニングしてくださっているので安心して演じられたなという印象です。
飯豊:今回は序盤、京香は露伴先生と別行動なんですよね。その中で、偶然が重なって露伴先生に合流していくという流れがとても面白かったです。
高橋:やっぱり露伴と泉くんの関係は“陰陽”がないと成立しない。深く物事を考えて捉えることでがんじがらめになってしまう露伴に、それを打破する光を与えてくれるのが、露伴が毛嫌いしている泉くんというのが、この関係における最適解なんです。毎回それが、さまざまな形で出てくるのですが、今回も非常に面白い流れになっています。
飯豊:かみ合っていないのですが、物語全体として見るとかみ合っているんですよね。
高橋:これまでこの実写シリーズでは、原作準拠的な姿勢をとっていると思うのですが、しっかりと原作を踏襲しつつも、泉くんを創作として登場させるストーリーは、本当によく考えられた脚本だと思いました。
Q:脚本作りの段階で、小林さんや渡辺監督から意見を求められたり、相談されたりすることはあるのですか?
高橋:今回に関してはまったくなかったです。「順調に出来上がっています」とは聞いていたので、安心して完成を待っていました。
高橋一生&飯豊まりえ、互いの印象

Q:シリーズも約5年が経ちました。改めて俳優としてお互いどんなところをリスペクトしていますか?
高橋:今作でも改めて感じたのですが、どんな場所においても泉くんは泉くん、まりえくんはまりえくんだなと思いました。それがいい意味で作用している。この作品において、なかなかそこに立つとか、居ることって何かを加えてしまい、実は立てていないということが多くあると思うんです。もちろん、いろいろ考えているところはあると思うのですが、あまり陰な考えをせず前向きに飛び込んで行こうとしている姿勢は僕にはないところなので、いつも感嘆しています。
飯豊:今回のベネチアロケは、比較的狭い範囲で撮影が行われていたこともあって、自分の撮影がないときも、ほとんど見学に行っていたんです。いつもは一生さんの隣でお芝居をしているのですが、今回は撮影現場から俯瞰してお芝居を見ることができて。普段一緒に撮影しているときにはあまり余裕がなくて、見えなかった部分も感じることができました。一生さんってあまり努力しているところは見せないのですが、台本に書かれていないアイデアをしっかりスタッフさんと共有して、自然と立ち振る舞う姿を見ることができました。よく一貴さんが「一生さんがお芝居をしていると良すぎてカットがかけられない」と仰っているのですが、そこまでスタッフさんを感動させる俳優さんというのは、本当にカッコいいなと思うし憧れます。

Q:確かに高橋さんのお芝居は固唾を呑んで観てしまう没入感があります。
飯豊:今回見学していて、監督の気持ちが分かりました。わたしも「もう1回見たい!」って思ってしまいました。でも大体1回でオーケーが出ちゃうんです。カメラワークの問題などで、奇跡的に「もう1回」となったときには、1回目とは全然違う表情を見せてくださることもあって。スタッフさんたちが「カットをかけたくない」と言っている気持ちが分かりました。
高橋:ベネチアという場所が本当にこぢんまりとしていて、自分が休みのときも、どこか近くで撮影をしているんです。僕も現場を覗いてほかの人の撮影を見ると、自然とニヤニヤしてしまって……。(大東駿介演じる)水尾のポップコーン対決なんて最高でした。
漫画やアニメの実写化は数あれど、「岸辺露伴は動かない」シリーズほど、原作ファンから高い評価を受けている作品は他にはないのでは……と感じられるほど、原作をリスペクトしつつも実写化ならではの表現に感嘆するドラマは珍しい。そこには渡辺一貴監督をはじめとするスタッフ、そして主演・高橋一生が深めようとする作品への愛が溢れ出ているからなのだろう。最新作『岸辺露伴は動かない 懺悔室』にも唸らされるような瞬間が存分に活写されている。