『サンダーボルツ*』音楽に大友克洋『AKIRA』の影響 芸能山城組のサウンドに衝撃受ける

マーベル・スタジオ最新作『サンダーボルツ*』(全国公開中)の音楽には、大友克洋監督による名作SFアニメーション『AKIRA』(1988)の影響があるという。楽曲を手がけた音楽グループ「サン・ラックス(Son Lux)」(ライアン・ロット、イアン・チャン、ラフィーク・バーティア)が、本作のバーチャル記者会見で明かした。
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サン・ラックスは、ライアンのソロ・プロジェクトとして始動したグループ。2015年にイアンとラフィークを新メンバーに迎え入れ、実験的なサウンドを追求した楽曲を数多く手がけてきた。2022年には、A24のヒット作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の音楽で第95回アカデミー賞作曲賞にもノミネートされている。
メガホンを取ったジェイク・シュライアー監督は、登場人物の感情を表現する上で音楽を効果的に使用している。サン・ラックスは、劇伴を手がけるにあたって「変幻自在なテーマをつくる」ことを掲げていた。楽曲は参考資料や脚本を参考に、ポストプロダクションに入る前の早い段階から制作され、完成した楽曲が撮影現場で流れていたといい、サン・ラックスも普段とは違うプロセスを経験したという。
「このプロセスは、僕たち3人もジェイクも楽しい発見の連続でした。まずは深く考えず、脚本を頼りに『とにかく作ってみよう』という感じで、何十ものテーマ案をジェイクに送りました。するとジェイクが、核になる音を選んでくれて、映画の世界観の『音』を早い段階で確立することができたんです。最初の台本読み合わせの際には、ジェイクが僕たちが作ったテーマ曲をキャストに流してくれました。撮影の雰囲気そのものを、音で作っていたんです」

『サンダーボルツ*』の楽曲には、数多くの映画音楽を聴いてきたメンバー3人の原体験も反映されている。イアンは、若かりし頃に観た『AKIRA』を挙げ、民族音楽を主題にしたアーティストグループ・芸能山城組が生み出すサウンドを聴いて「初めて背筋がゾクッとした」と振り返る。さらに、「KANEDA」で使用された竹製の民族楽器・ジェゴグは、本作の楽曲に影響を与えていると語る。
「『AKIRA』で使われていた竹の打楽器の音色が、『サンダーボルツ*』の楽曲、特にパーカッシブな面で無意識に影響を与えていると思います。『AKIRA』のスコアへの愛が自分の中で染みついていて、自然と出てきたのかもしれません」(イアン)
『サンダーボルツ*』の音楽には、オーケストラによる派手なサウンドはもちろん、廃材の木の板やキッチン用品を活用した「家庭的で異質な音」も採用されている。
「『サンダーボルツ*』は確かにスケールの大きな作品ですが、小さくて親密な関係性がテーマになっています。登場人物たちは、失望や後悔、葛藤を抱えており、最終的には一緒に乗り越える、あるいは決裂するかという状況に向き合わなければなりません。ジェイクはその親密さや繊細さを、音楽にも反映してほしいと指摘しました。一方でアクションも多いので、音楽には躍動感とエネルギーも必要です。そこで、僕たちは小さな音の可能性を探し始めました。ある日、僕はキッチンに大きな箱を持っていき、棚にあるものを全部引っ張り出して、鍋やスプーン、グラスなどでリズムループを作り始めたんです。そこで見つけた“木の板”の音が、映画全体に散りばめられていきました」(ライアン)
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の歴史の重みを噛み締めながら、『サンダーボルツ*』固有の世界観をサウンドで表現してみせたサン・ラックス。ラフィークは「『サンダーボルツ*』には地に足のついた音楽が必要でした。MCUの偉大なスコアたちに敬意を払い、ジェイクと対話しつつ、自分たちなりのサウンドを重ねていくアプローチを取りました。この作品に関われたことを誇りに思っていますし、マーベルの歴史に自分たちなりの“小さなスタンプ”を押せたことを、心から光栄に思います」と感慨深げに語っていた。(編集部・倉本拓弥)