横浜流星&渡辺謙、大河ドラマと連続共演!映画『国宝』で知らない自分と出会う

『悪人』『怒り』などの吉田修一の小説に基づく映画『国宝』(6月6日公開)で、李相日監督と2度目のタッグとなる横浜流星と、3度目となる渡辺謙。そんな二人が、歌舞伎界を舞台に、実の親子であり師弟として魂をぶつけ合う複雑な関係を演じた。くしくも現在放送中のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」でも共演する横浜と渡辺が、濃密な撮影期間を経て完成した本作への思い、李組だからこそ得られる刺激、そして互いへの揺るぎない信頼を語り合った。(取材・文:磯部正和)
「自分じゃない人」を映し出す李監督
Q:横浜さんは『流浪の月』(2022)、渡辺さんは『許されざる者』(2013)、『怒り』(2016)に続き、李監督作品へのご出演となります。李監督の撮影現場だからこそ得られるもの、俳優として引き出されるものは何でしょうか?
横浜流星(以下、横浜):『流浪の月』の時もそうでしたが、監督はヒントを与えてくださるのですが、“答えは自分で探してほしい”という感じなんです。なので、最後までわからなかったというか、ずっと暗闇の中で光を探しているような感覚でした。今回、李監督の作品に出演して改めて感じたのは、自分とは正反対の、普段は律しているような部分を解放して挑戦できた感覚です。自分が感じたことのないような感情が役を通してあふれてきて、完成した作品を観ると、自分でも見たことのないような人物に出会えるように感じました。
渡辺謙(以下、渡辺):何かを演じようとか、何かを表現しようとすると、監督から“僕が欲しいのはそういうことじゃないんです”と非常にクールな目で言われる。それはもう経験済みなので(笑)。李監督の作品を観ると「自分じゃない人」が映っている感じがするんですよね。意図して違うものを出したということではなくて、こちらが青写真を描いて現場に行ったとしても、本当にそこで生きて感じたものしか彼は吸い取ってくれない。だから、出来上がった作品を観ると、常に“こういう顔をするんだ”“こういうシーンになるんだ”と、とても新鮮に見えます。でもさ、『流浪の月』をやって、懲りなかった?
横浜:全然です(笑)。あんなに妥協せず魂を込める方はなかなかいらっしゃらないので、ご一緒できるのは幸せなことだと思っています。今回、監督からは“歌舞伎役者になってほしい”としか言われていません。1年の準備期間をいただいて、まず歌舞伎に触れることから始め、稽古に入っていきました。
Q:正解が見えない中で、何を拠りどころに撮影に臨まれたのでしょうか?
横浜:撮影中に監督から、“その時、瞬間に出たものを信じるしかない”という言葉をいただいて、監督がOKを出してくださるなら、それを信じていくしかない。こんなにも魂を込めて作られている方なので、それを信じることで、監督との心の距離がより近くなったような気がしました。正解がわからないからこそ面白いし、ずっと追い求められる。苦しいですけど、それがモチベーションにもなります。
渡辺謙から横浜流星に質問
Q:横浜さんが演じた俊介は、ご自身とは正反対の人間とおっしゃっていましたが、演じてみていかがでしたか?
渡辺:俊介は前半と後半で変わっているけれど、どっちが好きなの?
横浜:やっぱり後半の俊介です。李監督からも“後半の俊介は得意でしょ?”って言われました。前半は“まだ甘い”と結構ダメ出しされました。確かに俊介は自分と正反対と言いましたが、もっと強い言葉で言うなら「苦手な人間」です。
渡辺:流星はいい加減な人間じゃないからな。どちらかというと(吉沢亮演じる)喜久雄タイプだよな。
横浜:謙さんがおっしゃるように、喜久雄の方がしっくりきます。俊介には共感できる部分が全くと言っていいほどなかったんです。だから、本当に理解して、愛すことから始めなければなりませんでした。でも、監督が僕にこの役を任せてくださったのは、たぶん得意な役柄より苦手な役柄に挑戦していった方がいいと思ってくれたから、かと思ってます。
渡辺:(俊介は)歌舞伎の名門一家に生まれてきたという背負わされたものと、そこに抵抗しているところがあって。それを表現するのはなかなか難しい。しかも、ライバルの喜久雄が現れて……。本当に複雑な役だよね。
横浜:はい、複雑でした。本当に……。
Q:渡辺さんが演じた花井半二郎も、実の息子と才能ある弟子・喜久雄の間で揺れ動く、非常に難しい感情を持つ役でした。
渡辺:ストーリー上は、妻である(寺島しのぶ演じる)幸子の方が、その葛藤は大きかったと思います。半二郎としては“芸事で選ぶなら喜久雄”と、割と冷酷に決断する。そのことで妻と軋轢が生まれたりもしますが、(演じていて)最終的に心の中にいたのは俊介でした。芸能の道を進みながらも、やはり親でもあるという切なさみたいなものは、あまり表に出さないようにはしていましたね。それはある意味で自分(の境遇)にも重なることなので。
Q:半二郎を演じる上で李監督から何か要望はあったのですか?
渡辺:今回はあまり具体的なことは言われませんでした。珍しく、ほったらかしでしたね。“俺、忘れられているのかな?”と思ったくらい(笑)。だから、半二郎という役は、表面的なフォルムをしっかり作るというより、何かその奥にあるもの、そこにある本質をしっかり出してほしいということだったのだと思います。一番悩んだのは、終盤、喜久雄に“親のいないのは首がないのと一緒やで”と託すシーン。そこの感情表現のレベルや深さについては、かなり考えました。
大河ドラマ「べらぼう」に受け継がれた信頼関係
Q:本作の撮影後、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」でも共演されていますが、本作での経験が活きた部分はありましたか?
横浜:『国宝』でご一緒してすぐだったので、やはり心強さはありました。ただ、大河ではまた役柄の関係が全然違うので、そこは新鮮です。
渡辺:大河の撮影では、なかなか(横浜と)会う機会がないんです。それぞれ違うところで生きている役なので。だから、明日流星とのシーン(の撮影)があるなという時は、ちょっとウキウキしましたね。また会えるし、話もできるし、彼が今どういう状態なのかも見たかったですし。大河の現場はアップダウンがあって大変ですから。でも、キャリアや年の差はありますが、“彼なら絶対受け止めてくれるな”という信頼感がありますし、“どんな速い球を投げられても受け取るぞ”という気持ちで臨んでいます。そういった信頼関係があるので、共演は楽というか楽しみではありますよ。
横浜:謙さんは本当に何でも受け止めてくださるので、僕はもう“ぶつけるぞ”という気持ちです。謙さんの変化球もしっかりすくい取らないといけない。そこは信頼関係がないとできないことだと思うので、そう言っていただけると嬉しいですし、自分もそう思っています。
渡辺:流星的には『国宝』は、自分のキャリアの中でどういう位置付けなの?(昨年公開の)『正体』で賞もたくさん獲って、大河の主演もやって……。
横浜:毎回“これを代表作にするぞ”という思いで全てを懸けて臨んでいます。今回、歌舞伎役者として生き、伝統芸能である歌舞伎に深く触れられたことは、今後の自分の芝居にも必ず生きてくると思います。なので、この作品は……現時点での代表作、という感じ。でも、それはまた更新していかないといけないと思っています。
Q:特にどんなところを観てほしいですか?
横浜:完成した作品を観て、芸に人生を捧げている彼らの姿は本当に美しくて、愛おしいと感じました。励みにもなりましたし、自分も彼らのようになるためには、もっともっと芸を磨いて励んでいくしかないと強く思いました。歌舞伎は日本の伝統文化ですが、カメラマンが(『アデル、ブルーは熱い色』(2013)などの)ソフィアン・エル・ファニさんだったことで、また違う色合いが出たと思います。そこもぜひご注目いただきたいです。
渡辺:いい意味で「爽やか」だと思うんです。歌舞伎を観たことがない人や、少し敷居が高いと感じている人たちでも、全然観れちゃう。もちろん歌舞伎を題材にはしていますが、これは人生の話だから。いつもプロモーションで“見どころは?”と聞かれたとき、一言で言うのが本当に難しい。だから、もう“とりあえず観てね!”としか言えないですね(笑)。
横浜:そうですね、“とりあえず観てね!”ですよね(笑)。
映画『国宝』では上方歌舞伎の名門の当主であり大人気の看板役者とその息子、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」では時の権力者である老中・田沼意次と喜多川歌麿、葛飾北斎らを世に送り出す版元・蔦屋重三郎として対峙する渡辺と横浜。年齢、キャリアは異なる二人だが、互いに俳優としてリスペクトし、信頼し合っているからこそ、視聴者に伝わる芝居を見せてくれるのだろう。映画『国宝』での語らずとも伝え合う親子の感情のやり取りには引きこまれること必至だ。
横浜流星 ヘアメイク:速水昭仁(CHUUNi Inc.)/スタイリスト:根岸豪
渡辺謙 ヘアメイク:倉田正樹/スタイリスト:馬場順子


