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吉沢亮は「追ってもつかみ切れない人」 李相日監督が『国宝』で感じた魅力

映画『国宝』より稀代の女形・喜久雄を演じる吉沢亮
映画『国宝』より稀代の女形・喜久雄を演じる吉沢亮 - (C) 吉田修一/朝日新聞出版 (C) 2025映画「国宝」製作委員会

 吉田修一の小説を吉沢亮主演、横浜流星共演により映画化する『国宝』(公開中)のメガホンをとった李相日監督。主演の吉沢亮は準備期間、撮影を含め約1年半に渡って役に没頭し、劇中の歌舞伎シーンはすべて吹替えナシで行っているが、キャスティングの経緯や撮影の裏側を李監督が語った(※一部ネタバレあり)。

【画像】『国宝』吉沢亮・横浜流星・渡辺謙・田中泯、圧巻の歌舞伎シーン<16枚>

 本作は、原作者の吉田が3年の間歌舞伎の黒衣を纏い、楽屋に入った経験をもとに書き上げた同名小説を原作に、極道の息子として生まれながらも歌舞伎の世界に飛び込み、芸の道に人生を捧げる喜久雄(吉沢亮)の50年を追う一代記。喜久雄は、歌舞伎界のスター、半二郎(渡辺謙)の実の息子として将来を約束された御曹司・俊介(横浜流星)と出会い、ライバルとして互いを高め合うなかで、喜久雄は「血筋」、俊介は「才能」を渇望し、愛憎が入り乱れていく。李監督にとって、吉田修一作品の映画化は『悪人』(2010)、『怒り』(2016)に続き3度目となる。

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 2024年3月に映画公開が発表された際、吉沢はコメントの中で「『怒り』ではオーディションの参加者として、何も出来なかった自分への苛立ち、完成を観てのどうしようも無い昂まりと悔しさ」があったと語っていたが、李監督は『国宝』映画化の際「主人公・喜久雄を演じるのは吉沢亮しかいない」と考えており、初めにオファーしたのは今から6年前だったという。

 「『怒り』で出演に至らなかったのは役と合っていないから、その一言に尽きます。ただ、それ以降、着実に彼は場数を踏んでいくなかで足跡を残すようにはなっていったように思います。役者として成長していく中で、喜久雄をやらないかという話をしたのは『キングダム』(第1作・2019)の直後ぐらいです」

喜久雄(吉沢亮)

~以下、映画のネタバレを含みます~

 撮影に当たっては、歌舞伎役者を演じるキャストについては全員が歌舞伎の所作を習得するのが前提だったというが、あくまで「歌舞伎を見せる」のではなく「歌舞伎を演じる役者」を見せることが目的だったため、撮影中に吉沢が混乱することもあったという。

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 「とにかく、頭の先から爪の先まで歌舞伎役者に見えるように鍛錬してもらう必要がありましたが、映画で求めるものはその先。例えば喜久雄が『曽根崎心中』のお初を演じるシーン。引き、寄り、さまざまな角度から撮っていくわけですが、引きのいわゆる客席目線での舞台を見せるときは本人が鍛錬したものをきちっと出すことがメインなので、僕が口をはさむことはあまりありません。その先、カメラが近づいて表情に寄るとき、所作より心情が溢れてくるようにディレクションします。それが、歌舞伎を美しく見せる、というルールから逸脱していくので吉沢くんは混乱したんでしょう。『え、いいの?』と、僕は『それでいいから見せてほしい』と。混乱し、抗いながらも、おそらく自分の中で喜久雄としての感情を総動員して必死に表現した姿が、映像に掬い取られたものです」

 吉沢が無我夢中で演じた結果、このシーンは李監督も目を見張る出来栄えに仕上がった。

 「あれだけ混乱しながら、的確な芝居が生まれてくるのがすごいなと。何か本人の中で突き破ろうとした結果なのかもしれないですけど。おそらく、はじめのうちは抵抗を感じながらも、やるうちに少しずつ手応えを見つけたんでしょう。思えば、撮影の早い段階から理論的に考えることをやめたんだと思います。台本をもとに、シーンを構築して、演技プランを考えて……ということを放棄して、何かその場の空気感、監督に言われること、共演者の動き、そういったものすべてに反射することに全神経を集中させていたような気がします」

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兄弟のように育ちながら愛憎入り乱れていく喜久雄(吉沢亮)と俊介(横浜流星)

 ところで喜久雄とライバルの俊介は劇中、対照的な人物として描かれるが、吉沢、横浜自身も役者としてタイプが異なるのか? と問うと、こんな答えが返ってきた。

 「吉沢くんは、追っても追っても掴みきれない人。ちょっと突き放して物事を見ているような感覚があって。掴みどころがないというのもあるんですけど、役者以前に人として、多分誰のものにもならない感じがするというか。だからどういう恋愛をするんだろうと興味があります(笑)。でも多分、本人には謎めいていようという作為も自覚もないんだと思います。かたや、流星は愛を注げば注ぐほど返そうとする人。愛を乞う人、とも言えます。思いが発露しやすいので、彼が何を求めているのかが自然と伝わってくる。そういう意味でも対照的でした」

喜久雄(吉沢亮)の圧倒的な才能を前に苦悩する俊介(横浜流星)

 横浜とは『流浪の月』(2022)以来、2度目のタッグとなる李監督だが、横浜について特に心を動かされたというのが、演じる俊介にとって一世一代の舞台となる「曽根崎心中」のシーン。遊女お初と醤油問屋で働く徳兵衛、この世では結ばれることのない二人の悲恋を描く物語で、俊介がお初を演じており、役柄と実人生がシンクロする。

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 「後半の『曽根崎心中』ですね。汗と涙で化粧も剥げて、それでも死を賭して演じるというのは、言うは安しですけど、見事に体現できているなと。ものすごい気迫があった。俊介は本当に死んでもいいと思って舞台に立っている、その覚悟を感じさせてくれたシーンで、彼が大きな山を越えて、俊介である必然を確信させてくれました」

 吉沢亮と横浜流星、念願かなってのキャスティングを経て撮影を終え、「本当に彼らそのものだった」と李監督は語る。

 「喜久雄と俊介、吉沢亮と横浜流星、僕の中では役柄なのか俳優なのか、もうない混ぜになっていて。喜久雄と俊介は、性格や性質は両極ですが目指している、求めているものは合致していたと思います。互いにないものを手に入れようとする哀しき獣たちというか。演じる吉沢くんと流星は、それぞれの個性と役柄が非常にマッチしていたと思います。役者の人生を演じる、ということも相まって本当に彼らそのものなんじゃないかなと」

 共に大河ドラマの主演も務め名実共に日本映画界のトップを走り続ける吉沢と横浜。方言や歌舞伎の所作の習得に加え、李監督の妥協なき演出を経た二人は喜久雄と俊介と同様、「限界」を突破した比類なき演技を見せた。(取材・文:編集部 石井百合子)

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