「超クウガ展」“バラのタトゥの女”怪人体誕生の裏側 「仮面ライダークウガ」デザイナー・青木哲也、25周年で新たな挑戦

平成仮面ライダーシリーズの原点「仮面ライダークウガ」(2000~2001)の25周年を記念した展覧会「超クウガ展」が開催中だ。当時の企画資料やデザイン画、現存するプロップなど、東映特撮ヒーロー作品のメイキングをここまで開示したケースとしては初の機会であり、多くのファンから喝さいを浴びている。そんな中、展示会の独自企画として話題を呼んでいるのが、バラのタトゥの女「ラ・バルバ・デ」怪人体の新規キャラクターデザイン及び立像だ。怪人体のデザインを手掛けた株式会社PLEX所属のデザイナー・青木哲也がインタビューに応じ、テレビシリーズ当時のデザイン開発を回顧すると共に、ラ・バルバ・デ怪人体誕生の裏側を語った。(以下、「超クウガ展」展示内容のネタバレを含みます)
【画像】オダギリジョー、クウガと再会!「超クウガ展」プレミア内覧会の様子
自ら立候補して怪人のデザイナーを担当
株式会社PLEXは、現在のバンダイナムコグループ傘下の企業で、主にバンダイがから発売される玩具の企画開発並びにデザインを手掛けている。その源流は株式会社ポピーにあり、一定以上の年齢層のファンなら「超合金(玩具)のポピー」として認識している人も少なくないのではないだろうか。
さて、東映の特撮ヒーロー作品においては、ヒーローや(戦隊なら)ロボ、或いは変身アイテムと、商品化を前提としたデザインをPLEXが手掛けて来た歴史がある。「クウガ」のデザイン作業に関しては、石森プロから早瀬マサト、飯田浩司が参加した他は、PLEXは従前とほぼ同様の関わり方でスタートしており、青木もこれに参加することとなった。
「私と鈴木和也、竹内一恵の3人がチームとして関わることになりましたが、当時は現在のように商品点数が多いわけではなく、また、開発段階では時間的にも多少の余裕がありました。企画が固まる前からいろいろと描いていますが、トライチェイサー2000もそのうちのひとつです。これに関しては、ヒーローの意匠を入れれば間違いないと、フロントカウル回りにクウガの角のデザインを反映させましたが、その時点ではまさか警察の試作車だとは知らなくて (笑)。後に登場したビートチェイサー2000は、鈴木がデザインを担当しましたが、その辺りを踏まえてパトライトのギミックを内蔵したりしました」
一方、怪人デザインに関しては、当時のスーパー戦隊やそれ以前のメタルヒーローシリーズを例に挙げると、野口竜、出渕裕、雨宮慶太、篠原保ら外部のデザイナーが起用されてきた。要は商品が絡まないから、バンダイサイドはノータッチということであり、青木も「『ビーファイターカブト』のビークラッシャーのように商品化前提で、弊社が担当したケースもありましたが、基本的に怪人は商品になり難いんです」と語っている。こうした敵側のデザインワークスに関しては、東映サイドが主導して進めるのが慣例であったが、ここで青木はひとつの行動に打って出ることとなる。
「これまでヒーロー側のデザインに多く関わってきましたが、やっぱりヒーローを際立たせるには怪人が重要だし、純粋に怪人デザインを手掛けてみたいと思ってたんです。幸いにも鈴木と竹内がとても優秀で、この2人に任せておけば大丈夫……というか、“俺、やることないじゃん?”みたいなこともありまして(笑)。そうした希望を、バンダイの担当だった野中剛さん(当時)に伝えたところ、東映の高寺成紀プロデューサー(※高ははしごだかが正式)に紹介していただきました。その過程で、野中さんから怪人もソフビで発売する可能性があること、そして、高寺さんから、怪人デザイナーの阿部卓也さんが抜けるということを知りました」
本作においては、当初、阿部卓也がデザイナーとして関わっていたが、武蔵野美術大学の学生であった阿部は、学業多忙につき、離脱するタイミングでもあった。青木曰く「チャンスを求めて飛び込んだら、向こうから転がり込んできた」とのことで、早速、第3・4話に登場するズ・メビオ・ダのデザインを手掛けることとなるが、初のグロンギ怪人のデザインにはかなりの苦戦を強いられたという。
「メビオはヒョウがモチーフですが、ネコ科の動物なので、足がたくさんあるとか大きな角が生えているとか、これといった特徴がないんです」。さらに高寺と阿部の間で作られたグロンギ怪人のフォーマットがあり、「これを理解するのにかなり時間がかかりました。ヒョウだからと言って、ヒョウ柄の模様があるとか、ツメがあるとかそういうことではないんですよね」。結局、正規の仕事で忙しい鈴木や竹内にも協力をしてもらい、とにかく「描いては投げて」を繰り返し「ここは違う」「ここは少しこう」と高寺からの修正を繰り返しながら、求められたイメージに近付けていったという。
また、奇しくもメビオが登場する第4話は、鈴木と共同で手掛けたトライチェイサー2000の初登場回でもあり、“ヒーローを際立たせるには怪人が重要”を否応にも提示しなければならなかった。
「女性怪人でバイクと戦うのもイメージが掴み難かったのですが、“走るのが速い怪人“と言われたことをヒントに、女性アスリートをイメージしてみました。いわゆる女性キャラ的なプロポーションは避けて、たとえば臀部(でんぶ)は鍛え抜かれた発想から小さくしたり、今風に言えば”シュッとした感じ“でまとめてみました」。完成したデザインについては「高寺さんもラフを描かれていたし、会社の他の人間も意見も取り入れているし、大勢の人からいただいた要素を自分がまとめた、という感じです。後は細かい装飾品についても苦労しました」と謙虚に振り返るが、苦労した分、今もメビオは忘れられない一体であるという。
凄まじき戦士「アルティメットフォーム」デザイン秘話
以後、青木はメ・バチス・ダ(ハチ種怪人)、メ・ギイガ・ダ(イカ種怪人)、メ・ギャリド・ギ(ヤドカリ種怪人)。メ・ギノガ・デ変異体(キノコ種怪人)、ゴ・ガメゴ・レ(カメ種怪人)、ゴ・ジャラジ・ダ(ヤマアラシ種怪人)、ゴ・ガドル・バ(カブトムシ種怪人)、ゴ・ジャーザ・ギ(サメ種怪人)と手掛けているが、第9・10話のメ・ギイガ・ダ、第15・16話のメ・ギャリド・ギ辺りから徐々に怪人デザインの感覚を掴めてきたという。「たとえば、メ・ギャリド・ギのようなヤドカリ怪人なら、普通は大きな貝殻を背中に背負わせたり、貝殻を腕に付けて打撃武器にしたりしそうじゃないですか。でも、グロンギ怪人のセオリーではそうではないんです。彼らは衣装を身に着けている設定なので、頭に生地をぐるぐる巻いてターバン状にして、これがヤドカリの殻に見えるように処理したら、高寺さんから『そういう方向性いいよね!』とリアクションがあって、そこで初めて、通じ合えたような気がしました」
また、ゴ集団のリーダー格となる未確認生命体第46号ことゴ・ガドル・バは、終盤の強敵として印象に残る一体だが、これも青木によるデザインだ。
「ゴ・ガドル・バは、クワガタモチーフのクウガに対して、カブトムシという事だったと思うんですけど、カブトムシって、ストロンガーを例に挙げるまでもなく、どうしてもヒーローのイメージが強いので、それをいかにグロンギ怪人にするか苦労しました。普通なら角を強調して派手にしたいところですが、それをやると、やはりグロンギ怪人の方程式から外れてしまう。じゃあ、どうやってカブトムシの特徴を入れ込むか……。そこですごく悩んだ記憶があって、頭部に関しては、高寺さんが描かれたラフを参考にしたところもありました。またフォームチェンジする重要キャラだということも決まっていて、実際のスーツがどうなるかはまた別として、筋骨隆々のボディビルダーを参考にして、上半身を逆三角形にしたり、とにかくクウガより強く見せたい、そういう狙いがありました」
また、ゴ・ガドル・バがフォームチェンジした俊敏体、射撃体、剛力体には、それぞれ武器が用意されているが、これらのデザインも青木が手掛けたもの。「クウガのドラゴン、ペガサス、タイタンとの対比で、ロッドは、『超クウガ展』でも展示されていましたが、ドラゴンロッドの準備稿には先端に刃が付いていたんです。その実現しなかった案をこちらで取り入れました。またボウガンはペガサスボウガンの弓が縦だったので、横に変えていて、その辺りは特に悩むことはなかったです。それから剛力体のソードは、カブト虫イメージがあるから、そもそも武器に剣は違うのでは? とも思ったのですが、ボウガンと同じ発想で柄の向きをタイタンソードとは上下逆にしたほか、細かいディテールを入れて、とにかく邪悪なイメージを全面に出してみました」
PLEX本来の仕事であるヒーロー側のデザインにも青木は携わっており、クウガの最終形態「アルティメットフォーム」のデザインを竹内氏と共に提出していた。当時のメイン商材である「装着変身」シリーズのアルティメットフォームは、放送中の2000年秋頃には発売されていたが、一向にテレビに登場する気配はなく、年を跨いで第48話ただ一度きりの登場が、大きな話題をさらったこともリアルタイム世代なら覚えているかと思う。
青木自身は、「暴力の行き着いた末に登場するフォームということで、最初に描いたデザイン案はもっと禍々しいものだったんです。自分でもちょっと突っ走ってしまったところがあり、これが本当に気持ち悪くて“そうじゃねぇだろう”と言われました(笑)」と回顧しており、作品にいかにのめり込んでいたかをうかがわせる。ちなみに青木が暴走(?)する傍らで竹内が抜群なセンスでアルティメットフォームをまとめ上げていくのである。「これはクリスマス商戦に投入する商品になるので、普通だったら自分ではそういったデザインは描かないはずなんですけど……」と語るが、振り切ったところから着地点を見出していくのはデザインに限らず、往々にあることで、こうした過程を経ての、現在我々が目にしているアルティメットフォームと言えるのではないだろうか。
ちなみに最終回で、アルティメットフォームと雌雄を決するラスボスのン・ダグバ・ゼバは、阿部によるデザインだが、第1話にシルエットで登場していたン・ダグバ・ゼバ(中間体)は、青木がデザインを手掛けた。「当時は詳しいことは決まってなかったし、劇中でもハッキリ映さないとのことで、話を聞いてサクサクッと描いただけなんです。これも確か高寺さんが描かれたラフがあったように記憶しています」
25年越しに実現!「ラ・バルバ・デ」怪人体
「超クウガ展」の目玉企画として発表されたバラのタトゥの女=ラ・バルバ・デの怪人体は、テレビシリーズ以来、25年ぶりにお目見えした新たなグロンギ怪人となる。「昨年末頃に高寺さんから直々にご依頼いただいた時、これは身に余る光栄だと感じましたが同時に私がやって良いものであろうか、とも思いました」と語るが、スケジュール的にはかなり厳しく、造形の都合もあり、実質1か月くらいでの作業だったという。
「グロンギ怪人は基本、クウガと戦う相手ですが、バラのタトゥの女に関しては、他の怪人に指示する立場で、自ら戦う存在ではないんです。それで『褌姿ではないよね』といった話をしている中で思い出したのが、怪人態で唯一服を着ていたラ・ドルド・グ(コンドル種怪人)です」。ちなみにラ・ドルド・グは石森プロの飯田によるデザインで、天狗の山伏装束を思わせる衣装を纏っており、バラのタトゥの女と同じく、ゲゲルの参加者ではなく、怪人たちが殺めた人間の数をカウントする役割を持つ存在であった。
「演じた役者さん(七森美江)も、ドレス姿で登場していたし、そもそもグロンギの人間体の服装には怪人の要素を反映させていたところがあったんです。それで、怪人体もドレス的なものを身に付けているという方向性になりました」
またラ・バルバ・デはバラ種怪人であり、当然、バラ要素も不可欠だ。しかしそれをどうデザインに落とし込むかで相当悩む事となる。コンセプトが固まる前段階では「追い詰められていたんでしょうか変な話ですがバラ繋がりで『ベルサイユのばら』のオスカルのような軍服にバラの要素をデザインでアレンジした案なども提出していました」と青木は証言した。
25年を経たデザイン作業については、グロンギ怪人の方程式を思い出すところからはじまり、再び手探り状態でのスタートだった。「頭部に関しても高寺さんとやりとりして、ある程度形になったんですけど、首から下をどうするかが難題でした」と振り返り、劇中、第3話でツタの絡まった腕でズ・ゴオマ・グ人間体の頭部を締め付ける場面から発想して、全身にツタが絡まったラフも描いたという。最終的に、頭が花弁で、それを支える花柄、さらに葉っぱの意匠があり、茎となっていていくという花の構造が落とし込まれ、現在の形になった。
ちなみにグロンギ怪人は裸足であるが、ラ・バルバ・デに関しては「衣装で素足なのもおかしいですし、人間体ではハイヒールを履いていたので、草履をはかせることにしました」とやはり人間体のイメージを踏襲したものとなっている。
一方、全身を覆う服装の素材や細かなディテールに関してはイメージしておらず、「生地のイメージなど想像が及ばなかったところもありました、逆に造形が始まってからは一切を高寺さんと造形屋さんにお任せしてしまいました。二次元のイメージ画から実際に形に作り上げていくわけですから相当高度で激しいやり取りがあった事と思います」。そして完成した立像については「とにかく“すごい”の一言で、個人的にはこれを主人公にして深夜番組を作ってほしい」と絶賛する。
25周年を迎えた今、青木は「仮面ライダークウガ」にどのような思いを抱いているのか。「今となっては貴重な経験をさせていただき、本当に感謝の気持ちしかありません。これまで子どもたちにカッコいいと喜んでもらえるデザインを意識して仕事をしてきましたが、僕個人は最初の『仮面ライダー』を観て衝撃を受けた世代であり、同じ石ノ森章太郎作品では『人造人間キカイダー』のハカイダーが好きで、敵側でも記憶に残るキャラクターを目指したい気持ちを抱いていました。当時の子どもたちが怪人のソフビを買ってくれたり、あれから25年の歳月を経ち、今も『クウガ』を好きでいてくれる人が大勢いて、そういうファンの存在というのが、何よりも有難いことですね」(取材・文:トヨタトモヒサ)
「超クウガ展」名古屋会場は11月3日(月・祝)まで名古屋PARCO南館9階 PARCO HALL にて開催中


