西島秀俊、閉館した丸の内TOEIで“廃墟会見”に登場　9割英語セリフ『ディア・ストレンジャー』に自信

　俳優の西島秀俊が5日、先月27日に閉館した丸の内TOEIで行われた、日本・台湾・アメリカ合作映画『Dear Stranger／ディア・ストレンジャー』完成報告会見に出席、共演者のグイ・ルンメイ、真利子哲也監督とともに映画の魅力について語った。

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　ニューヨークで暮らすとあるアジア人夫婦が、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦が抱える秘密が浮き彫りとなり、崩壊していくさまを描いた本作。劇中に、夫婦が出会った思い出の場所であり、夫婦の壊れた関係性を暗示するような場所として“廃墟”がたびたび登場するということで、この日は、閉館したばかりの劇場・丸の内TOEIを“廃墟”と見立てた、同館で行う最初で最後の“廃墟イベント”となった。

　ステージに立った西島は「力強い作品が完成しました」と自負。「真利子監督のファンだったので、とにかくご一緒したかった。文化の衝突、家族の関係の難しさなど、まさにみんなが直面していて、解決方法が見つかっていないような題材、テーマが多く含まれている脚本だったので、自分自身も映画の撮影を通して、その問題に向き合ってみたいと思い、参加を決めました」と明かす。

　真利子監督も「西島さんは僕も好きな俳優なので声をかけさせていただいたんですが、西島さんはボロボロになる役が似合うなと思っていたし、今回は言語が英語ということもあるので、言語に頼らずに役を生き抜いてくれる方だなと思いました」と語ると、「やはり映画に対する愛がものすごく強い方だなと思い、信頼できる方だなと思いました」と続けた。

　また西島は、アジアを代表する俳優であるルンメイとの共演について「ルンメイさんは作品のためにすべてを投げ出す方。休みのときもずっと役に集中されていて、とにかく準備を丁寧にされている。本番では、こんなにナチュラルに演技をする方がいるのかと感動しました」と振り返る。

　ルンメイは「わたしも西島さんの大ファンなので、大変光栄なこと」と笑顔を見せると、「西島さんは、見た目はとても落ち着いていて冷静なんですが、実は心の中にはエネルギー、力を持っているんじゃないかなと。西島さんの演技、リアクションは微妙に毎回違うんです」と説明。

　さらに「西島さんは大きな木のような方」と付け加えると、「そのおかげで、わたしは思う存分、遊園地のように遊ぶことができる。毎回、異なるエネルギーを西島さんからたくさん浴びて、受けているわけなんですよね」とその懐の深さに感じ入った様子で、「役者としてこのような俳優と共演することができると、本当に幸せなこと」とかみ締めるように語った。

　真利子監督との撮影について、西島は「人間の根源的なエネルギーや、本能みたいなものを突き詰めていて。それがすごく哲学的に感じる瞬間がある」と評し、「今まで監督は、物理的な肉体のぶつかり合いを描いてきたと思うんですが、僕が個人的に思うのは、（新作で）また違う場所に向かったんだなと。それは言語であったり、文化であったり、それとは別の運命的な暴力であったりと。世界とか、社会とか、そういうところに向かっているのかなと思った」と分析してみせた。

　一方のルンメイは、真利子監督について「素晴らしい耳を持っている監督」と感じたという。「ただ、これは失礼な言い方になるかもしれないですが、おそらく英語でしゃべっていることの全部はわかっていないのかもしれないですが、わたしたちがしゃべっているトーンなどから、内容がわかってるんです」と驚いた様子。そこから「もう少し違ったニュアンスでやってもらえますか？」と演出を施されたこともあったそうで、「私たちの発しているセリフの中から、人間の感情の表現そのままを全部感じ取っている。そうやってわれわれの演技を引き出すという、その手法は非常に独特でした」と振り返った。

　本作では、セリフの9割以上が英語となっている。その点に関して西島は「目の前にルンメイさんがいて、本当にナチュラルな感情のままにいてくださったので、撮影に入る前に感じていた不安よりははるかに芝居の内面に集中することができた。本当にルンメイさんに感謝しています」と感謝の思いを伝えた。（取材・文：壬生智裕）

映画『Dear Stranger／ディア・ストレンジャー』は9月12日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開