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『近畿地方のある場所について』はいかにして「読むホラー」を「観る恐怖」に変えたのか?白石晃士監督×原作・背筋が語る『ノロイ』の影響

『近畿地方のある場所について』原作者の背筋氏と白石晃士監督
『近畿地方のある場所について』原作者の背筋氏と白石晃士監督

 菅野美穂赤楚衛二を主演に迎え、累計70万部を超えるベストセラー小説を映画化した『近畿地方のある場所について』(8月8日全国公開)。バラバラな時系列で起きる怪異が、次第に“ある場所”へと収束していく、思考にまとわりつくような恐怖がクセになる、本作の背後にはあるホラー映画の影響があった。白石晃士監督と原作者の背筋氏が、映画化へのアプローチとその背景を語った。

【動画】怖すぎてTV放送NG!? 『近畿地方のある場所について』予告集

青春時代を変えた出会い

 突然行方不明となった、オカルト雑誌の編集長の特集を引き継いだ雑誌編集者・小沢悠生(赤楚)と、協力を求められたオカルトライター・瀬野千紘(菅野)。編集長が集めていた資料を調べる二人は、やがて真偽不明の情報の羅列が、“近畿地方のある場所”へとつながっていくことに気が付く。

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 新聞記事、インタビュー、怪談話、掲示板のログなど、さまざまな形式でつづられた原作エピソードをモキュメンタリー形式で映像化。断片的な映像資料が、やがておぞましい“何か”につながっていく構成は、白石監督が2005年に発表したフェイクドキュメンタリー『ノロイ』を思い起こさせる。

 失踪した怪奇実話作家・小林雅文が残したドキュメンタリーを白石監督が完成させた……という設定の同作。背筋氏は、学生時代に本作に触れると、すぐさまその魅力に取りつかれた。

 「“本当にあったことなんじゃないか”と思わせる迫真性が怖さのフックになったのは確かですが、自分が何度も観返すようになったのは、やはり純粋に面白かったから。怖いだけではなくて、バラバラの情報が集まった先にすごくおぞましい真実が待っている……といったミステリーサスペンス的な楽しみ方もできる。白石監督が“リアリティ”とか“実録風”という部分だけではなく、エンタメを意識して作られてるんだろうなっていうのが、幼心になんとなくわかっていたんだと思います」

 「私も『近畿地方のある場所について』を書く時に目指したのは、まず面白いものにすること。わかりやすく、記号的に“呪い”についてのお話にはしていますが、怖さだけじゃない面白さを目指して書いたという点では、『ノロイ』の影響はけっこう大きいのかなと思います」

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観客に届いていた狙い

 一方、『ノロイ』を手がけた白石監督にとっても、『近畿地方のある場所について』との出会いは、自分の思いが観客に届いたことを実感させるものだった。

 「当時、自分が『ノロイ』に込めた“答え”があったんですが、プロデューサーにも誰にも言わずに隠していました。自分の中で“お客さんに伝わればいいな”と思っていて、『近畿地方のある場所について』を読んだとき、背筋さんがそれを読み取ってくれていたのがわかった。それが何なのかは言いませんが、お客さんを信じてよかったと思えた瞬間でしたし、そうしてこの原作が生まれ、私が映画化を引き受けることになり、新しい仕事につながったという意味でも、ほんとに良かったなって(笑)」。

 その言葉に、背筋氏も笑顔。「そうなんです。白石監督にお会いした時、すぐに小説についても『これって……あれですよね』っておっしゃっていただいて(笑)。もちろん、僕が『ノロイ』を観たのは中学生くらいのころなので(笑)。すぐにわかったわけじゃないんです。でもそれから『カルト』『オカルト』『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズとか、白石監督の作品を追っていくと。なんとなく、これは一元的に幽霊がどうだこうだという話じゃないな……っていうのは自然とわかってくるんですよね」と語る。

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劇映画とモキュメンタリーの融合

 そんな本作と『ノロイ』の大きな違いが劇映画パートの存在だ。『サユリ』(2024)、『貞子vs伽椰子』(2016)など、劇映画でも話題作を数多く手掛ける白石監督だけに、モキュメンタリーと劇映画を巧みに融合させた本作は、まさに集大成ともいえる一本となった。

 原作のラストは、小説ならではの叙述トリックが仕掛けられているが「映画でやるのは無理だと思っていました」という白石監督が生み出したのが、千紘(菅野)と小沢(赤楚)の存在だった。原作の“驚き”を、また違う形で体現する存在となった二人について、白石監督は「菅野さんと赤楚さんの芝居によって、原作の叙述トリックを“消す”のではなく上手く“変換”できたと思います」と自負。

 その結果として生まれた、映画独自のクライマックスは、原作ファンも予想できないはず。原作者の背筋氏も「この原作を本当に忠実に映像化するなら、全編を主観視点にする以外はあり得ないと思うんです。だけど、叙述トリックのために全てをPOVにするのが映像化としていいのかっていうのは別の問題です。結果的に、文字通りの忠実さではなく“コア”にあるものを読み解いて映像に落とし込み、(POVにするより)100倍、200倍いい形で仕上げていただきました」と絶賛した。(編集部・入倉功一)

映画『近畿地方のある場所について』は8月8日より全国公開

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