87歳リドリー・スコットが“6台カメラ”で挑むゲリラ的撮影術「ドープ・シーフ」クリエイターが語る制作秘話

ピーター・クレイグ(『THE BATMAN-ザ・バットマン-』『トップガン マーヴェリック』の脚本家)やリドリー・スコットが製作総指揮を務め、デニス・タフォヤの同名小説をテレビシリーズ化したApple TV+の犯罪ドラマ「ドープ・シーフ」。『ゴジラxコング 新たなる帝国』などに出演したブライアン・タイリー・ヘンリーが主演と製作総指揮を兼務し、エミー賞リミテッドシリーズ/テレビムービー部門主演男優賞にノミネートされている。今作の役どころやテーマ、スコットとの撮影裏話について、ピーターとブライアンが、ロサンゼルス市内のホテルで行われた取材で語った。
フィラデルフィアに住むレイ(ブライアン)と幼なじみのマニー(ワグネル・モウラ)は、DEA(麻薬取締局)の捜査官になりすまし、小物の麻薬ディーラーたちから金や麻薬を盗んで生計を立てていた。養母のテレサが金に困っていることを知ったレイは、より大物の麻薬ディーラーを狙うが、銃撃戦に発展してしまい、東海岸最大の麻薬犯罪組織に狙われることになる。
リドリー・スコットが第1話の監督も務めており、冒頭から緊迫感あふれるドラマが展開する。ピーターは『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の脚本も手掛けており、これがスコット監督との2度目のコラボレーションとなった。
「リドリーは最低でも6台のカメラで撮影するんですが、カメラがどこにあるのかわからないんです。彼はトレーラーの中に座って、6つのスクリーンで全ショットを確認していました。彼の頭がどうやって機能しているのかを見られるのは素晴らしかったですね。彼がいなくなると、1台、2台のカメラで撮影することになり、1日6時間だった撮影が、突然16時間になりました。みんなその変化に慣れないといけなかったんです。でも、リドリーは、本当に興味深い方法で、このシリーズを立ち上げてくれました」とピーターは振り返る。
一方のブライアンは、カメラがどこにあるのか見当もつかない撮影現場は、俳優としては大変だったという。
「僕とワグネルの強盗計画が失敗に終わる対決シーンがあるのですが、ほとんどリハーサルはできませんでした。展開はわかっていましたが、同時にアドレナリンが湧き上がってきました。だから、安全性について考えるし、何が危険なのか、どこで爆発が起きるのか、といったことも(その場で)考えたんです。結果的に非常に生々しいシーンになりました。リドリーはそういう生々しさを捉えることに長けているんです。でも、それはまた、たぶん2テイクしかできないことを意味していました(笑)。この素晴らしい男性がトレーラーから走ってセットにやって来て、『オーライト』と言う時は、何か非常に上手くできた時。もう1度撮りたいか聞くと、『ノー、ノー。うまくいった』と言うんです。とてもゲリラ的な撮影スタイルなんですよ」
現在87歳のスコットだが、今作やテレビシリーズ「エイリアン:アース」の製作総指揮も務めたりと、相変わらず精力的に仕事をしている。
「彼が今なお活躍している理由は、仕事が大好きだからだと思います。彼は、自分がどれほど楽しんでいるかをみんなに伝えるまでに、少し間を置きます。助監督には、本当にどれだけ楽しんでいるか知られたくないんです。でも、僕らとは分かち合ってくれました。彼はこの仕事のすべてを愛している。どんなに速いスピードで(撮影が)進んでいても、彼は、このプロセス全体を心底味わう方法を見つけたんです」とクレイグは敬意をこめて話す。
麻薬ディーラーだった父親(ヴィング・レイムス)が刑務所に入った後、父の恋人だったテレサに育てられてきたレイは、自身も麻薬の世界に手を染めてきた社会の落ちこぼれだ。一度罪を犯すと社会復帰が困難になる悪循環のなかにあり、「今作は、まさに『社会的流動性(ソーシャル・モビリティ)』について描いています」とクレイグは語る。
「彼らは、(ドラマの舞台の)フィラデルフィアから外に出られないんです。少年院時代のトラウマを抱え、刑務所を出たり入ったりしている。そして、知性を活かすことができるはずの世界に戻ることを許されないのです」
ダークな題材ながらユーモアもあり、人生のどん底で葛藤するレイとマニーのことを、思わず応援したくなる本作。ブライアンは「最初のエピソードを観れば、彼らの絆、そして互いへの忠誠心について、はっきりわかるでしょう。僕にとって、本作はラブストーリーなんです。この2人は本当に愛し合っていて、お互いが経験したことを理解できるのは彼らだけだと思いました。でも同時に彼らはこうやって生き延びなければならないんです」と説明する。
そして、「僕がとても気に入ったのは、彼らが本当にアマチュアっぽいところです。なんとかして成功する方法を模索しているだけで、それがこの番組の鼓動だと感じました。それが彼らをより生き生きとさせ、視聴者が共感できるのだと思います。彼らは厳密に言えば“アンチヒーロー”ですから」と語った。
今作はフィクションだが、劇中で描かれる強盗事件は、実際の出来事がベースになっており、ブライアンは「撮影中、実際の強盗犯たちが、僕とピーターを殺しに来るんじゃないかと本当に怖かったんです。ずっとピーターに、僕らは安全なの? と聞いていましたよ」と笑いを誘った。(吉川優子/Yuko Yoshikawa)
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