職場と私生活の人格が分離できたら?エミー賞席巻「セヴェランス」キャストが語る役づくり

今年のエミー賞ドラマ部門で、最多の27ノミネーションを獲得したApple TV+ の「セヴェランス」は、ダン・エリクソン原案を基に、ベン・スティラーらが製作総指揮、監督を務めたSFスリラーだ。2022年に配信されアメリカで大きな話題を呼んだシーズン1の後、ハリウッドのストライキ等で撮影が延期になり、シーズン2の配信は、ほぼ3年ぶりとなった。本作について、主演男優候補のアダム・スコット、主演女優賞候補のブリット・ロウワー、助演女優賞候補のパトリシア・アークエット、助演男優賞候補のジョン・タートゥーロ、トラメル・ティルマン、ザック・チェリーが、ロサンゼルスで、役づくりや製作裏話を語った。(以下、一部ネタバレを含みます)
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バイオテクノロジー企業、ルーモン産業で働くマーク(アダム)と同僚たちは、仕事と私生活の記憶を分離する「セヴェランス」という脳の手術を受けており、勤務中は私生活の記憶がまったくなく、オフィスを出ると、私生活の記憶しかない状態になる。そのため、各社員には2つの人格、職場にのみ存在する“インニー”と、私生活を送る“アウティ”がある。
マークがチーフを務める部署には、アーヴィング(ジョン)、ディラン(ザック)、新入社員ヘリー(ブリット)がおり、上司のコベル(パトリシア)とミルチック(トラメル)の管理のもと、全員が1日中コンピューターの前で作業をしていた。ある日マークは、同じ部署にいて親友だったという男が現れたことから会社に疑いを持ち始め、同僚たちとルーモン産業の秘密を暴こうとする。そして、シーズン1の終わりには、自分たちが私生活で何をしているかを知ることになる。
マークは、妻を亡くした悲しみに耐えられず、ルーモン産業で働くことにしたのだが、シーズン2では、その妻に絡む秘密が少しずつ明かされ、ヘリーとの関係も新たな局面を迎えることになる。
アダムは、役づくりについて、「マークの“インニー”と“アウティ”を理解しようとしました。まったく違う人間ではなく、同じ人間の違う部分であると感じられることが重要でした。とはいえ、(二つの人格の間には)多くの違いがあるので、自分の嫌いなところを“アウティ”にあてはめようとしたんです。僕の姿勢とか、一人でいたがるところとかをね。そして、自分の好きなところ全部を“インニー”に当てはめ、それをベースにしました」と振り返る。
また、「僕はいつも“アウティ”は、喜びや悲しみなど、あらゆることが感じられる充実した人生経験をしていると思っていました。一方、“インニー”は、実質的には2歳半くらいの人生なんです。シーズン1は“インニー”にとって幼児期だったと言えるでしょう。ヘリーがマークの“インニー”の人生に入り込んで以来、彼の世界は完全にひっくり返りました。シーズン2は思春期なんです。彼らが思春期にいることは、シーズン2終盤の選択に大きく影響していると思います」と、アダムは分析する。
そのヘリーが初めて登場する時、彼女は自分が何者かわからない状態にあり、そのリサーチのために、ブリットは「記憶喪失になった人が目覚めたとき、新しい刺激にどう反応するのか、たくさん調べましたし、檻から逃げ出そうとする動物たちのビデオもたくさん見ました」と言う。そして、「シーズン1は私にとって、常に仕事の意味を探る旅でした。ヘリーは、『私たちは一体ここで何をしているの?』と自問自答し、現状を打破しようとしていました。そしてシーズン2では、彼らはお互いのつながりに心を開いていくと思います。彼らは愛とは何かを、そして愛こそが彼らの人生に、(仕事より)ずっと大きな意味をもたらすのだと理解し始めるんです」と続けた。
また、謎に包まれた複雑で怖いキャラクター、コベルを見事に演じるパトリシアは、「教会や軍隊のシステム、カルトのシステムを調べて、ドキュメンタリーをたくさん見た」そうだ。シーズン1で、コベルの大きな秘密が明かされたが、シーズン2では、彼女の生い立ちや、ルーモン産業との深い関係について、さらに知ることになる。
「初期の頃に、ハーモニー(・コベル)は学校で育ったことや、亡くなった母親がエーテル中毒だったことについて聞きましたが、今シーズンでようやくそれが描かれます。母親がいない子供であることの心理や、愛情を決して得られないこと、子供時代にずっと不当な扱いを受けてきたことで、どうやって自分を守るかを学んだんです」と、コベルの不遇な過去を説明する。
ところで、今シリーズで、ジョンが演じるアーヴィングは、クリストファー・ウォーケン演じる、視覚デザイン部のバートと惹かれ合うという役どころで、2人の関係は大きな見どころとなっている。ジョンは「これまでリミテッドシリーズはあるけど、テレビシリーズをやったことは一度もなかったんです。作品全体のアーク(変化)がどうなるか、前もって知りたいから。それで躊躇しましたが、(製作側に)僕の愛人役にクリスをすすめたら、クリスがイエスと言ってくれたので、気が楽になりました」と語る。3本の監督作を含め、これまで何度もウォーケンと一緒に仕事をしており「彼は偉大なジャズミュージシャンのようなものです。クリスを相手に演じると、何が起こるかわからない。年配者ならではの経験を持ちながら、子供のようなオープンさも持ち合わせています。そういう心を持ち続けられるのは素晴らしい」と絶賛していた。
従業員を搾取し続ける会社が、記憶をコントロールして、さらに徹底的に管理しようとするディストピア社会。恐ろしい話だが、誰もが抱えるワークライフ・バランスの問題や、個人の自由意志がテーマとなっていて興味深い。ハラハラさせられるドラマ展開、白い廊下が延々と続くミニマルな美術、不安をあおる音楽の使い方。すべての面でオリジナリティにあふれている今作。シーズン2も最後はクリフハンガーで幕を閉じており、シーズン3が今から待ち遠しい。(吉川優子/Yuko Yoshikawa)
Apple TV+「セヴェランス」シーズン2は配信中


