ADVERTISEMENT

『鬼滅の刃』全米で記録破りのヒット 批評家&現地ファンはどう見た?

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の胡蝶しのぶ
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の胡蝶しのぶ - (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が現地時間12日(金)に北米公開され、3日間で興行収入7,061万1,098ドル(約106億円)を稼ぎ、全米ボックスオフィスランキング初登場1位を獲得した。同日公開され、やはり長年のファン層を抱える『ダウントン・アビー:ザ・グランド・フィナーレ(原題) / Downton Abbey: The Grand Finale』の3倍を売り上げる勢いだ。前売り状況が好調で、早くからヒットが予測されていたものの、3日間で7,000万ドルという数字はいくつかの記録を破るものだ。観客評価もこれまでを上回る。(文/猿渡由紀)(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル150円計算)

【画像】童磨が不気味すぎ…『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』新規場面カット5点

 北米配給を手がけるのは、ソニーの子会社クランチーロール。『無限城編』のデビューは、『28年後…』の3,000万ドルを大きく引き離し、今年これまでに公開されたソニー作品のトップとなった。さらに、昨年のソニーのヒット作『ヴェノム:ザ・ラストダンス』(5,100万ドル)、『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』(5,000万ドル)、『バッドボーイズ RIDE OR DIE』(5,600万ドル)よりも上。9月の公開作としては、史上6番目の北米オープニング成績となる。

ADVERTISEMENT

 2023年のアニメーション映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(ソニー作品)の1億2,000万ドルには及ばないが、日本のアニメとしては、これまで北米デビュー最高記録を保持していた『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』(オープニング興収3,103万6,678ドル・約47億円)を余裕で抜く。

 このシリーズに限って見てもすごい。2020年の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の北米初公開週末の成績は2,100万ドル、北米興収トータルは4,900万ドル。『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』はそれぞれ1,000万ドルと1,100万ドルデビュー、北米トータルは1,000万ドルと1,700万ドルだった(『刀鍛冶の里へ』のオープニング成績と北米トータルが同じなのは、3日間のみの公開だったため)。

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 シネマスコア社による観客の感想調査の成績は、『刀鍛冶の里へ』『そして柱稽古へ』がB+だったのに対し、『無限城編』はAと満足度でも上だ(『無限列車編』の調査結果はない)。観客調査の結果が良いと口コミが広がり、興行成績を伸ばすことにつながるというのが、通常のパターン。だが、圧倒的にファンベースに頼る今作の場合、どこまでそれが起きるかは不明。8月15日に米大手チケット販売サイト「Fantango」で前売りが発売になると、数日で1,000万ドルを売り上げ、アニメ映画の最高記録を作ったことや、公開初日だけで『ミュウツーの逆襲』の北米トータル興収を抜く3,300万ドルを売り上げたことはまさに、「一刻も早くこの映画を見たい」というファンの熱意の表れ。また、観客の71%は18歳から34歳と、見たい映画があればすぐ駆けつける層でもあり、この映画を待っていた人たちの多くは初週末に見てしまったとみるのが正しい。もちろん、彼らがリピーターとなってまた劇場を訪れることはありえる。

ADVERTISEMENT

 逆に、全米3位デビューだった『ダウントン・アビー』の観客の中心は55歳以上の女性。この層はすぐに見ることを必ずしも重視しないため、緩やかにでも数字を伸ばしていくことが期待できる(ただし、こちらもこれまでのシリーズを見ていないと楽しめないので、幅はある程度限られるだろう)。

 さて、批評家受けはというと、こちらもかなり良い。大手レビューサイト「Rotten Tomatoes」によれば、97%の批評家が好意的だ。ただし、ここまでの作品を見ている必要があるせいか、批評の全体数は36本と少なめ。比較のために挙げると、『ダウントン・アビー』には95本、同じ週末に公開された『ザ・ロング・ウォーク(原題) / The Long Walk』には175本の批評が寄せられている。

 「Los Angeles Times」「New York Times」「USA Today」「The Wall Street Journal」など、主要な新聞の多くも、『無限城編』を取り上げていない。そんな中、「San Francisco Chronicle」は「ストーリーはシンプルながら、想像力に満ちたビジュアル、描かれる感情は複雑だ」とし、4つ星満点の3つ星を与えた。

ADVERTISEMENT
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 ターゲットがコアなファン層であることを理解しているソニー/クランチロールは、マーケティングも無駄なく効果的に展開している。iSpotによれば、彼らがこの作品の地上波スポットに費やしたのは7万4,000ドル。『ダウントン・アビー』の570万ドル、『ザ・ロング・ウォーク(原題)』の350万ドルに比べてずっと低い。その一方で、ロサンゼルス・ドジャースとのコラボでのプロモーションを企画展開した。『鬼滅の刃』のファン層の中心は男性で、ドジャースのファンと重なる。

 ドジャースが『鬼滅の刃』特別ナイトを開催したのは、前売りチケットの発売日と同じ8月15日。来場したファンにはこの日のためだけに作られた野球帽が配られ、始球式ではアニメのキャラクターが最初の一球を投げた。ドジャースのプロモーションは早い時期に決められていることがほとんどだが、このイベントは実施の3週間前と、かなり直前に発表されており、ドジャースと『鬼滅の刃』両方のファンにとっては、劇場公開に向けての興奮を盛り上げる試合となった。

ADVERTISEMENT

 『鬼滅の刃』は、韓国、香港、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピンなどアジア諸国では8月に公開。今月は、北米に加え、イギリス、フランス、スペイン、ドイツ、ポルトガル、アイルランド、ベルギーなどヨーロッパ諸国、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ、サウジアラビア、イスラエル、エジプトなどで公開される。

 現在までの全世界興収は3億5,357万ドル。このうち2億1,300万ドルを日本での売上が占める。日本でもまだ首位にとどまり、数字を伸ばし続けているが、この後、海外でのチケット売り上げが全世界興行収入にどこまで貢献するのかが注目される。

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT