「べらぼう」生田斗真の治済は「諸悪の根源」 制作統括・藤並英樹が語る

横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)で憎々しいキャラクター、いわばヒールとして描かれている一橋治済(生田斗真)。SNSでは「ぜんぶ治済のせい」のハッシュタグが出回るなど大きな反響を呼んでいるが、本作で治済はどのような役割、ポジションを担っているのか、あらためて制作統括の藤並英樹チーフプロデューサーに聞いた。
八代将軍・吉宗の孫に当たり、吉宗の後継者対策に端を発して作られた「御三卿」のひとつ一橋徳川家の当主。将軍候補だった徳川家基(奥智哉)、老中首座・松平武元(石坂浩二)、老中・田沼意次(渡辺謙)の嫡男・田沼意知(宮沢氷魚)、十代将軍・徳川家治(眞島秀和)……。劇中で不可解な死を遂げた彼らの事件にはみな、治済の関与が示唆され、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(2022)で多くの命を奪った源頼朝(大泉洋)に「全部大泉のせい」のハッシュタグがつけられたのに続き、大河ドラマファンの間では生田斗真演じる一橋治済を巡り「ぜんぶ治済のせい」と盛り上がっている。
まず主人公・蔦重(横浜流星)と治済について問うと、藤並CPは「会ったこともなく存在さえ知らない。いっかいの庶民からすると将軍の父親なんて多分想像もできない人だと思います」と話す。そして、本作での治済のポジションについては「諸悪の根源」だという。
「治済はとりわけ田沼意次、松平定信(井上祐貴)にとっては非常に厄介な人。将軍・家治が亡くなる前、治済について“あやつは天になりたいのよ。あやつは人の命運を操り将軍の座を決する天になりたいのだ。そうすることで将軍などさほどのモノではないとあざ笑いたいのであろう”と話していたように、彼はゲームメイクをしたいと思っている。将軍になりたいとかそういうことじゃなく、全てを自分の思うがままに動かしたい。言ってしまえば勝手な人。このドラマは庶民の蔦重と政治が対立する話ではなく、政治の話が進む一方で、じゃあその政治が行われるなかで庶民はどう生きていくのか、庶民の生活が変化していく中で政治はどう対処するのかを描いている。そのなかでは意次も定信も迷い葛藤することも多いと思うのですが、唯一ぶれない、そんなことは気にしないのが治済だと思っていて。このドラマにおいてどういう人なのかっていうと、一言で言えば諸悪の根源かなと。彼の気まぐれだったり、考えだったり、楽しみのために多くの人が亡くなっているわけで」
生田は「べらぼう」の出演発表時に「『鎌倉殿の13人』で源仲章を演じた際、あまりの悪役ぶりに多くの皆様に嫌われることとなりました(笑)。今回は“なんかむかつく仲章”を超えるべく、怪物と呼ばれた男、一橋治済をつとめます。ニコニコしながら邪魔者を次々と排除していく気味悪さを身勝手に演じたいと思います」とコメントしていた。そもそも生田にオファーした際、悪役と伝えていたのかと問うと、「それもまた複雑」だという。
「彼の周囲で多くの出来事、混乱が起こっていることをふまえると、善か悪かで言うと悪なんじゃないかなと思いますが、単純な悪役じゃないというか。主人公に対しては対立する側ではないので、“『べらぼう』の中の歴史で言うと厄介な人で、この人の感情だったり気分だったり、その気ままさが人々を翻弄していく人物なんです”ということはお話ししたような気がするんですけど。生田さんがおっしゃっている“気味悪さ”というのが一番合っているような気がします。悪い人というよりも“気に入らない”“嫌だ”“またこいつか”と視聴者にざわざわしてもらえるようなキャラクターになってほしいとお話しして、それを生田さんが見事に体現してくれていると思います」
なお、治済といえば第15回「死を呼ぶ手袋」(4月13日放送)のラストで松平武元が亡くなった晩、不敵な笑みを浮かべて人形を操る治済の姿が映し出され、まるで裏で糸を引いている黒幕が治済だと示唆するかのような演出が話題を呼んだ。本シーンに関しては「傀儡のシーンは(脚本の)森下(佳子)さんがイメージされたことです。人を動かすこと、何かを動かすのが好きだということですよね。第35回では能を披露されましたが、ああいったシーンは演出と森下さんとで作り上げています」と話していた。
息子・家斉(城桧吏)が十一代将軍となり、富と権力を手にした治済。生田斗真の怪演は毎話反響を呼んでおり、彼の極悪非道ぶりに戦慄しつつ、その暗躍に期待せずにいられない。(編集部・石井百合子)


