デヴィッド・リンチが遺した“最後の悪夢”『インランド・エンパイア』4Kリマスター版 1月公開決定

“カルトの帝王”として知られる映画監督、故デヴィッド・リンチの最後の長編映画『インランド・エンパイア』(2006)。リンチ監督自身が監修したその4Kリマスター版が、2026年1月9日より全国で順次公開されることが決まり、併せてティザービジュアルと予告編、場面写真が一挙解禁となった。リンチ監督は2025年1月15日に78歳で生涯を閉じており、今回の公開は没後1年、そして初公開から20年という二つの節目が重なるタイミングとなる。
本作は、監督・脚本から撮影・音楽・編集に至るまで、リンチ監督自らが手掛けた最も濃密な一作だ。主演はローラ・ダーン。映画への出演が決まった女優ニッキー・グレース(ローラ)が、共演者のデヴォン・バーク(ジャスティン・セロー)と不倫関係に陥り、次第に映画の物語と自身の人生の境界が曖昧になっていく悪夢のような不条理劇が描かれる。共演にはジェレミー・アイアンズ、ハリー・ディーン・スタントンら豪華キャストが名を連ねている。
制作は異例の手法で進められた。監督は、ローラとの偶然の再会をきっかけに14項のモノローグ脚本を用意したが、全体の脚本は完成させなかった。各撮影現場で思いついたシーンをその都度撮影するという手法がとられ、撮影中に浮かんだアイデアを次に撮るという繰り返しによって、リンチ監督自身も完成形がどのようになるのか分からなかったと語っている。また、全編がデジタルビデオカメラ(SONY PD-150)で撮影されたことでも知られる。なお、その難解な内容から、リンチ監督本人が残した言葉は「トラブルに陥った女の話」("about a woman in trouble”)の一つだけだ。
公開されたティザービジュアルは、リンチ監督が生前最後に承認したビジュアルを踏襲したもの。本作の舞台、ロサンゼルスの暗闇に浮かび上がるローラの表情を中心に据えた、強烈でミステリアスなデザインとなっている。予告編では、ローラ演じるニッキーが次第に精神的な危機に直面し、混迷を深めていく様子が印象的に描かれる。また場面写真には、ニッキーの姿に加え「AXXNN」という謎の文字や、ウサギの頭をもつ人物たちが一室に佇む不可思議な光景など、リンチ作品らしい難解さに満ちたカットが並んでいる。(加賀美光希)
『インランド・エンパイア 4K』は2026年1月9日より新宿ピカデリーほか全国順次公開


