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ブルース・スプリングスティーン、過去の痛みをさらけ出すことに躊躇しなかった理由 若き日を描く伝記映画の裏側

「一流シェフのファミリーレストラン」ジェレミー・アレン・ホワイトがスプリングスティーンを熱演
「一流シェフのファミリーレストラン」ジェレミー・アレン・ホワイトがスプリングスティーンを熱演 - (C)2025 20th Century Studios

 アメリカン・ロックの英雄、“ザ・ボス”ことブルース・スプリングスティーンの若き日を描く音楽ドラマ『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』が11月14日から日本公開された。ブルースを演じるのは、ドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」でゴールデングローブ賞やエミー賞の主演男優賞を受賞したジェレミー・アレン・ホワイト。『クレイジー・ハート』のスコット・クーパーが脚本・監督・製作を手掛ける。全米公開を控えた10月下旬、米ロサンゼルスのホテルで、ジェレミーやクーパー監督、そしてブルース本人らが、記者会見で本作の制作裏話を語った。

【画像】『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』フォトギャラリー

 1975年発売のアルバム「明日なき暴走」の後、「闇に吠える街」「ザ・リバー」と立て続けにロック史に残る名盤を発表したブルースは、「ザ・リバー」で初の全米ナンバー1ヒットを記録。しかし、1984年の「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」で世界的に大ブレイクする前、アコースティックギター1本で弾き語りする、時代に逆行するようなアルバム「ネブラスカ」をリリースしてファンを驚かせる。『孤独のハイウェイ』は、野心的な「ネブラスカ」がどのように生まれたかに焦点を当て、突然得た名声や自らの過去と葛藤する知られざるブルースの姿を深く描いている。

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 本作のプロデューサーが、あるポッドキャスト番組で、作家・ミュージシャンのウォーレン・ゼインズが「ネブラスカ」の制作過程を書いた本「DELIVER ME FROM NOWHERE」の話を聞いたことから、映画化がスタート。ブルースは自分の伝記映画を作ることは考えていなかったが、クーパー監督とウオーレンに会い、「ネブラスカ」を中心に展開するというアイデアが気に入ったという。

 「『ネブラスカ』のレコード制作以外にも、当時、私は多くの個人的な葛藤を抱えていました。それに、これは(よくあるような)音楽伝記映画にはならないだろうと思ったんです。キャラクター中心の音楽ドラマで、そこがすごく興味深いと思いました。スコットの映画を観て、彼が労働者階級の生活について真のビジョンと理解を持っていることはわかっていました。私は30歳になってある程度成功を収めた後も(地元)アズベリー・パークに住んでいましたし、スコットならストーリーのその部分をうまく捉えてくれると思ったんです」と、ブルースは振り返る。

 実際、本作はただヒット曲を並べたような音楽映画にはなっておらず、当時のブルースの内面の葛藤が、淡々とした語り口でつづられる。ここまで過去の痛みを見せることにはためらいがあったのではないかと思わされるが、ブルースは自分をさらけ出すことにまったく躊躇しなかったという。

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 「ソングライターは、自分をさらけ出すことに慣れているんです。アーティストなら、それが仕事の一部ですからね。別に勇気がいることではありません。でも、私が育った50年代の男らしさの固定観念は、現代ではまったく機能しなかったと思います。自分の感情に触れて、表現する必要があるんです。それが私の生き方でした。だから、このストーリーを選んだのは、とても自然なことだったんです」

主演のジェレミー・アレン・ホワイトとブルース・スプリングスティーン (C)Kevin Mazur

 本作では、普段目にすることのできない、アーティストの曲作りの神聖で孤独なプロセスが詳細に描かれている。クーパー監督は、ブルースの全面的な協力によって、当時の写真やアーカイブなど、すべてを参照することができたほか、ブルースと父親との関係も含め、これまで彼が誰にも話したことがない話をたくさん聞く機会に恵まれたと言う。

 「ブルースに子供時代の思い出をどう覚えているか尋ねると、彼は『“白黒”で覚えている』と答えました。だから『ネブラスカ』のジャケットも、ライナーノーツの写真もすべて白黒なんです。自分をさらけ出し、子供の頃から抱えてきた未解決のトラウマに真正面から向き合う勇気を持った男の姿を見せることが重要でした。それがアルバム『ネブラスカ』の創作の原動力になったんです」

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 一方、ブルースは、「スコットはこの映画で驚くべきことをやっています。彼は創造の行為そのものを描いているんです。もう50年、60年も創作を続けていますが、それは、今でも私には謎のままのものです。また曲を書けるかどうか、本当にわからないんです。ある種の要素があって、それはミューズや神々の手に委ねられています。そしてスコットは、ひらめきが湧いた瞬間から、何がインスピレーションを与えてくれるのか、どのようにそのレコードが完成するのか、空気中や頭の中にあるものを形にする過程を丁寧に描いています。本物の魔法ですよ」とクーパー監督の手腕を称える。

 ところで、ジェレミーとブルースは一見すると全く似ていないのだが、映画を観ると、本作のジェレミーには、若き日のブルースのスピリットが乗り移ったかのような説得力がある。「ジェレミー・アレン・ホワイトはまさにロックスターなんです。彼には威勢のいいところがあり、肉体や動き方に存在感があります。そして、何よりも彼には内面の激しさがあって、カメラはその激しさを捉えるんです。それがこの映画の重要な要素になると思いました。だから、彼は本当に私の第一候補でした。彼がこの役を引き受けてくれたことを、すごく嬉しく感じています」とブルースは語る。

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 ギターや歌を特訓して本作に臨んだジェレミーは、素晴らしい演奏を披露し、内面の微妙な変化を見事に表現、早くも来年の賞レース候補と噂されているが、ブルースを演じるのは、やはり大きな挑戦だった。

 「ブルース・スプリングスティーンほど有名な実在の人物を演じるのは、本当に気が遠くなるようでした。初めて会った時、ロンドンで彼のコンサートを観たんですが、すごく圧倒されました。でも、彼のことを知れば知るほど、ますます好きになり、尊敬の念がさらに強まりました。それで、プレッシャーはどんどん大きくなっていったんです。できる限り多くのことを学び、彼を観察し、彼の話を聞かなければ、と思いました。でも、物語に自信を持ち、スコットの脚本に、そしてこの特定の時期のブルースを演じることに集中することで、大きな安らぎを見出せたと思います」

 また、音楽評論家時代にブルースのライブを見て、「ロックンロールの未来を見た・・・その名はブルース・スプリングスティーン」という名言を残し、後にブルースのマネージャーとなるジョン・ランダウ役をジェレミー・ストロング(「メディア王 ~華麗なる一族~」)が好演しており、この2人の間の厚い友情も、本作の大きな核となっている。

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 ツアー中、長時間エネルギッシュに演奏している時と違い、とても物静かで、すべての質問に真摯に答える姿に、誠実な人柄を感じさせたブルース。最後に「ニューヨークのプレミアで、あなたはこの国を愛していると語り、トランプ政権に対しては、他の人々が沈黙を選ぶ中、率直な意見を表明し続けてきました。その選択について話していただけませんか」という質問を受けると「私にとっては大したことではありませんでした。なぜなら、この国について50年も(曲を)書いてきたからです。今にはただ仕事の一部のように感じられます。数回の公演のためにツアーに出かけることになったんですが、『この国は危機的状況にある。彼らをただ見逃すわけにはいかない』と思いました。そこで、世界中にアメリカの最高の理想を信じ、それが今も意味を持つと考える人々が存在するという考えを基に、セットリストを作りました。この国と理想には、戦う価値があるんです。だから、非常に簡単な決断でした」と答え、大きな拍手を受けていた。アーティストとして決して妥協しなかったブルースらしい発言で、いつまでも現役で活躍してほしいと願わずにはいられない。(Yuko Yoshikawa / 吉川優子)

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