2025年洋画ホラーの決定打!『WEAPONS/ウェポンズ』謎と不条理に満ちた怪作【レビュー】

2025年は、まさに洋画ホラーの当たり年。『ロングレッグス』『異端者の家』『サブスタンス』『罪人たち』『ストレンジ・ダーリン』『THE MONKEY/ザ・モンキー』など、意外性と独創性に富んだ作品が次々と日本公開された。そんな流れの中で、決定打といえそうなのが『WEAPONS/ウェポンズ』だ。北米で8月に公開されるや週末興行成績ナンバーワンの座に踊り出るばかりか、大手映画批評サイト「ロッテントマト」では批評家支持率93%という高数値を叩き出した注目作でもある。
【動画】子供たちが集団失踪…『WEAPONS/ウェポンズ』予告編
舞台は架空の町メイブルック。緑に囲まれた、静かで平和な町だ。ところが、ある夜の午前2時17分、同じクラスの小学2年の生徒17名が一斉に姿を消した。警察が捜査に当たるが、手がかりは一向につかめない。混乱し、焦燥する父兄たちは、担任教師ジャスティンの責任を問い、彼女に“魔女”というレッテルを貼り付ける。しかし、混乱し、焦燥しているのは生徒思いのジャスティンも同様だった。クラスの中でただひとり失踪しなかった教え子アレックスの存在に鍵があるとにらんだ彼女は、アレックスの自宅を監視し始める。
以上がストーリーのさわりの部分。これだけでもミステリーとしての面白さが十分に伝わるだろう。しかし、本作には他にも見るべき部分が多数存在する。本稿では、それらを紹介する。ネタバレは避けたいので抽象的な表現になる箇所もあるが、ご容赦を。
監督のザック・クレッガーは、2022年の『バーバリアン』で注目されたホラー界の俊英。『バーバリアン』がそうであったように、本作でも彼は複数の登場人物の視点で、パズルを埋めるように衝撃の事実を明かしていく。ひとりのキャラクターの視線では奇異にしか見えないが、複数の視点が結集すると、とんでもない何かが見えてくる構図。「本作には7人の主人公がいる」とクレッガーは語るが、うち6人の視点に寄った6章から本作は構成されている。
面白いことに、クレッガーによれば本作を作るうえで、もっとも影響を受けた映画はホラーではなく、ポール・トーマス・アンダーソン監督の名作『マグノリア』だという。孤独や喪失感を抱えた人々の群像劇という点で、『WEAPONS/ウェポンズ』は確かに似ている。孤立するジャスティンや、取り残されたアレックスはもちろん、息子の失踪を受け入れられず独自の調査に奔走する父親アーチャーや、妻との関係が冷え切っている警官ポールらの、満たされない思いがドラマとして機能する。面白いホラーは、リアルな人間ドラマとしても成立していることを証明して見せた。ちなみに、ポールは口ひげのある容姿を含めて、『マグノリア』でジョン・C・ライリー演じた警官を参考にしているとのこと。
キャラクターにある種の感情移入ができるから、ホラー映画に不可欠の恐怖の強度も増す。とりわけジャスティンやアレックスといった、弱い立場の人間に迫る危機にはゾクゾクさせられるだろう。血まみれ状態で走って突進してくる男や、森の中に潜む異様なメイクの老女の姿などの不気味なシーンはもちろん、バイオレンスやスプラッターも備えており、ジャンプスケアの点も抜かりない。ホラー映画の大ファンを自称するクレッガーだから、オマージュ的な描写も多く、『シャイニング』『永遠のこどもたち』『へレディタリー/継承』といった作品を想起させる場面もある。
何より恐怖を感じるのは、メイブルックという町の小社会の在り方だ。ジャスティンをスケープゴートにする人々の疑念と悪意、気を滅入らせてアルコールに依存するジャスティンという一個人の苦境、そして暗い事件によって引き起こされた町全体のストレス。他者への理解を示せない社会という点において、これは単に映画の中の出来事では終わらない。分断、敵意、絶望から、嘘や犬笛、ネットリンチのような細かなことまで、現代社会の縮図を見ているようでゾッとさせられる。そう、これはあなたの町の物語になるかもしれないのだ。
最後に俳優陣についても触れておこう。中心的な存在であるジャスティンを演じたジュリア・ガーナーは『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』でのシルバーサーファー役が記憶に新しい。逆境の中で必死に真相を追う、人間的な強さをにじませた好演が光る。ジャスティンを目の敵にしつつ、失踪した息子の行方を独自に調査するアーチャーにふんしたジョシュ・ブローリンは、本作の中でもっとも名の知れた俳優。ジャスティンとの対立の緊張や、子を思う親心の体現は観る者の目を引き付けずにおかない。『ストリート・オブ・ファイヤー』『フィールド・オブ・ドリームス』で知られるベテラン女優エイミー・マディガンの怪演も必見だ。
タイトルの「WEAPONS」は“武器”という意味。映画の中で何を指すのかはここでは語らないが、映画を観れば、それは大きな驚きをもたらすに違いない。まずは謎と不条理に満ちた怪事件に揺れるメイブルックの町に、足を踏み入れてほしい。(文:相馬学)
映画『WEAPONS/ウェポンズ』は11月28日(金)劇場公開(R18+指定)


