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【解説】ワーナーがNetflixに買収される…これからどうなる?業界内は猛反発&ひと悶着ある可能性も

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業界内は猛反発&ひと悶着ある可能性も
業界内は猛反発&ひと悶着ある可能性も

 歴史あるハリウッドのスタジオ、ワーナー・ブラザースと配信部門 HBO Max が、Netflixに買収される。ライバルスタジオであるパラマウント・スカイダンス、NBCユニバーサルの親会社コムキャストも手を挙げる中、お宝を手にしたのは、配信の最大手だった。Netflixはワーナー作品の劇場公開を維持するつもりと言うが、業界内ではすでに懸念の声や反対の動きが起きている。(文/猿渡由紀)

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 驚くべきスピード展開だった。パラマウントを買収し、パラマウント・スカイダンスのトップに立ったばかりのデヴィッド・エリソンが、次にワーナーの親会社でCNNなどケーブルチャンネルも抱えるワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を手に入れるつもりらしいと報道されたのは、わずか2か月前。当初沈黙を守ったWBDは、まもなく身売りをするつもりであること、他社からもオファーがあることを認め、Netflixとコムキャストが名乗りを挙げているのではとの推測が出た。しかし、Netflixの共同CEOグレッグ・ピーターズは「わが社は他を買うのではなく、すべてを一から立ち上げてきた」「歴史を見ても、メディア企業の合併は成功してきたとは言えない」などと曖昧な発言をし、人々を混乱させる。一方でパラマウント・スカイダンスはWEDに3度も具体的なオファーを提示しては却下された。その中では、WBDのCEOデイビッド・ザスラフに合併後の会社で地位を与えるとも述べている。

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  WBDの気持ちがNetflixに傾いている気配が出てきたのは、この数日のことだ。そう気づいたパラマウント・スカイダンスは、「買収において政府の承認を得られるのは自分たちだけ」「WBDは関係者の個人的な利益に揺るがされ、不公平な形で進めている」「Netflixは劇場公開に無関心。彼らが買えば映画館文化が打撃を受ける」など手紙を通じてWBDを説得しようとした。しかし、元々映画畑出身ではなく、税金対策のために完成間近の映画でもお蔵入りさせるなどし、映画業界内では決して尊敬されてはいなかったザスラフが映画文化の将来を判断材料にするはずはない。とは言え、業界がそこを懸念するのは明白であることから、Netflixも「ワーナー・ブラザースの映画は引き続き劇場で公開するつもりである」と主張し、両社は合意に至ったと発表したのである。

 ところで、Netflixが買収するのは、WBDの劇場映画と配信プラットホーム HBO Max のみで、CNNやディスカバリーを含むケーブルチャンネルビジネスは含まない。WBDは、買収の動きがどうなるかにかかわらず、来年中に会社を二つ(映画と HBO Max の会社と、ケーブルチャンネルの会社)に分割すべく動いており、片方だけ、あるいは全部、どちらの買収オファーも受け付けていた。コムキャストが欲していたのも映画とHBO Maxだけ、逆にパラマウント・スカイダンスが狙っていたのは両方。

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 Netflixによる買収が正式となるのは会社の分割が済んでからとなり、まだやや先。だが、それまでにもまだひと悶着が起きる可能性はたっぷりある。このディールには反対の声が非常に強いのだ。

 買収への合意達成のプレスリリースが出る前にも、ハリウッドのフィルムメーカーらは、下院に対し、この合併が起きれば劇場ビジネスが破壊されると警告する公開状を送っていた(具体的な署名がないのは、買収でより絶対的な存在となるNetflixから報復を受けたくないから)。アメリカの興行主団体 Cinema United も、「Netflixは劇場ビジネスではなく、テレビで成功してきた。十分な本数の作品を十分な期間にわたって劇場で上映し、マーケティングもしっかり行うという姿勢は、彼らにない。賞の資格を得るために、時々、限られた劇場で上映するだけだ。映画館ビジネスはコミュニティーに影響を与える大事なもの。映画のチケットが1ドルだとしたら、その都度さらに1ドル50セントが周辺のレストラン、バー、ショップに落とされることがリサーチでわかっている」とこの買収に抗議。民主党の上院議員エリザベス・ウォーレンも、「独占禁止法上の悪夢。合併した会社は配信市場の半分近くをコントロールし、消費者の選択肢が狭まって会費が値上げされる。雇用も失われる」と反対の声明を発表した。この懸念は党派を超えたもので、共和党の議員からも疑問視する声が聞かれる。

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 そして、悔し涙を流しているに違いないパラマウント・スカイダンスがどう出るか。エリソン一家、特にデヴィッドの父ラリー・エリソンは、トランプと親密な関係にある。デヴィッドが創設した製作会社スカイダンスがパラマウントを買収するにあたり、スムーズに進めるべく、パラマウントは、トランプに吹っかけられていた訴訟を、示談金を払うことで解決。それについて傘下のCBSのトーク番組ホスト、スティーヴン・コルベアが番組内で「賄賂だ」と批判すると、番組の打ち切りを決め、トランプを喜ばせてもいる。これらの行動には業界の内外から批判が出た。

 また、つい最近、パラマウント・スカイダンスは、トランプのプレッシャーを受けて映画『ラッシュアワー』シリーズ第4弾の配給を決めている。過去3作を監督し、今回も続投するブレット・ラトナーは、「#MeToo」騒動でハリウッドから追放された人物で、過去作を製作配給したニューライン・シネマ(皮肉にもWBD傘下だ)を含むほかのスタジオは、配給を拒否していた。なぜここにトランプが出てきたかというと、ラトナーは、メラニア・トランプのドキュメンタリー映画『メラニア(原題) / Melania』を監督しているのだ。製作を手がけるのは、『ラッシュアワー』シリーズのプロデューサーで、トランプを褒め称えるドキュメンタリー映画『ザ・マン・ユー・ドント・ノウ(原題) / The Man You Don’t Know』のエクゼクティブ・プロデューサーでもあるアーサー・M・サルキシアン

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 このように培ってきたトランプとのパイプを、エリソンが使わないはずはないだろう。さらに、Netflixの創業者で会長のリード・ヘイスティングスは2016年の大統領選でヒラリー・クリントン、2024年でカマラ・ハリスを支持、共同CEOテッド・サランドスも過去にバラク・オバマのために資金集めパーティーを主催したという事実がある。トランプが政治的判断に個人的怨念や忠誠心を持ち込むのは、いつものこと。この買収ドラマには、まだまだ続きがありそうである。

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