横浜流星、「べらぼう」最終回で減量していた 病に倒れる展開で「水も断ちボクサーのように…」チーフ演出が明かす

横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)が14日に最終回を迎えた。本作のチーフ演出を務めた大原拓が、横浜が減量して収録に臨んだという蔦屋重三郎の最期、そして約1年半にわたって座長を務めた横浜の成長について語った。
大河ドラマ第64作「べらぼう」は、江戸時代中期、貸本屋から身を興して書籍の編集・出版業を開始し、のちに江戸のメディア王として時代の寵児となった蔦屋重三郎(横浜流星)の物語。脚本を大河ドラマ「おんな城主 直虎」やドラマ「大奥」シリーズ(NHK)などの森下佳子が務めた。
最終回では蔦重が脚気に倒れ、弱っていくさまが描かれた。横浜はわずか1エピソードで、太陽のように明るく生命力あふれていた蔦重が死にゆく過程を表現するにあたり、自ら減量して収録にあたった。
「脚気というものがどういう風に弱っていくのかっていうのは、医師に取材させていただいたメモを共有し、どちら側の足を悪くするのか、そのためにどういう風にしていこうかというような話し合いをしていきました。弱っていく時期は、1週間とか2週間で表現しなくちゃいけなかったんですけど、脚気は最終的にやつれていくそうなので、そういったところは横浜さんご本人も意識して、食を絶つのみならず水断ちもして。最後の方は、ボクサーのように(体重を)落としてこられてました。だから、よく見ると顎のラインや胸元の辺りなどはだいぶ違っているんです。精神面に関しても医師とお話しながら、横浜さんとどういう体勢で最後を迎えるのか、“寝たきりにする? いやだよね?”とかいう話もしながらやらせていただきました」
蔦重は脚気を患ってからも引っ込むことはなく、「死」をネタにして本を売ろうとするなど最後まで本屋であろうとした。喜多川歌麿(染谷将太)、朋誠堂喜三二(尾美としのり)、北尾重政(橋本淳)、北尾政演(古川雄大)、大田南畝(桐谷健太)らなじみの面々を集めて新作を出すべく奔走。寝たきりになることもなく、きょうそこ(※肘掛け)を置いて座っていたが、演じる際にはかなり肉体的な負担を伴ったという。
「その人物になり切ったうえでどういうふうに終わるのかということへの取り組み方だと思うんですよね。そこは表面的にもちゃんと演じているし、弱っていく声の出し方なども含めてきっちり研究されている。横浜さんご自身でイメージをしっかりを持った上でやってくださったなという気がします。蔦重が劇中で前にきょうそこを置いて座っているのですが、左足に筋力がない状態なんですね。裏設定として、徐々に両足とも力がなくなっていく状態にあるので、本当は座るのがすごい辛いんです。あまり力がないから寄りかかることが辛くて、前かがみできょうそこに寄りかかりつつ、横から(妻の)てい(橋本愛)が支えている。実際に力をちゃんと抜いた状態で芝居をやってくれていたんですよね。なのでずっと“腰がやばい、腰がやばい”とおっしゃっていました」
蔦重の臨終については脚本の森下が実際に蔦重の墓碑に描かれた大田南畝と宿屋飯盛の文章をもとに描写しているが、蔦重となじみのあった面々たちが一堂に集結する展開はドラマオリジナル。事切れた蔦重をよみがえらせるべく、彼らが“屁踊り”を繰り広げる場面は「とにかく来られる人には声をかけて来てもらいましょう」とキャストを総動員することとなった。
「蔦重に関わった人みなで蔦重を屁で送る、そういう風に見えるといいよねっていうようなところから始まっています。面白いのは、これまでも劇中で何回か屁踊りがあったんですけど、ベテランと初参戦の方がいて。ベテランの(南畝役の)桐谷健太さんは“なんでも言って。教えてあげるから”と(笑)。(鶴屋役の)風間(俊介)さんも初参戦で、(ふじ役の)飯島(直子)さんとかも“どうやるの?”と心配されていたんですけど、ちゃんとみなの振りを見てやられていました。なんとなく屁踊りのベテランの動きに合わせてやっているような感じがありました(笑)。いずれにせよ、あそこで大事なのは、今までの屁踊りは楽しむためにやっていたもので正面を向いて踊っていたんですけど、最終回では蔦重を想っての踊りなので、蔦重の方を向いているんですよね。なおかつ“楽しまないでくれ”ということだけ言いました。蔦重に向かって本気で戻ってこさせる思いでやってくほしいということはお伝えして、あとは皆さんが勢いでやってくださった感じです」
大原が特にグッときたというのが、歌麿が蔦重に「死ぬな」と励ますシーン。新作「山姥と金太郎」を見せ、泣きたい気持ちをこらえて笑顔で「このあと二人がどうなってくか見たくねえか?」「なら死ぬな」と鼓舞する。
「蔦重と歌麿のシーンというのはずっと、第1回の唐丸時代(歌麿の幼少期)から続いてますし、そういった意味では歌麿との紆余曲折もあるのでいろんな思いを感じましたね。歌麿の“死ぬな”っていう一言でグッとくる。その染谷さんのお芝居を受ける横浜さんも、今までとは違う表情だったと思います。あのシーンではお二人に“死に向かわないでほしい”ということはお伝えしました。死を前にした人に暗い顔で死ぬなとは言わないと思いますし、誰よりも優しいのが歌麿なのでそれをちゃんと表現してほしいと。ただ、染谷さんには絶対的な信頼がありますし、台本を読んだ時点で理解されるのでああいう表現になるというか。それを受ける横浜さんもちゃんとわかっている。そういった意味でも、二人のこれまでが凝縮されたシーンでしたね」
クランクインの頃は横浜の笑顔がチャーミングだと話していた大原だが、最終回を迎え、横浜の変化や俳優としての成長を感じることはあったのか?
「とにかくストイックにやられるベースメントは変わらないのですが、やはり1人の人物をここまで長い期間演じるのは初めてでしたし、その責任感とか、そういった表現をしていく様というのは全然変わったと思います。後半は、受けの演技が円熟味を増したといいますか。これまで人にぶつけてきたものを受け止めていくのか。年を取るにつれ、若い子たち、周りの絵師、狂歌師、戯作者たちもをどういう風に受け止めて表現していくのか。横浜さんともお話ししたのですが、成功者特有の傲慢さだったり老害感といいますか、そうしたものをどう表現していくのかというのは苦労されていましたし、その過程で見つけた答えっていうのはいろいろあったんじゃないかという気はします。そうしたものを咀嚼して、最終話に向かわれたんじゃないかなという風に感じます」
蔦重が放った最後の言葉に関しては「ごく普通にしれっと言う。最後の一言だからどうしたいとか、それはない方です」とも言い、横浜の約1年半にわたる奮闘を称えた。
なお、総集編が12月29日、NHK総合・BSP4Kにて午後0:15~4:03(※途中ニュース中断あり)で放送される。(編集部・石井百合子)


