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Netflix映画『10DANCE』何が凄い?『国宝』に通じる魅力を考察

スタンダードダンサーの杉木信也(町田啓太)とラテンの鈴木信也(竹内涼真)
スタンダードダンサーの杉木信也(町田啓太)とラテンの鈴木信也(竹内涼真)

 12月18日にNetflixで配信がスタートした映画『10DANCE』が話題を呼んでいる。井上佐藤の漫画を『るろうに剣心』シリーズなどの大友啓史監督が竹内涼真町田啓太を主演に迎えて実写化した本作は、競技ダンスの世界が舞台。競技者は基本的にラテンダンス、スタンダードダンスと2つに分かれるが、ラテン、スタンダード、それぞれ5種の計10種をこなすという過酷な「10ダンス」に挑むダンサーたちの物語が展開する。ラテンの日本チャンピオンである鈴木信也と、スタンダードで世界2位の記録を持つ杉木信也。たがいの専門分野を教え合ううちに、2人の関係が劇的に変化していく映画『10DANCE』は、どんな魅力に満ちているのか(※一部ネタバレあり)。(文:斉藤博昭)

『10DANCE』人物デザイン監修・柘植伊佐夫による衣装デザイン<7点>

~以下、一部映画のネタバレを含みます~

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 『10DANCE』は、鈴木信也と杉木信也という2人のダンサーの関係に徹底的にフォーカスする。それゆえに彼らのダンスに懸ける熱いパッションと、互いへの思いに、観ているこちらも集中し、耽溺することになる。もちろん鈴木の競技パートナーの田嶋アキ、杉木のパートナーの矢上房子も重要な役割ではあるし、杉木の元恋人もいる世界王者ペアも登場するのだが、ストーリーは鈴木と杉木の関係から、ほとんど脇道に逸れない。そこが1本の映画として、いい意味で観やすい作りとなった。ダンスをテーマにしたフィクションの映画やドラマの多くは、そこで語られる人間関係がメインとなり、ダンスシーンは見せ場に限られ、少なかったりもする。しかしこの『10DANCE』は、意外なほどダンスシーンの分量が多い印象。その効果、「上品な求愛」のワルツ(=スタンダード)、「むき出しのエロチシズム」のラテンという2つのジャンルが鮮明に浮かび上がり、さらに各々を体現する杉木(スタンダード)と鈴木(ラテン)の性格も、そこにすんなりと重なり、2人のコントラストを強める。真逆のスタイルが、各5種の「10ダンス」の練習によって混じり合い、そのプロセスが2人の距離を縮める。この流れが、豊富なダンスシーンによって実にスムーズに感じられるのだ。

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 ここで重要なのがキャスティング。豪放で、文字どおり欲求を“むき出し”に挑発しながら踊る鈴木役が竹内涼真。わずかなミスも許さず、美しい“型”を決める、ストイックな杉木役が町田啓太。彼らの俳優としてのイメージと、演じるキャラが見事にマッチしているのは多くの人が感じるはずで、絶妙な配役もすんなりと作品に溶け込めるポイントとなった。ただし、物語が進むうちに、俳優の一体感、役の関係性に“揺らぎ”も生じる。冒頭こそ鈴木=竹内のオラオラ的な“攻め”、杉木=町田の静謐で真摯な“受け”の魅力が際立つが、やがてスタンダードダンスにおける杉木のリードする能力、つまり相手を自分の思うままに操る天性が、2人の愛の関係も支配していき、イメージと立ち位置の逆転が、観ているこちらの心を激しくざわめかせる。竹内は、一大ブームを起こしたTBSの10月期ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」でも(元)亭主関白思考の勝男役の変化を名演したが、本作ではダンスでの従属が、愛の従属に影響するという微妙な関係性の変化とともに、2人の俳優が各々の持ち味を“変化”させていく過程も、艶かしい魅力となっている。

ラテンのペア・田嶋アキ(土居志央梨)&鈴木信也(竹内涼真)

 そして俳優たちにとって最もチャレンジングだったのは、競技ダンスのトップとしての力量だ。ダンスシーンが多い本作なので、わずかな違和感も目立ってしまうリスクも抱えたが、竹内も町田もその高いハードルをクリアしている。クラシックバレエもそうだが、それらしく見せる重要ポイントの一つが、腕の角度や位置。例えば「肩に落ちた一滴の水が肘をつたい、指先へと流れる」ように求められる。付け焼き刃の練習では絶対に不可能なこの腕のポジションを、彼らは肉体になじませることに成功した。この完璧さは、パートナー役の土居志央梨(アキ役)、石井杏奈(房子役)にも通じ、町田啓太も含めダンス経験を持つキャストたちとはいえ、競技ダンスをここまで極めた努力は賞賛されるべきだろう。

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スタンダードのペア・杉木信也(町田啓太)&矢上房子(石井杏奈)

 これら『10DANCE』の美点を並べたとき、多くの人が感じるのは『国宝』との相似ではないか。性格や経歴も異なる2人の男が「芸」を切磋琢磨し、互いにリスペクトを抱く。『10DANCE』が主人公2人のドラマを軸にしたように、『国宝』の映画版も原作の細部を削りに削って、2人の運命に絞られた。そして演じる俳優たちも過酷なトレーニングを積んで、歌舞伎、ダンス、それぞれのジャンルで最高のテクニックに近づこうとし、その成果が映像に焼きつけられた。『10DANCE』の鈴木と杉木の間では、直接的な愛の関係も描かれるが、この後に『国宝』を観れば、喜久雄(吉沢亮)と俊介(横浜流星)の関係も別アングルで解釈できるのではないか。そしてそこに原作者、吉田修一の隠れた真意を読み取る人もいるのではないか。

 『10DANCE』は劇中で何度も、ダンスは愛があってこそ完成することが語られ、そこに作品のテーマを置いていることは明らか。主人公2人の顔を鏡を使って重ね合わせたり、鈴木、杉木が、それぞれ相手のダンスを眺めながら感動に打ち震えるシーンも対になっていたりと、全編でテーマを強化する演出がほどこされる。だからこそ、あの怒濤のクライマックスのダンスが、愛の一つの結実として感動を生むのである。そしていったんは着地した運命の、その先を今すぐにでも追いかけたくなるという意味で、これは究極のラブストーリーとなった。

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