『国宝』歌舞伎メイクで紆余曲折 オスカーノミネートの瞬間「驚きしかなかった」

第98回米アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされている映画『国宝』(公開中)の記者会見が27日、丸の内の日本外国特派員協会で行われ、豊川京子(ヘアメイク)、日比野直美(歌舞伎メイク)、西松忠(床山)、李相日監督らが現在の心境を語った。
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吉田修一の同名小説を『フラガール』『悪人』などの李監督が映画化した本作。極道の息子として生まれながら歌舞伎役者の家に引き取られた喜久雄(吉沢亮)の半生を追う。日本時間1月22日に発表されたアカデミー賞ノミネーションにおいて、日本映画初となるメイクアップ&ヘアスタイリング賞の候補に入る快挙を達成した。
ノミネートが発表された瞬間は驚きの気持ちが大きかったといい、西松は「驚きしかないですね」と振り返ると、「われわれは舞台の後ろから俳優さんを支える仕事なので。僕も舞台の仕事をしている人間なので、まさかこういう席に呼んでいただけるとは思っていなかったですし、ましてやアカデミーなんて。夢のようでございます」と心境を語る。
日比野も「最初は驚いて、自分のことではないような気がしていたんです。少し落ちついてから、これはわたしにいただいたんではなく、何百年も続いた日本の伝統芸能にいただいたものだと思うようになった。これまで継承してきたもの、師匠とか、一緒にお仕事してる皆さんに助けられたり、勉強させていただいたことが、世界の方にも認めてもらえたのかなと思い、とてもうれしく思いました」と続けると、豊川も「不思議な気持ちでした。一度、ベイクオフ(アカデミー賞にノミネートされるためのプレゼン)のためにアメリカに行くことができて。それだけでもうれしかったのに、まさかノミネートまでいくなんて」と感激の表情。
さらに「実際に22日の夜に結果が分かると聞いて。仕事から帰ってきてからもずっと待ってたんですけど、ないよなーと思ってたんです。そうしたらプロデューサーから『おめでとうございます』とLINEが来て。『は?』という感じで実感はありませんでした。この映画は歌舞伎を題材としたということで、白塗りメイクが本当にすばらしかったし、かつらもすばらしかった。ならわたしは何をやったのだろう、なぜノミネートされたのだろう。わたしはただチームの統括としていただけ、そっちの方の気持ちが大きくなってしまったんですが、でもたまにはこういうのいいよねと思いました」と笑うと、日比野からは「わたしは映画の現場が初めてですから。京子さんからは映画の現場のことをたくさん教えていただいた。本当に京子さんには感謝しかない」と思いを述べた。
歌舞伎俳優を映画俳優が演じることとなった本作。登場人物たちの50年という物語の時間の長さを表現するとともに、歌舞伎俳優としてのリアリティーを追求することが求められた。豊川も「最初は全部のメイクをやれと言われたんですけど、でもわたしとしては歌舞伎のメイクは別物だと思っていたので。一応練習はしてみたけど、やるうちにどんどん役者に失礼だと。にわか仕込みの我々がやるようなことではないと思うようになった」と語る。紆余曲折を経て、西川、日比野ら専門の技術職が参加することとなり「本当に肩の荷がおりました。映画の中のストーリーで50年間を描かないといけないので、そこに集中することができました」と振り返る。
一方の日比野は、普段の舞台の仕事との違いを明かす。「舞台ならだいたい2時間から3時間くらい白乗りが乗っていればいいんですが。しかし映像の場合は撮影時間が長いので。1日に10時間くらいきれいにしなくちゃいけない。それが大変でした。特に映画はアップになることもあるので、近くでもきれいに見えるようにと考えていました」
床山の西松は、実際に歌舞伎俳優ではない俳優たちに、いかにして長時間、重いかつらを頭にかぶってもらうか、ということに苦心した。「いかに長時間、重いものを頭にのせて、耐えられるか。撮影中ワンカットで、20回くらいかつらをかぶせたり外したりということもありました。時間も朝の6時くらいからメイクをはじめて、長いときは次の日になることもありました。それぞれにかつらを合わせるけど、ご本人たちが慣れないため、ここが痛いというところも出てきて。そこが苦労した点ですかね」と明かす。
本作が外国の観客にも評価されていることに驚きを隠せない様子の李監督は、この3者への賛辞を惜しまない。「われわれはメイクや衣装の奥に潜む人間性を描こうとしていたので。その奥を見せる上での、外側の見た目を完全に作り込んでいただいた。そのすばらしさを讃えたいと思います」と語ると、会場からは拍手が送られた。
また、仕事をする上で大事にしていることについて質問された豊川は「この仕事をはじめて45年になるけど、大事にしているのは監督のビジョンを大事にすること」と強調する。「どれだけ台本を読み込むか、キャラクターづくりを大事にするということ。そして俳優さんと監督の間に立って、監督の気持ちを役者の気持ちを伝えたい。それによって俳優の心が開くということを目の当たりにして、映画ってのはメイクだけじゃないんだなと。これは語弊があるかもしれないし、怒られちゃうかもしれないけど、全体を通して、ある意味監督にもなっちゃう。それくらいの気持ちで真摯に向き合って、もちろん監督が大事にしているものも受け入れ、こうしたいというのを言えるようにしていたら45年たってしまいました」と仕事を進める上での矜持を語った。
さらに日比野が「わたしは前職がOSK日本歌劇団の所属で、自分も舞台に立っていました。それをやめて子育てしていたんですが、その最中に誘いを受けてやることになりました。子どもの頃から芸事しかしてこなかったので、この仕事ならわたしにもできるかなと、軽い気持ちでしてきたけど、30年ほど経って。そのほとんどを弟子として過ごしました。今回評価していただけたのは、OSKの頃にたくさんいろんな思いをして、学んで、弟子の時代にたくさん教えていただいたことが評価につながったんだなと最近しみじみ思います。何ひとつ無駄なことはなかった」としみじみコメント。
さらに西松も「わたしも45年くらい。経歴は学校を卒業してから、内弟子といって、住み込みで劇場なり、仕事場に行って、毎日鍛錬、仕事をしてました。『国宝』に出てくる映画のかつらだけでなく、日本髪を結うということは大変な技術が必要なんです。朝から晩までおけいこして、本番でつかえるようになるまで大変な技術が要ります。師匠に言われたのが、かつらを結うときは、役の性根をつかんで仕事をしろと。それは今でも心がけていること。400年以上続く歌舞伎のかつらですが、それを先輩方から技術を教わってやってきました」と自負した。(取材・文:壬生智裕)


