『教場』生徒役キャスト、“木村教官”の監視下で2か月所作特訓

木村拓哉が主演を務める大ヒットシリーズの集大成、映画『教場 Requiem』(公開中)。警察学校の冷徹な教官・風間公親を描いた本作で、メガホンをとりプロデューサーも務めた中江功監督が、生徒役のキャストに課された壮絶な訓練の裏側と、現場の空気を一変させる木村拓哉の圧倒的な「座長力」について語った。
警察官の所作は約2か月特訓 条件反射で身についた敬礼
シリーズを通じて、画面から漂う張り詰めた緊張感が観る者を惹きつける『教場』。特に、警察学校の生徒たちが魅せる一糸乱れぬ敬礼や整列といった所作の美しさは、作品のリアリティを支える重要な要素となっている。生徒を演じるのは、綱啓永、齊藤京子、金子大地、倉悠貴、井桁弘恵、猪狩蒼弥(KEY TO LIT)ら。劇中、上官らと対峙した瞬間に反射的に行われる敬礼など、生徒役キャストたちの動きは演技を超えた「条件反射」の域に達しているようにさえ見える。中江監督によれば、それは現場での積み重ねが生んだ自然な反応だったという。
「訓練を重ねるうちに慣れてきて、帽子を被っている時に相手が来ると自然と敬礼をするようになっていました。やらなくてもいい場面でもついやってしまったり、自主的に指導担当の方へ“ここは敬礼する場所ですか? しない場所ですか?”と確認して動いていましたから、自然と劇中でも敬礼のシーンが多くなったのかもしれません」
ただ単に形を真似るだけでは、あの規律正しい集団美は生まれない。その背景には、警察指導担当者による一切の妥協を許さない指導があった。撮影が始まるはるか前から、生徒役の俳優たちは本物の警察官さながらの厳しいチェックを受けていたというのだ。
「相当訓練していたと思います。私は半分ほどしか見ていませんが、警察指導の方が非常に厳格な方でした。“撮影までには絶対に仕上げないと駄目だ”と。手の角度や位置、向きなどにとても厳しくて。所作は一番分かりやすく、役者同士でも見て直せる部分なので、何度も練習したのだと思います」
映画やドラマの撮影において、役づくりのための準備期間は作品によってまちまちだが、日々の撮影をこなす以前の、警察官としての「土台」を作るために必要不可欠な時間だったようだ。
「どのシリーズでも毎回同じですが、期間にすると平均して2か月くらいやっているのではないでしょうか。毎日ではありませんが、それくらいの期間を費やしています」
制服姿で登場した木村拓哉が現場を一変させる
そして、その過酷な訓練期間にさらに緊張感をもたらしたのが、教官・風間公親を演じる木村自身の関わり方だった。主役である木村が、カメラの回っていない訓練の段階から姿を見せることによって、現場の空気は劇的に変化したという。そこには、単なる共演者としての参加以上の、作品の世界観を構築するための意図的なアプローチがあった。
「今回も来られましたね。突然現れるのですが、それも制服を着てくるんですよ。だから皆に緊張感が走りました。あえて最初からそういう空気を作ってくれたのだと思いますが、すごく良かったです」
数々の名優と現場を共にしてきた中江監督にとっても、木村拓哉という俳優が現場にもたらす影響力は特異なものに映るようだ。木村がセットに足を踏み入れた瞬間、スタッフを含めた全員の背筋が伸びるような感覚。
「やっぱり彼がいるのといないのでは、まったく雰囲気が変わります。もちろんそれは恐怖心や扱いにくさから来るものではなく、彼自身が役柄を纏って現場に入ることによる、プロフェッショナルな波及効果という意味合いです。今回の役柄だからこそ、余計にピリッとした空気をしっかり作ろうと本人が意識していたのでしょう」
木村が常に現場を張り詰めさせているわけではない。過去に中江監督とタッグを組んだ連続ドラマ「プライド」(2004)や「若者のすべて」(1994)、あるいは他作品で見せる顔は全く異なる。作品のトーンや演じる役柄に合わせて、現場全体の「居方」や「空気」をもコントロールしてしまうのが、木村拓哉という俳優の真骨頂なのだ。
「20代の頃からそうだったかというと、全然違うと思います。『HERO』(2001)のような作品をやっている時は、絶対にそんな空気にはなっていないはずですから。やはり作品によると思います。例えば『グランメゾン東京』のような仲間の物語であれば、逆に柔らかい空気を作っているはずです。全体の空気作りを含めて、その日の撮影シーンに合わせて、彼自身が現場を作っている気がします」
数々の俳優とタッグを組んでいる中江監督が、近年の俳優の中でこれほどまでに「いるだけで空気を変える」存在は稀有だと語る。木村が『教場』の現場で見せた佇まいは、やはり唯一無二のものだったようだ。
「役者さんによっては“今日はこういうシーンを撮るから”と意図的に緊張感をもたせることはありますが、本人が意図せずとも周囲が思っている以上の空気になってしまうというのは、独特かもしれません」
カメラが止まっている間の談笑すら一切見せず、徹底して風間公親として存在し続けた木村。そのストイックな姿勢が、生徒役のキャストだけでなく、スタッフ全員の意識を高め、映画『教場 Requiem』の張り詰めたリアリティを生み出したと言えるだろう。(取材・文:磯部正和)


