植木鉢で人を…『しあわせな選択』鬼才パク・チャヌク監督&イ・ビョンホンが最も話し合ったシーン

映画『しあわせな選択』(全国公開中)を引っ提げ来日した鬼才パク・チャヌク監督がインタビューに応じ、長編映画では25年ぶりのタッグとなった主演のイ・ビョンホンと、最も話し合って撮影したシーンを明かした。(以下、本編の内容を一部含みます)
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物語は、製紙会社に勤める主人公・マンス(イ・ビョンホン)が25年間勤めてきた会社を突然解雇されるところから始まる。妻と二人の子供、2匹の犬との幸せな暮らしを一瞬にして失い、再就職先も決まらないマンスは、やがて「ライバルがいなくなれば、仕事は手に入る」という衝撃のアイデアを思いつき、常軌を逸した行動に出る。
原作は、パク監督が最も描きたかったという小説家ドナルド・E・ウェストレイクの「斧」。失業中の主人公が、ライバルたちを次々と殺めていく展開に強く惹かれたという。
「物語の中で、主人公は25年間身を捧げてきた会社からたった1日で解雇されるという裏切りによって、困難に見舞われます。当然悔しいですし、全てを奪われた気持ちになりますよね。普通だったら、矛先は企業か、あるいは資本主義の体制そのものに向けられるはずですが、彼は企業には立ち向かいません。やったところで効果はない。完全に敗北者としての心構えができてしまっているからだと思います。では、どこに矛先を向けたかというと、同じ被害者です。哀れな人たち、もしかしたら親友になれそうな人たちに銃を向けることになってしまうのです。お互いに労働者が殺し合わなければいけない描写が非常に悲しくもあり、そして同時に現実的だと思いました」
窮地に陥ったマンスは、就活中の自分を無下にした製紙会社の班長チェ・ソンチュルを手にかけ、彼の後釜を狙おうと考える。ソンチュルが通話中、屋上から大きな植木鉢を手に取り、彼の頭部に落とそうとするが、ふと我に返ったことで実行には移さなかった。
この時、殺人衝動に駆られるマンスの表情が印象的に収められている。パク監督曰く、このシーンこそイ・ビョンホンと最も話し合って撮影したシーンだったという。
「イ・ビョンホンさんと一番話し合ったのが、まさにそのシーンなんです。というのは、最初は、マンスも殺人を犯すことは考えていなかったはず。彼は植物を愛し、植木鉢や盆栽をたくさん持っていて、命を育てることが好きな人なんです。そんな人物が、初めて殺人を犯すかもしれないという考えに囚われたのがあのシーン。彼の考えが決定的に変わる転換点になったシーンなんです」
「その前日にマンスが妻と交わした会話も、無意識のうちにそう思ってしまった理由の一つだと思います。ソンチュルのYouTubeチャンネルを一緒に見ながら、妻は『雷が落ちればいいのに 雨の日に尖った傘をさして』と言います。その時からマンスの頭に、“殺人”が無意識にちらつき始めたんだと思います。妻も冗談で言ったはずが、かえってマンスにインスピレーションを与えてしまった。この映画におけるアイロニーの1つでもあるのです」
殺人犯になる一歩手前で踏みとどまったマンスについて、「ビョンホンさんも演技的にすごく大変で、苦労したシーンだったと思います」と振り返ったパク監督。「あのシーンで、私が監督として彼を助けられることがあるとしたら、植木鉢だと思ったんです。植木鉢には穴が空いていて、水が顔を伝ってポタポタと流れていきます。そこで頬を伝う時、マンスが涙を流しているかのように見せられればと、カメラを回していたんです。恐らく、マンスはハッと我に返り、気を引き締めたと思います。もう一度考え直して、この行動を止めなければいけないと思ったはず。水を浴びながら『自分は今、何をしているのだろう』と悟ってもらうための仕掛けとして、あの演出を考えてみました」とビョンホンの演技をより一層際立たせるためのこだわりを明かしていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)


