ピクサー史上最もぶっ飛んだ『私がビーバーになる時』で“ブレイントラスト”が果たした役割

ディズニー&ピクサー最新作『私がビーバーになる時』のダニエル・チョン監督とプロデューサーのニコール・パラディス・グリンドルがインタビューに応じ、ピクサー史上最もぶっ飛んでいると言っても過言ではないほど破天荒な本作の誕生を、ピクサーがどう支えたのかを明かした。
本作の主人公は、思い出の森を守るためなら何だってする、猪突猛進型の大学生メイベル。彼女はビーバー型ロボットに自分の意識を転送し、森の動物たちをたきつけて人間たちの高速道路建設計画を潰そうとするのだが、それが想像以上の激しさになってしまう……というハチャメチャなアドベンチャーだ。
もともとピクサーのストーリーアーティストだったチョン監督は、ピート・ドクター監督作『インサイド・ヘッド』(2015)に携わった後にピクサーを離れ、カートゥーン・ネットワークのテレビシリーズ「ぼくらベアベアーズ」を6年にわたって制作。そんな時に、ピクサーのチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)となったドクターから「戻って来ないか」と誘われて、新作のアイデアを提案し、それが6年かけて『私がビーバーになる時』へと結実した。
グリンドルは「彼(ピート・ドクター)は最初の提案を聞いた瞬間から、この映画を気に入ってくれました。彼は常にこの作品を愛し、ダニエルを全面的にサポートしてくれました」と明かす。チョン監督も「ピートはこのプロジェクトにおいて、本当に素晴らしいパートナーでした。ニコールが言ったように、彼は制作にゴーサインを出した瞬間から僕たちを信じてくれました。僕はストーリーアーティスト時代に『インサイド・ヘッド』で彼と一緒に働いたことがあるのですが、彼から学んだ最も重要なことは“自分のアイデアに固執しすぎない”ということです」と切り出す。
「彼は、それが正しい選択かどうかを確かめるために、自らの映画に対して大胆な変更を加えることを厭いません。もしうまくいかなければ、いつでも元に戻せばいいという考えで、恐れを全く持っていないんです。こうした映画を作るには、その姿勢が必要なんだと思います。早い段階で何かにこだわりすぎてしまうと、そこから抜け出せなくなり、映画を最大限に良くするチャンスを逃してしまうかもしれないからです」(チョン監督)
「方針を転換して大きな変更を加えるのは、どんな映画製作者にとっても骨の折れる仕事ですし、怖いことです。膨大な作業が伴いますし、小さな変更のつもりが映画を台無しにしてしまうのではないかという不安もつきまといます。ですが、ピートは“とにかくやってみることを恐れない”ことのお手本を示してくれました。僕はその教えを本作に持ち込み、チームの運営にも活かしました。それこそが、彼と一緒に働いて得た最大の収穫です。ピートも僕たちの仕事の進め方を高く評価してくれましたし、自由にやらせてくれました。僕たちのやり方に、彼自身の面影を重ねていたのかもしれません」(チョン監督)
ピクサーは“ブレイントラスト”と呼ばれるさまざまな監督たちが率直なフィードバックを送り合う会議を経て、すべての映画を洗練させていくことで知られる。本作のストーリー開発においても“ブレイントラスト”が大きな支えになったとグリンドルは振り返る。
「ピクサーにおける最大の強みは、過去にここで多くの成功作を世に送り出してきた監督たちが大勢いて、彼らがわたしたちを導いてくれることだと思います。ストーリーには4、5年を費やしました。実は、完成の直前まで変更を加えていたんです。ですが、その過程を通じてずっと、ピート・ドクター、ピーター・ソーン、キリ・ハート、アンドリュー・スタントン、リー・アンクリッチといった面々が方向性を示し、助言をくれました」(グリンドル)
「メイベルを共感できるキャラクターにし、なぜ彼女がこれほど懸命に闘っているのかを観客に理解してもらえる段階にたどり着くまでは、本当に苦労しました。時として彼女は怒りっぽく、生意気に見えることもあり、『このキャラクターを好きになれるかわからない』と言われたこともありました。ですが、彼女が幼い頃におばあちゃんと一緒にいるシーンを見せると、誰もが『なるほど。彼女がどんな人物かわかった。彼女がどれほど動物を愛し、それが彼女の情熱の源なのだということも理解できた』と納得してくれたんです。そうすることで、なぜ彼女がそれほど怒っているのかを理解し、彼女を応援しながらその旅路を追いかけられるようになるのです」(グリンドル)
チョン監督にとっても、“ブレイントラスト”の存在は心強いものだった。「この映画を完成させるのに6年かかりましたが、“これこそが映画だ”と感じられるようになるまでには、かなりの時間を要します。だからこそ、映画が自分の“声”(本質)を見つけようとしている間、それを見守ってくれる人たちが必要なんです。経験豊富なプロフェッショナルが揃っているスタジオの良いところは、良い種火が見えた時に、決して途中で諦めないことを知っている点ですね」(チョン監督)
「自ら映画を作り、そのプロセスを熟知しているスタジオの仲間たちが、まだ物語がうまく機能していなかった段階からこの作品を支持してくれたことは、本当に幸運でした。彼らは僕たちを励まし、映画を育み、味方になってくれました。そのおかげで僕たちは進むべき道を見いだし、あるべき姿にたどり着くまで根気強く取り組む力を得ることができたんです。適切なサポートさえあれば、映画は必ず自分の道を見つけられる。そう信じられる経験、忍耐、信念があることこそが、このスタジオの特別な点だと思います。 僕たちは間違いなく、その恩恵を大いに受けました」(チョン監督)
ハチャメチャに笑える本作だが、制作中はクルーたちも「毎日ほとんど笑い通しだった」とチョン監督は言う。それは、チョン監督とグリンドルがリーダーとして、意識して作り出した環境でもあった。
「僕とニコールは、自分たちが大切にすべき価値観は何か、そして自分たちがどうチームを導いていきたいかを強く意識していました。僕たちが掲げていた価値観の一つに、“クルーが楽しんでいれば、それはスクリーンに表れる”というものがあります。それは間違いなく真実だと思いますし、互いに楽しみながら働いている空気感は、しっかりとスクリーンに表れていると感じています。 みんながこの映画を作ることを心から楽しんでいた様子が、すべてそこに詰まっているんです」(チョン監督)
「それに、楽しむことはとても重要なんです」とグリンドルは続ける。「なぜなら、これは本当に過酷な仕事でもあるからです。ストーリーを掘り起こす作業は本当に大変ですし、作品にのめり込みすぎると、何が正しいのか判断がつかなくなってしまうこともあります。だからこそ、わたしたちを守り導いてくれるエグゼクティブ・プロデューサーやチーム、そして“ブレイントラスト”が必要なんです。確かに大変な仕事ですが、笑いながら進めることで、ずっと楽になるんですよ」と晴れやかな顔で語っていた。(編集部・市川遥)
映画『私がビーバーになる時』は公開中


