「仮面ライダーアギト」25周年 出渕裕がアナザーアギトに反映した思い アンノウン“生みの親”が今伝えたいこと

今年25周年を迎えた平成仮面ライダーシリーズ第2弾「仮面ライダーアギト」(2001~2002)に登場する人気怪人・アンノウン(ロード怪人)を手がけたデザイナーの出渕裕。4月24日に開幕した「真アギト展」では、出渕が当時手がけた貴重なデザイン資料の一部が閲覧できる。ジャッカルロードやクロウロードの創意工夫、劇場版で提案したアントロードら現代的に昇華させた怪人デザインの数々。そして「もう一人のアギト」として生まれたアナザーアギトの意外な誕生秘話。平成ライダー初期のハードな世界観を支えたクリエイターが、コンセプトの構築から怪人デザインの醍醐味までを熱く語った。(取材・文:トヨタトモヒサ)
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創意工夫を盛り込んだアンノウン
ーー「仮面ライダーアギト」では数々のアンノウンのデザインを手掛けていますが、放送が進むと共に現場サイドの評判はいかがでしたか?
出渕裕(以降、出渕):ジャッカルロード(スケロス・ファルクス、グラウクス)は、亡くなった長石多可男監督が「これはカッコいい。撮り甲斐があるね」とすごく褒めてくださったと間接的に聞いて嬉しかったのを覚えています。ジャッカルロードはエジプトのアヌビス神がモチーフで、個人的にも特に好きな怪人です。それから怪人のモチーフとしてやりたかったのがカラス。
ーークロウロードですね。
出渕 ええ、これは上手くいったんじゃないかなって。最初に登場したコルウス・クロッキオ(第7話初登場)の頭部は、昔ヨーロッパでペストが流行った際に医者が被っていた嘴付きのマスクをヒントにしました、後(第26話)で再生怪人じゃないけど、女王(オコルウス・イントンスス)と2体登場しましたよね(コルウス・ルスクス、コルウス・カルウス)。アンノウンは当初、髪の毛は使わないという話だったので、コルウス・ルスクスは後頭部の辮髪をチェーンの束にしてみたんですよ。まぁ、女王は毛髪を使っているんだけど(笑)。
ーーコルウス・ルスクスをチェーンにしてみたというのは?
出渕:これが普通の髪の毛だとフワっとしてしまうけど、アクションで動いた際の揺らぎがすごくいい。重さがあるから。これはやって良かったですね。その手応えがあったので、ジャッカルロードでもやったし。特番(「仮面ライダーアギト スペシャル/新たなる変身」)に登場したビートルロード スカラベウス・フォルティスでも、ヒゲの部分を鎖でやっていますね。
ーーお話をうかがっていると、モチーフとなる動物は、出渕さんが提案されているようですが、指定などはなかったのでしょうか?
出渕:全部は覚えてないけど、こちらで出したものも多かったはずです。終盤に登場したオウルロード(第43話初登場)とファルコンロード(第44話初登場)も猛禽類コンビで自分から提案させてもらった気がします。劇場版(『仮面ライダーアギト PROJECTG4』)も相談を受けた際に「大勢出てくる」と聞いたので、だったらゴキブリかアリでしょうと。それでアリの集団でアントロードに。これも上手くいったんじゃないかな。アリならクイーンがいてもおかしくないし、兵隊アリもまたしかりで。後、下士官みたいな赤いアントロード(フォルミカ・ペデス)もいたでしょう。あれも自分が「赤いのを出していいですか?」と提案したんですけど、要はショッカーの赤戦闘員(笑)。「仮面ライダー」や「仮面ライダーV3」といった初期のオマージュはけっこう入れていますね。
ーーアントロードは、デジタル合成で群体として描かれていたのも印象的でした。
出渕:それで言うと、武器を取り出したり、やられる時に浮かぶ天使の輪があるでしょう。あれも僕のほうから「どうですか?」と提案したら採用してもらえました。怪人がやられる際のポイントにもなって良かったんじゃないでしょうか。そういう意味でも、けっこうやりたいことをやらせてもらえた作品でしたね。
ーー苦労された怪人を挙げるといかがでしょうか?
出渕:個人的にちょっと失敗したなと思っているのがマンティスロード(第34話初登場)。首の長い感じを出してみたかったんだけど、デザイン的にちょっと無理が出てしまった。余談だけど、マンティスロードは元々、劇場版用のデザインだったんです。一匹狼の殺し屋的な怪人が登場する予定があって。尺の関係でナシになり、テレビに登場しました。それからハイドロゾアロード(第18話初登場)も苦労した一体です。かなり悩みながらデザインしたのを覚えていて、たぶん白倉さん(※白倉伸一郎プロデューサー)のほうから「クラゲでどうですか?」とモチーフを提示されたんじゃなかったかな。これは頭部のフードと触手がクラゲだけど、体は人体模型。ぶっちゃけちゃうと「仮面ライダーストロンガー」のマシーン大元帥のイメージです。やっぱり石ノ森章太郎先生の溢れるイマジネーション、そして、それをスーツとして成立させた高橋章さんは偉大ですよね。
第4の仮面ライダー「アナザーアギト」誕生秘話
ーー怪人のみならず、出渕さんがデザインを手掛けられたアナザーアギト(第36話初登場)も話題となったキャラクターです。
出渕:元々アギト、G3(途中からG3-X)、ギルスと3人の仮面ライダーがいたけど、さらにもう一体登場すると聞いて、僕も驚きましたよ!
ーー当時の感覚だと、PLEXのデザインじゃない時点でかなりの驚きでした。
出渕:怪人扱いというわけでもないけど、僕のところにオファーがきて、白倉さんに「これはバンダイさんの要望なんですか?」と聞いたら、あくまでドラマ上の都合で出したいと。ギルスもかなり頑張っていたと思うけど、仮にバイオ系ライダーがヒーローだったら「こういう感じであってほしい」という自分の思いを反映させたのがあのデザインですね。顎の特徴付けとか、アンノウンの要素を取り入れつつも、あくまでアナザーなアギトなので、角や胸部中央の透明パーツ、紋章など、アギトに寄せた部分もあります。
ーー後に「仮面ライダージオウ」(2018~2019)にも再登場しました。
出渕:あれはあれで困りましたけどね、何故かたくさん出てくるし(笑)。「ジオウ」のアナザーライダーは完全に“悪のライダー”としてデザインしていたけど、アナザーアギトは「もう一人の仮面ライダーアギト」としてデザインしていましたから。この時はマスクのデザインだけ、少し手を入れさせてもらいました。
ーーそれも含めて、今も記憶に残るキャラクターだと思います。
出渕:後付け的な部分もあるけど、木野薫役の樋口隆則(旧芸名:菊池隆則)さんは当時、40代だったでしょう。そういう意味では当時のファンだった人たちにとって、おじさんの星みたいな存在でもあったんじゃないかな。昭和のライダーを観ていた世代と同年齢の変身者が渋く演じていて、その彼が変身するところがまた刺さるというか。デザイン面からも作品の補完じゃないけど、ハイターゲットのファン層の支持も取り付けられたと思うし、これは本当にやれて良かった一体ですね。
“アンノウンの生みの親”として、今思うこと
ーー出渕さんはアニメや特撮など様々な作品でデザインを手掛けられていますが、東映独自のやり方みたいなのはあるのでしょうか?
出渕:実写特撮に関しては、ほぼ東映しかやってないから、他がどうかは分からないけど、東映はシステマチックに物事を進めるイメージがあります。長い年月の蓄積がある、っていうか。それから、実写とアニメだとやり方が違うものなんだなって。アニメの場合は監督と直接というより設定制作と話をして進めていく感じですけど、東映はプロデューサーと直接やりとりをしてデザインの方向性を決めていく感じとか。いまだと違うでしょうけど「アギト」当時は、データじゃなくて生原稿だったし、直接それをお渡ししていたんです。だから、毎回、白倉さんと会って、デザインを渡した際に「次はどうしましょうか?」と打ち合わせをする。さっき話したアナザーアギトも、白倉さんといろいろ話したのをすごく覚えています。余談だけど、『仮面ライダー THE FIRST』(2005)もそういった感じで、白倉さんから「ちょっと相談があるんですけど」と連絡がきて「初代仮面ライダーをコミック版要素も入れてリメイクしたい」と聞かされ、これだけは絶対に他の誰にも渡したくないから、是非自分にやらせてくださいって(笑)。
ーー作品としての「アギト」は当時ご覧になっていて、どのように受け取りましたか?
出渕:平成のこの頃って、リブートの機運が盛り上がっていたんですよね。円谷プロのウルトラマンシリーズも「ティガ」から「ダイナ」「ガイア」と続いたし、「クウガ」も「アギト」もそうですよね。そういった時代の流れのひとつであったように思います。平成ライダーも今は令和になってシリーズが長期化していて、それはそれで大変だと思うけど、「アギト」はまだ初期の頃だったし、かなりハードに攻めていましたよね。この作品では不可能犯罪と言っていたけど、あの頃、「X-ファイル」とかの海外ドラマもそうだし、国内でも「沙粧妙子ー最後の事件ー」みたいに猟奇犯罪を扱ったドラマも流行っていた頃でしょう。そういう影響も受けつつ、警察の視点を入れてリアリズムを取り入れようとしていた。しかも「アギト」は1年間の連続ドラマ形式で、当時のウルトラマンも多少の縦軸はあったけど、あそこまで大胆にやった作品もなかったよね。あかつき号事件とか、謎の少年が成長していく過程など、井上敏樹くんの脚本も本人がノッてる感じがしてよかったなあ。
ーー手掛けられたデザインついて、今改めて思われることはありますか?
出渕:ドラマも面白かったけど、ひとつ残念に思ったのが、アンノウンの絵的な生みの親としては、もうちょっと個性を発揮してもらいたかった気持ちがありましたね。「クウガ」のグロンギ怪人はキャラがすごく立っていたでしょう。人間態もあったし、独自の言語で会話したり、ある意味、怪人で牽引していたところもあったじゃない。それに対してアンノウンは平たくいえば猟奇殺人の犯人で、ビジュアルについては、今も自信があるけど、付随するキャラが無個性でグロンギと違ってセリフも喋らない、そこは少々寂しく思いました。ただ、主張しない分、観ている人に印象に残る様に心掛けたつもりです。だからこそ、動物モチーフも分かりやすく取り入れるようにしていたし、自分はやっぱり高橋章さんのライダー怪人のテイストが好きなんです。そこを自分の中で咀嚼して描いたのが一連のアンノウンで、自分のキャリアでは、これが初のライダーの仕事でしたし、声をかけてくださった鈴木さんや白倉さんには本当に感謝しかありませんね。
仮面ライダーアギト25周年記念「真アギト展」5月12日(火)まで池袋・サンシャインシティ 展示ホールAにて開催中(営業時間:10時~20時)


