『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』のアツさをファン目線で考察

2026年にテレビアニメ放送が30周年を迎えた「名探偵コナン」。4月10日に公開された劇場版第29作『名探偵コナン ハイウェイの堕天使(だてんし)』は、アニバーサリーイヤーにふさわしい史上最高のロケットスタートを切った。なんと初日だけで観客動員数73.9万人、興行収入11.3億円を突破。公開から17日間で動員533万人、興収79.8億円を突破と順調に数字を積み上げており、どこまで記録を伸ばせるか期待が高まる。本作は、シリーズにおいて異例の速さで劇場版のメインキャラへと昇格した萩原千速の魅力が最大級に詰まった作品だが、劇場版『名探偵コナン』を長年追ってきたファンにとってはニヤリとさせられる細やかな仕掛けや、他キャラクターへの愛もしっかりと感じられる(※一部ネタバレあり)。
劇場版『名探偵コナン』で歴史の長いバイクアクション
まずは大迫力のバイクアクション。千速が白バイ隊員だからこその仕様と思いがちだが、劇場版『名探偵コナン』とバイクの歴史は長い。まずは第3作『世紀末の魔術師』(1999)。劇場版初登場となる服部平次とコナンが怪盗キッドを追跡するシーンでバイクが活躍する(ヘルメットの受け渡しがスムーズすぎる最高の相棒感が絶妙)。その後も平次といえばバイクがトレードマークとなり、第7作『迷宮の十字路(クロスロード)』(2003)では京都の鞍馬を舞台に激しいチェイスを披露し、第21作『から紅の恋歌(ラブレター)』(2017)では脱出時にバイクを使用(ちなみにこれは第5作『天国へのカウントダウン』(2001)のオマージュだろう)。
本作『ハイウェイの堕天使』では、バイクに乗った犯人がステンドグラスを突き破ってコナンたちを急襲するシーンがあるが、『100万ドルの五稜星(みちしるべ)』の平次VSキッド戦を思い出したファンもいるのではないか。コナンにはバイク乗りが多く、第24『緋色の弾丸』(2021)ではコナン×世良真純、第26作『黒鉄の魚影(サブマリン)』(2023)ではキールのバイクシーンが登場。ちなみに第2作『14番目の標的(ターゲット)』(1998)でもバイク事故が犯人の重要な動機となる。
こうした流れを見てきた身からすると、『ハイウェイの堕天使』での映像的進化は格別なものとして映るのではないか。横浜を舞台にした本作では、千速の超人的なライディングテクニックを具現化した作画やカメラワークはもちろんのこと、道路やガードレール、映り込む街並みなどなど、背景の精度が格段に上がっている。それゆえにハイスピードなバイクアクションは目を背けそうになるほどリアルな緊張感がみなぎっており、劇場版では初登板となる蓮井隆弘監督とチームによる“ライド感”へのこだわりが随所に感じられる。
各キャラクターへの愛が随所に
そしてキャラ愛。千速や重悟だけでなく、千速の弟・研二やその親友・陣平の新たな側面が描かれるのは嬉しいところ。研二が殉職した日の詳細や、千速と重悟の出会う前のエピソードまでも明かされ、原作者・青山剛昌との密接な連携は本作も健在だ(ちなみに今回も肝となるシーンの原作者描き下ろし=青山原画が秀逸。この表情を観られるだけで観賞料金分の価値があると思うファンは少なくないだろう)。
そしてーーまさかミニパト組の由美と苗子にもスポットが当たるとは! 主に恋愛パートでの見せ場が多かった2人だが、今回は体を張ったアクションが用意されており、苗子のドラテク(運転技術)もさりげなく描かれる。
また、コナンと世良の微妙な距離感にも注目したい。母親・メアリーがコナン=新一と同じAPTX4869で幼児化。世良は母を元に戻す方法を探しており、何かと探りを入れてくるため、コナンとも水面下でけん制状態が続いている。その関係性を知っているファンにとっては、『ハイウェイの堕天使』でもきっちりと本筋との整合性を感じられるのではないか。コナンが世良の動向にアンテナを張っているのは、そのため。一方で、その世良が蘭と無邪気にはしゃぐシーンのギャップが微笑ましい。
こうしたキャラ理解度の高さは、初期作からの変化にも表れている。コナンと小五郎が本当の家族のように話している日常シーンもそうだし、千速に憧れてバイクに興味を持つ蘭を微笑んで見守るコナン、彼を温かく見守る灰原の構図は、30年の月日を感じさせるものだ。2000年公開の第4作『瞳の中の暗殺者』では灰原が、蘭が記憶を失ったままの方がいいのでは……と口走っていただけに、孤独が薄れて柔らかさを手にした現在の姿は感慨深い。時系列こそ明示されていないものの、『黒鉄の魚影』後というのも大きいだろう。
さらに、第23作『紺青の拳(フィスト)』(2019)の脚本を手掛けた大倉崇裕ならではの園子愛にも注目したい。本作も決して出番が多いわけではないのだが、作劇上の便利なポジションに終わらせず、少年探偵団を本気で心配して駆けつける世話好きな一面や、幅広いコネクションを利用して推理をアシストしたり、イベント時には関係者へのあいさつ回りを行うなど、鈴木財閥の令嬢としての風格を見せている。
「爆破の季節」と言われる劇場版『名探偵コナン』の風物詩、爆発シーンもたっぷりと収められており、日本国内だけでは終わらない物語上の広がりは近年の劇場版『名探偵コナン』の特徴。自ら志願してセリフを完璧に覚えた状態で録り直しに臨んだ横浜流星、畑芽育らゲスト声優の健闘と共に、シリーズの歴史という縦軸で楽しむのも一興だ。 (文:SYO)


