「パトレイバー魂に再び火がついた」出渕裕監督が明かす『EZY』9年越しの誕生秘話

「機動警察パトレイバー」が、昭和、平成、令和と時代を経由して『機動警察パトレイバー EZY』として、ついに新たな幕を開けた。全体は8話から成り、現在3章構成の1章目となる『File 1』が公開を迎えた中、監督を務めた出渕裕が『EZY』実現に至る道程を明かした。(取材・文:トヨタトモヒサ)
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パトレイバー魂に火がついた出来事
近未来の東京を舞台にしたアニメ「機動警察パトレイバー」。汎用人間型作業機械「レイバー」による犯罪が多発する中、新型パトロールレイバー・98式AV(通称イングラム)に搭乗する警視庁特車二課第二小隊の泉野明巡査と、個性豊かな隊員たちの日常を描いた本作は、「焼き魚定食志向の生活アニメ」と称される異色のロボットアニメとして人気を博した
また、今日では「アーリーデイズ」と呼ばれている最初のOVAシリーズ(1988年)の始動に際して、ゆうきまさみ、出渕裕、伊藤和典、高田明美、押井守の5名によって、原作チームとなるクリエイターユニット「HEADGEAR」が結成される。OVA、コミックス、映画、TVシリーズといったメディアミックス展開がなされたことも大きな話題となった。
新作『EZY』は、2017年にプロジェクトの発表が行われており、足かけ9年を経て、ついにお披露目に至ったわけだが、そもそもの出発点はどこにあったのであろうか。出渕監督に聞いた。
「遡ると、総監督を務めた『宇宙戦艦ヤマト2199』(2012年)を制作していた頃に、バンダイビジュアル(※現バンダイナムコフィルムワークス)の湯川淳くんから非公式に『パトレイバーの新作をやりませんか?』と打診がありました。その時点で、アニメーション制作プロダクション、J.C.STAFFの松倉友二くんが『出渕さんが監督なら請けてもいい』と言ってくれていると。ただ、自分としては『ヤマト』で手一杯だったから、そのタイミングでは、ちょっと難しかったんですよね」。
そんな状況を経て、突如として発表されたのが、押井守が総監督を務めた実写作品「THE NEXT GENERATION -パトレイバー」(2014年)であった。「これは色々なところで話しているけど、正式に何も知らされてなかったんですよ(笑)。伊藤さんもキャラ名を語呂パロディにするようなことは絶対にやめてほしいと言っていたにも関わらず、強行されてしまって。ある意味、これで他のHEADGEARメンバーの“パトレイバー魂”に火がつきました」と述べる。
一方、2016年には、スタジオカラーとドワンゴによる短編映像シリーズ企画「日本アニメ(ーター)見本市」の1本として、「機動警察パトレイバーREBOOT」(2016年)が発表された。「これはカラーの副社長の緒方智幸くんから『パトレイバーで何かできないですかね?』と声がかかったのがきっかけです。ちょうど複雑な状態であったHEADGEARの権利的な部分がクリアになったこともあり、『今のタイミングだったらいけるかも』と話が進み、吉浦康裕くんが監督として手を挙げてくれて、いい形で実現しました。これがパイロット版というわけじゃないけど、今後、新しいパトレイバーを作って行く上での方向性を掴めたようなところがありましたね」。
『EZY』はリメイクではなくリブート
『EZY』では、第二小隊が設立された1998年を起点とした約30年後、2030年代を舞台にしており、その点について出渕は“リメイク”ではなく“リブート”だと強調する。
「もう一回作り直すにしても、20世紀に舞台を戻して街中にロボットが出る……。今、これをやっても説得力が感じられないでしょう。当時、“この物語はフィクションである。……が、10年後においては定かではない”とテロップを出していたけど、まさか、その10年後がこんなにすぐ訪れるとは思ってもみなかったし、それが現在では本当に過去の出来事になってしまった。だから、既に“こういうレイバーが闊歩する世界がある”との前提で、その延長線上を描けば、現実にはあり得ないけど、レイバーや特車二課が存在していてもおかしくない世界が成立するかなと。そう考えました」。
作品の背景には、東京湾を埋め立てる一大干拓事業「バビロンプロジェクト」が存在し、そのためにレイバーが運用されている、という理由付けがなされていたが、「言ってみればこれもレイバーが稼働する世界を描く上での方便で、バブルだった当時の影響もあるし、そういうハッタリも許容されていた。そうかと思いきや、その後の『機動警察パトレイバー 2 the Movie』(1993年)では、ベイブリッジ爆破の際の空撮っぽい映像では現在の東京湾が何事もなく映っていて、画面上はバビロンプロジェクト自体なかったことになっている。改めてレイバーが存在し得る世界観を色々とシミュレーションしてみたけど、そこに関しては計画は頓挫したことにするなり、忘れるというか、割り切ることにしました」。
さらにバビロンプロジェクトの前史として、1995年に起きた東京湾中部地震の震災復興といった設定も存在していたが、こちらは期せずして現実に近付く形となってしまった。そうした事情を踏まえつつ、『EZY』では、労働人口が減少の一途を辿る一方、レイバーもまたAI技術による自動化が進んでいるという2030年代の舞台が設定された。
2030年代で活躍する第二小隊については、出渕監督は「刀狩り」をたとえとして挙げ、「どうしてパトレイバーは必要なんだろう? と考えた際に、既に世の中ではレイバーは不要なものになりつつあり、登録制になっているけど、そこで未登録のレイバーや、どこかに隠蔽されていたレイバーが事件を起こし、危険な存在としてそれらを摘発し回収していくことにしてはどうかと。そのための仕事を請け負うのが特車二課で、つまり“刀狩り”のような役割を担う感じで」
さらに出渕監督は続ける。「これを突き詰めて行くと、最終的に特車二課自体が不要になるんですよ。自分たちの存在意義をなくすための任務に就いているとすれば、その葛藤がまたドラマになるとも思ったんですけど、ただ、さすがにそれは周囲から夢を壊すと言われまして、この案は無くなりました(笑)。まぁ、自分は拒否されたら、たぶらかしてでもやってしまう押井さんみたいなタイプではなく、ひとつひとつ案件をクリアしながら、それをバネにやっていくタイプなんで」と自身のクリエイターとしてのスタンスを述べる。
押井守の「予告編承諾」クレジット秘話
その押井守は「File 1」では、「予告編承諾」との肩書でクレジットされている。これは第3話「ホンモノが一番」の劇中劇の予告編が、押井が監督した映画『ケルベロス 地獄の番犬』(1991年)の予告編のパロディになっていることに由来する。出渕監督は「自分の中ではパトレイバーを新しく始めるにあたって、HEADGEARの5人全員の名前を入れたかった」と語っており、その顛末についてこう語る。
「そもそもシナリオの時点ではこの劇中劇の予告に関しては意外と普通の予告編だったんじゃないかなぁ。そんな感じで頼んだ樋口真嗣くんがあげてきたコンテを確認したら、『えっ? 何これ』っていうのが上がってきて、でもどこか既視感を覚えて。それでよくよく考えてみたら、これ『ケルベロス 地獄の番犬』の予告編の完コピじゃん!って(笑)。そこは樋口くんに訊いたら『いや、これしか思い浮かばなかった』と。ただ、そこで僕は押井さんみたいに黙ってやるようなことはしませんでした(笑)。仮にNGが出たら考え直すつもりだったけど本人に確認取りました(笑)。それで、押井さんからは『樋口くんがやりたいならいいよ』と承諾してもらったのです」
出渕監督は「これでHEADGEARの全員をクレジットに入れることができました。そういう意味では、きっかけを作ってくれた樋口くんに感謝ですね」と満足げに語ると共に、「永井真理子さんが歌うエンディングテーマ『バトン』が流れる中、画面に映し出されるエンドロールの最後の方で、“予告編承諾 押井守”と出ますので、そこはまたちょっと面白いかも(笑)。とにかくエンディングになっても、席を立たずに最後の最後まで観てください」とファンへのアピールで締めくくった。
『機動警察パトレイバー EZY』話数構成
File 1(公開中)「トレンドは#第二小隊」「閑中妄あり」「ホンモノが一番」
File 2(2026年8月14日公開)「ワインと銃弾」「あさき夢みし」「恋のサバイバル」
File 3(2027年3月公開)「おもちゃの国・前編」「おもちゃの国・後編」


