小栗旬は何が凄いのか?主演と助演のポジションから考察

Netflixシリーズ「ガス人間」(配信中)、映画『キングダム 魂の決戦』(公開中)、そして先ごろ退場しロスが広がる大河ドラマ「豊臣兄弟!」と小栗旬出演作品が目白押し。なぜ、彼の演じる役は多くの人を魅了するのか。俳優としての魅力を小栗の取材を20年以上続け、出演作のオフィシャルライターも何作も担ってきたライターの木俣冬が、小栗の最新作から考察する。(文:木俣冬)
体の傾きから見えてくること
信長(小栗)ロス。大河ドラマ「豊臣兄弟!」で信長が本能寺の変で亡くなり、これから毎週、なんだか物足りない気持ちになりそうだ。あの少し傾いて座っている信長が目に焼き付いて離れない。小栗が少し傾いているのは主演した大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(2022)の北条義時もそうで、傾くことで演じる役の少しダークな、ヤバい面が浮き彫りになるとSNSでは推測が広がった。本人は、多少は意識的に演じていたことを取材会で認めている。
「自分としてはそこまで意識していたわけではありません。ただ、身分が高くなるほど威儀を正して座る姿はよく見てきたので、逆に“誰も文句を言えない立場なのだから、どんな姿勢でいてもいいのではないか”と考えたのが始まりです」(シネマトゥデイより)
小栗を「Stand UP!!」(2003・TBS系)から映像と舞台、二つのジャンルで取材してきた筆者としては、小栗旬はそもそも斜に構えた姿が似合うのだと言いたい。役柄の屈折した心情を表すような少し傾いだ身体が彼の特性なのである。信長のフェイクーー現代の高校生が戦国にタイムスリップして信長になる「信長協奏曲」(2014・フジテレビ系)は決してダークな役ではなかったが、身体は少し傾いている。ただ、それは原作の漫画を見れば原作の信長に寄せているのだと推察できる。
若い頃「うつけ」と言われていたという織田信長は「“傾”奇者」の代名詞でもある。つまり風変わりで、常識から逸脱したところのある人物だ。それを表すには、少し斜めに構えると伝わりやすい。それがそのまま大河ドラマの義時、信長に踏襲されていく。そして、この少し傾いていることが小栗をここまでーー大河ドラマの主人公(「鎌倉殿の13人」の北条義時)、クレジットのトメ(「豊臣兄弟!」の織田信長)にまで上り詰めさせた成功要因の一つと言っていいだろう。
もちろん、体の傾きがデフォルトというわけでは決してない。例えば、映画『フロントライン』(2025)では医療に関わる仕事に邁進している人物を演じており、しかもコロナ禍に向き合う物語だからなのか、キービジュアルなどでは正対の構えだ。正対は安定感があり強い印象。まっすぐな目線で見つめられると引き込まれる。逆に言えば、意志の強さに気圧されて緊張してしまうとも一般的には言われる。だから人と話すときは正面で向き合わず、ちょっと角度をつけて語る方がいいと。
小栗の得意とする体の傾きは、世の中を疑って見ているようにも感じられ、存外、親しみがわく。それは私たち視聴者の目線と同じでもあるからだ。私たち視聴者は、このドラマは、キャラクターは、何を伝えようとしているのか、見えているものの裏側に何があるのかと、常に追求の姿勢でドラマを見ている。それが考察にもつながってくるわけだ。「豊臣兄弟!」の信長はこの世界に疑問を感じる私たちの代表だったようにも思える。
ヤンキー高校生時代から進化した肉体の表現
信長ロスを埋めるにはNetflix「ガス人間」がある。ここでの小栗旬は、ガス人間という謎の怪人による奇想天外な殺人事件に立ち向かっていく正義の人、刑事・岡本賢治を演じている。元恋人でジャーナリストの甲野京子(蒼井優)と共に謎の事件を実直に追いかけ、その結果、とんでもない事実を知ることになる。
岡本は結構酷い目に遭うのだが、ドラマ「24 -TWENTY FOUR」のジャック・バウアーほどではないにしてもかなり強靭なんだなと思える。長年のトレーニングの成果なのか筋肉が育ち、バウンドしそうなしなやかな身体に見える。近年は「豊臣兄弟!」の本能寺の変でも、炎のなかを廊下を突き進んでいくときの足取りの重さに武将としての説得力があった。信長が徳川家康(松下洸平)を接待する場面では、信長が明智光秀(要潤)を飛び蹴りする描写もあったが、あの重量でキックされたら光秀もたまったものじゃなかっただろう。
振り返れば、小栗がブレイクしたヤンキーアクション映画『クローズZERO』シリーズ(2007・2009)で彼が演じた主人公・滝谷源治はテッペンを目指すツワモノキャラにしてはやや華奢だった。殴られたり蹴られたりするたびに絶対骨が折れるとフィクションにもかかわらず心配になったものだが、いまではそんな心配はない。それにしても「ガス人間」ではハードなアクションシーンが続くのだが。でも銃を構えるとき、カメラが斜めから小栗を捉えていることもあり、仕草が一つ一つ決まって見える。
引きで撮って様になる小栗旬の特性が堪能できるのは、映画『キングダム 魂の決戦』(公開中)。最強の知将・李牧の青い鳥みたいな衣装をスマートに着こなし、広大な中国大陸の風に吹かれている。ちょっと澄ました顔が知将らしい。撮影時期が違うのもあるだろうけれど、同じ武将でも信長とはまるで違う。ましてや「ガス人間」の岡本とはまったく別人である。
共感度の高いごく普通の人間の風情
ここまで小栗旬のフィジカルな魅力について主に語ってきた。だが良さはそこだけではない。なんといってもある瞬間見せる、誰にも見せない表情が胸を突く。信長にも、闘いに疲れた表情にリアリティーがあった。序盤、桶狭間の合戦に思いがけず勝ったとき、独り部屋に大の字に寝転がり「勝ったー」とホッと一息つく表情。あれがあったからこそ、多くの視聴者の心を掴んだ。
強がっているけれど、ほんとは大きな闘いにドキドキしている人間らしさ。誰にも決して見せない、独りになったときにだけ見せる顔。それが存分に発揮されているのは「ガス人間」だ。刑事・岡本は、役としてはなかなか難しい。テーマは蒼井優ががっつり背負っているし、ガス人間のUTAはおいしい役に見事に応えている。小栗は彼らを見つめ支えていく役柄で、やはり視聴者の視線も担っている。心も身体もボロボロになりながら、それでもひたすら耐えて、事の顛末を見届ける。
「ガス人間」の岡本の孤独な哀愁。これは「信長協奏曲」の劇場版のラストにも似ている。戦国を駆け抜けた主人公は現代に戻ってきて、勤め人になっている。毎日の仕事のルーティンのなか、自室で独りになったときの顔は誰もが共感せざるを得ない。たぶん、人間は大なり小なり、外では不安を見せないように自信ある振る舞いをしている。それが強めの圧に出るか、ニコニコ笑っているか、ベクトルは違っても、決して迷いや不安を見せないことは共通だろう。たまに独りでたばこを吸ったりお酒を飲んだりしているときだけほんとの自分になれるような心情。大河ドラマのトメにまで上り詰めた人気俳優になっても、ごく普通の人間の風情を醸し出すことができる。小栗旬はそういう俳優なのである。だから愛されるのではないだろうか。



