『ムカデ人間』先頭の日本人・北村昭博が明かす!過激作の温かな裏側とLAに戻った現在

“人間を口と肛門でつなぐ”という狂気のアイデアが話題を呼び、日本でもスマッシュヒットとなった映画『ムカデ人間』が、2009年の公開から15年を経て4Kリマスターで復活。8月21日からの全国公開を前に、本作に出演した日本人キャストで、ロサンゼルスを拠点に活動する俳優の北村昭博がインタビューに応じ、15年前の熱狂と幸せを手にした現在を語った。
【動画】キレイにつ・な・げ・て・み・た・い『ムカデ人間 4K』予告編
ドイツ郊外の邸宅に住む天才外科医ヨセフ・ハイター博士(ディーター・ラーザー)は、人間を口と肛門で複数の人間をつないだ、新しい生命体の誕生に取り憑かれていた。そんなある日、ハイター博士の家に車の故障で助けを求めてきた2人の若きアメリカ人女性。彼女たちを捕らえ、日本人のヤクザを拉致したハイター博士は、ついに狂気の研究を実行に移す……。
終始インモラルな物語が展開する本作で、北村は、“ムカデ人間”の先頭となるヤクザ・カツロー役で出演。ハイター博士に日本語で罵声を浴びせ、耐えきれない生理現象に苦しみ、それでも絶望せずに抵抗し続ける。まさに全身全霊をかけた北村の演技はホラーファンの間でも熱狂で迎えられ、その熱は現在も冷めていない。
「特にホラー系の監督さんなんかは、今でもすごくリスペクトしてくれます。“あの『ムカデ人間』のアキヒロ・キタムラだ!”みたいな感じで。今ちょうど、高校生か中学生くらいで『ムカデ人間』を観た人たちが、15年経って映像業界に入ったりしているんです。ある時なんて、オーディションを受けた次の日に僕のエージェントに電話がかかってきて、『アキヒロのために役を変える。役名も“ミナミノ”とか日本人の名前にするからぜひ出てくれ!』って(笑)。本当にリスペクトを感じます」
当時、日本でも大ブームを巻き起こした『ムカデ人間』。注目を浴びた北村は日本の芸能事務所に所属し、日本映画やドラマで活動した時期もあった。しかし、再びロサンゼルスに拠点を移すことになる。
「日本ではすごくいい経験ができたし、いい出会いもありました。ただ、俳優にリスペクトがないなって感じてしまうこともあって。やっぱり役者って、怒鳴られたりしながら演技をするのって無理なんです。“そういうものなんだ”って自分に言い聞かせていた時期もあったけど、実際に自分の演技を見たら全然ダメで」
「アメリカでは、“俳優の演技が映画を助ける”という意識をみんなが自然に持っているというか。たぶん監督さんたちにも、俳優が自分の作品を高みにあげてくれるっていう気持ちがあるんですよね。だから、めちゃくちゃリスペクトしてくれるんです」
『ムカデ人間』は当時、オランダ・アムステルダムで撮影された。そのインモラルな描写が世界中で賛否両論を巻き起こしたが、北村は「僕が経験した中で、あそこまで俳優がリスペクトされた現場はないです」と振り返る。
「正直なところ、撮影前は怖かったんです。股間丸出しでつなげられたり、性的な感じに持っていかれるんじゃないか? とか。でも、実際にはスタッフ全員が『この映画は性的なものではない』という意識をもって取り組んでいた。“ムカデ人間”になってからのシーンでは、撮影後に僕らをケアしてくれるマッサージ師まで用意されていました」
「少しでも性的な要素が画面に出たり、演技がそういう方向に行きそうになったら即カットです。“そういう映画じゃないから”って。ある時、(ハイター博士役の)ディーターさんが、役に入りすぎて、ムカデ人間になった僕にキスをしたんです。僕が『えっ』と思った瞬間にカットがかかって。ベテランのディーターさんでも関係なく『それは僕らがやろうとしてることじゃありません』と。そこはすごい徹底されてました」
『ムカデ人間』を生んだトム・シックス監督は、その後もポリティカルコレクトネスを無視する暴力描写満載のシリーズを次々に発表。しかし、北村いわく「人生で一度も怒鳴ったことがないんじゃないかっていうくらい、優しい人」だという。「本当にいつもニコニコしている人。たぶん周りから“鬼才監督”というイメージを求められて、演じてる部分もあるんじゃないですかね」
「彼は『ムカデ人間3』の次に撮った『ジ・オナニア・クラブ』っていう映画が公開できなくて、次が撮れない状態になっているんです。でも、僕を見つけてくれて、一番面白い思いをさせてくれた方なので、いつかまた一緒に仕事をしたいですね」
そんな北村は現在、ロサンゼルスで家族と平和な日々を過ごしている。「インディペンデントが中心ですが、去年は5作品くらい出させてもらいました。あと、息子のためにも頑張りたくて。彼が産まれた時は“役者やってて大丈夫かな”と思ったこともありましたけど、逆にCMとか広告系や企業系のお仕事も結構やらせてもらうことになって。アメリカに来てから今が一番仕事をしていますし、一番楽しいですね。やっぱり、リスペクトを感じながら、自分の演技を突き詰めて勝負できる今の環境が、僕には合っていましたね」
目標は『ムカデ人間』を超える作品に出会うこと。「ヒットしたこともありますが、アートとしても、自分の演技としても『ムカデ人間』ほどオリジナリティがあって面白い作品にはまだ出会えていない。今はそれが逆に役者としてのモチベーションになっています。やはり昔の自分を超えないとやってる意味がない。また『ムカデ人間』のように、人を動かすというか。映画の力を感じる作品に出会いたいです」
4Kリマスターを経た今回の再上映については、日本の『ムカデ人間』愛に「正直なところ、信じられない思いです。しかも今回は上映館数もかなり増えると聞いていて。今もドッキリなんじゃないかという気分で、本当に感謝してます」と笑みを浮かべる。
「今観ても本当に新しい映画らしい映画なので、知らない方はぜひ、“くらい”に来てください(笑)。本当に素晴らしい作品ですし、観終わった後に映画館を出た後も心が震えるような経験をしてほしいです。そして、今まで支えてきてくださった皆さんには“また映画館で会いましょう!”と伝えたいです」(編集部・入倉功一)
映画『ムカデ人間 4K』は8月21日より全国公開



