ブラッド・ピットも号泣…退役軍人&愛犬のサバイバル『ハート・オブ・ビースト』デヴィッド・エアー監督が挑んだ新境地

ブラッド・ピット演じる退役軍人と義足の元偵察犬が荒野でサバイバルを繰り広げる映画『ハート・オブ・ビースト』のデヴィッド・エアー監督がリモートインタビューに応じ、『フューリー』(2014)以来12年ぶりのタッグとなったブラッドと“もう一人の主役”であるジャーマン・シェパードと挑んだ、新ジャンル開拓について語った。
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今まで読んだ中で、最も感情を揺さぶられた脚本
元陸軍特殊部隊で退役兵のジェームズ(ブラッド)は、かつての戦友で元軍用偵察犬オーディンを連れ、アラスカの大自然に身をゆだねていた。戦場で義足となりPTSDを抱える愛犬にとって癒しの旅になるはずが、不意のアクシデントで、誰も足を踏み入れたことのない“魔の領域(ハート・オブ・ビースト)”と呼ばれる奥地へ取り残されてしまう。険しい自然環境の中、ジェームズとオーディンは「生きて、マイホームへ還る」ため、100キロにおよぶ険しい道のりを旅することになる。
直近では、ジェイソン・ステイサムを主演に迎えた『ビーキーパー』『ワーキングマン』とアクション映画が続いたエアー監督。次回作に選んだのは、人間と犬のバディが織りなす究極のドラマだった。「監督として、自分の可能性を広げ、新しいジャンルに挑戦したかったんです。優秀な監督は、どんなジャンルにも挑戦していますし、特に今作は『過去の傷を抱えた者同士』『人間と犬の強い絆』という私の過去作にも通底するテーマを色濃く反映しています。テーマ性は共通しつつ、映像面において新たな挑戦がしたかったんです」
キャメロン・アレクサンダーが執筆した脚本は、エアー監督の琴線に触れる物語だった。「私は幼い頃に父を亡くしており、この脚本にはその感情を整理し、自分の中の何かを解放してくれるような力がありました。読み始めてすぐに涙が溢れ、一旦脚本を置いて気持ちを落ち着かせては、また読み進めて泣く……の繰り返しでした。今まで読んだ中で最も感情を揺さぶられた脚本で、まるで一編の詩のようでした。何があっても愛する者を絶対に見捨てない人間の気持ちを描いたストーリーです」
この物語を映画化するにあたり、主人公・ジェームズ役には「ブラッド以外の俳優は思い浮かびませんでした」とエアー監督。「オファーしたのも彼だけです。ありがたいことに、彼も脚本の中に私と同じものを見出し、深く共感してくれました。彼も読んだ時に、号泣したそうです」と犬を飼っていたブラッドも涙する物語だったと明かした。
本作でジェームズの相棒となる犬・オーディン役は、ニュージーランド全土でキャスティングが行われた。アニマルトレーナーのアンドリュー・シンプソンは、その中で「ウーバー」という名の元捜索救助犬と出会った。山での捜索活動はもちろん、ヘリコプターに乗った経験もあり、オーディンを演じるにふさわしい経歴の持ち主だった。
「ブラッドは犬舎でアンドリューと共に訓練方法を学び、ウーバーと一緒の時間を過ごし、深い信頼関係を築きました。彼は俳優として、素晴らしい演技を披露するだけでなく、ウーバーを訓練し、犬がカメラにどう映るのかまで計算する必要がありました。私も側で見ていて、過酷な作業だと分かりましたが、ブラッドは少しも大変そうな表情を見せなかった。心から尊敬しました」
「主役は犬だ」ブラッド・ピット&犬の化学反応
劇中、ジェームズとオーディンに自然の脅威が幾度となく襲いかかる。演じるブラッドやウーバーも、過酷な環境に身を置きながら撮影していたという。「特に過酷だったのは、二人が倒木を渡るシーンです。セットを組んだのですが、丸太がかなり高い位置にあり、全員が命綱として安全ケーブルを装着しなければなりませんでした。高所での作業になるため、みんな緊張で少し震えていましたが、カメラ越しだと、それがリアルで素晴らしい映像なんです。数日経つと慣れて少しは楽になりましたが、それでも大変な撮影でした。ジェームズとオーディンの信頼関係を描く非常に美しいシーンですが、撮影自体は恐怖との戦いでした」
エアー監督は、カメラのアングルにもこだわった。映画では度々、オーディンの表情をクローズアップしたカットが登場するが、これはエアー監督が意図的に狙ったものだった。
「今作は、オーディンの映画でもあります。実際、香盤表でも彼が1番手で、ブラッドも『犬のために働いている助演だよ。主役は犬だ』と言っていたくらいですから。あらゆる映画スターがそうであるように、キャラクターの心情や感情を伝えるには、象徴的なヒーローショットが必要です。オーディンを演じるウーバーの目には、豊かな感情が宿っており、まるで何を考えているかが明確に伝わってくるようでした」
苦難を乗り越えたジェームズとオーディンが迎える物語の“結末”は、誰もが心揺さぶられるはずだ。エアー監督も「編集室に入り、撮影した映像をじっくり見返した時、彼らの演技の凄まじさと細やかな表現の力に打ちのめされました。撮影現場にいた全員が『自分たちは特別なものを作っている』と確信していましたから。ブラッドとウーバーの間に、魔法のような化学反応が生まれました」
本作のプロモーション中、「しばらく“犬映画の監督”と呼ばれるかもしれない」と冗談まじりに話していたエアー監督。次回作は未定だが「泥臭くリアルなスペース・コンバット映画を撮ってみたいです」と意欲を見せる。また、『スーサイド・スクワッド』(2016)で挑戦したアメコミ映画についても「もちろん大歓迎です。素晴らしいジャンルですし、ファンとの間に非常に強い結びつきがある作品群です。あらゆる可能性に対して、オープンでいたいと思っています」と笑顔で語っていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
映画『ハート・オブ・ビースト』は全国公開中



