綾野剛、火傷痕メイクで感じた違う景色 映画『mentor』吉田恵輔監督を唸らせる慧眼

「最高」の一本が完成した『mentor』の綾野剛と吉田恵輔監督
「最高」の一本が完成した『mentor』の綾野剛と吉田恵輔監督 - 写真:高野広美

 吉田恵輔監督(「吉」はつちよしが正式表記)の最新作『mentor』で、少年時代の龍之介(磯村勇斗)と拓海(末澤誠也)が起こした火事で大火傷を負い、妻子を失った男・埜本を演じた綾野剛。埜本の過去から現在、未来まで想像しながら、特殊メイクによる火傷痕をはじめ、髪型や衣装について考えを巡らせたという。吉田監督とのやり取りのなかで生まれたアイデアや、埜本という人物を形作っていった過程について、二人が語った。(成田おり枝)

【画像】綾野剛、ヤバすぎるカッコよさ!『mentor』撮りおろし

次世代へ「返す」ことを意識するように

火事で妻子を失い火傷を負った埜本(綾野)。彼が拓海(末澤誠也)に向けた感情は……『mentor』より(C) 2026「mentor」製作委員会

 本作は『ミッシング』や『空白』などの吉田監督が、自ら脚本も手掛けたオリジナル最新作。15年前の無邪気な花火遊びが引き起こした火災によって人生が一変した二人の青年、龍之介(磯村)と拓海(末澤)。その事故で大切なものを失った男性・埜本(綾野)との、歪で不穏な再会を描く。

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Q:吉田監督は『四月の余白』に続いて、“メンター=指導者、助言者”という存在を軸に、過去と向き合う作品に取り組まれました。ご自身が50代を迎えられたことも、こうしたテーマに向き合うきっかけの一つになっているのでしょうか。

吉田恵輔(以下、吉田監督):それはあるんじゃないかな。よく「映画の感想コメントをください」という依頼とかってあるじゃない? ああいったものも、これまでだったら断っていたかもしれないけれど、自分より下の世代の人たちの作品だと「受けたいな」と思ったりして。自分が上の世代の人たちに支えてもらった分、今度は次世代にそれを返す年齢になってきたのかなと感じています。

Q:本作では、メンターという存在をどのようなものとして描きたいと思っていましたか。

吉田:『四月の余白』は真面目にメンターと向き合った話で、取り組む時に自己啓発本を読んだり、いろいろとメンターについて調べていたんです。すると「お前はどの立場から、言っているんだ」「このメンター的な発言をしているやつ、胡散臭くないか? 自分に酔っているんじゃないか?」と感じることもあって。ちょっとメンターをいじりたくなっちゃったんですね。『四月の余白』とは違うアプローチでメンターを描いたらどうなるかなと思いながら挑んだのが、本作です。

火傷痕によって見えた、いつもとは違う景色

「今回も、みんなが「面白い」と思うものをどんどん乗せてもらえるような、受け皿として準備しておくことが重要でした」

Q:龍之介と拓海の心を激しく動かしていく強烈なキャラクターであるメンター、埜本役を任されたのが綾野さんです。火傷痕も、埜本の痛みや火事の後に彼がどのように過ごしてきたのかという年月を感じさせます。火傷痕のメイクでこだわった点や、火傷痕が役づくりにもたらした影響について教えてください。

綾野剛(以降、綾野):電車のシーンなどに顕著に表れていますが、火傷痕があることで、周りの人の目線や反応が変わり、これまで自分が見てきたものとは違う景色を体感できました。新しい感覚を味わいながら、その役を生きられるというのは、役者冥利に尽きますが、なにより現場体制に感謝しております。特殊メイクや衣装、ロケーションとは共犯関係にあり、さらに言えば、映画にとってのメンターである監督や共演者、各部署など、いろいろな人たちと一緒につくり上げていく総合芸術の一部に、僕は過ぎません。今回も、みんなが「面白い」と思うものをどんどん乗せてもらえるような、受け皿として準備しておくことが重要でした。

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吉田監督:火傷の大きさはどれくらいのものにするかなど、特殊メイクのスタッフさんとやり取りをしながら、A、B、C、Dといくつかパターンを出していって。綾野さんはこれまでもいろいろなことをやってきているので、経験や知識も豊富。綾野さんからアイデアをもらいながら、メイクの完成度が上がっていきました。「なるほど、こうすると違いが出てくるのか」と気付かされることばかりでした。

「自分が大好きなものができた」吉田監督の手応え

Q:火事が起きる前と15年後の埜本では、髪型などの変化も印象的です。

吉田監督:埜本がもじゃもじゃ頭になっているんだよね。あれももともとはなかった設定で、綾野さんが「回想シーンと現在では変化をつけたい」と言ってくれて。“キャップの裾からもじゃもじゃがはみ出している”というアイデアをくれたんですが、俺は最初「それによって、どう変わるんだ?」とよくわからなかったんだよね。でも実際に埜本を目にして、完成作を観てみると「こういうことだったんだ。すごい差があるぞ」とわかる。「綾野さんには、そこまで見えていたんだ」と思うと、本当にすごいよね。

綾野:彼の15年を全て理解する事は非常に難しいですが、想像し今を共に生きる事はできます。髪型に関しても、彼の過去と現在、そしてその先の未来まで考えた時に、本作では描いていないその後の未来を彼はどのように生きて変わっていくのかということまで想像をかき立てられる脚本でした。磯村くん演じる龍之介と末澤くん演じる拓海は、少年時代を別の役者さんが演じていますが、僕は過去と現在の両方を担っています。過去と現在をリアリティを持って繋ぐためには、大きな変化があったほうが作品の味になるのではないかと思いました。そしてまず大事なのは、この作品は龍之介と拓海の物語だということです。この作品にとって、ひいてはこの二人にとって、僕がどのように自分が存在すれば、彼らにとって奇妙にも、あるいは愛情にもなるのだろうか。そういったことをずっと、考えていました。

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吉田監督「『綾野さんには、そこまで見えていたんだ』と思うと、本当にすごいよね」

Q:龍之介、拓海、そして埜本がどこに辿り着くのか。キャストの皆さんの熱演とともに、まったく想像のつかない展開に強く惹き込まれました。吉田監督は、どのような手応えを感じていますか。

吉田監督:これまでの作品では、一つの物語に対して一直線に走っている感じがしたんです。例えば『ミッシング』であれば、子どもがいなくなってしまった人がどこへ向かっていくのかと。だからこそ、出口が見えないとしても、登場人物の悲しみに寄り添って進んでいったんだけれど、本作には「ここまで築き上げてきたことに意味がないな」と感じるような展開があって。その代わりに、先が読めないものができたと思っています。手応えというところでいうと、俺は自分が大好きなものができたという(笑)。

綾野:最高です。

吉田監督:もしみんなが星を5つくれたとしても、自分の中で3だったとしたら、俺は耐えられない。自分を満足させるために作って、それと世の中の評価が一致して、喜んでもらえたらラッキーだなと思っています。とにかく本作は、撮影をしていてもものすごく楽しくて。自分が書いた脚本が、手を離れていくような感覚を味わいました。綾野さん、磯村くんという手練れたちが料理し、そこにフレッシュな末(末澤)が加わって、俺が思ってもいなかった化学反応が生まれていくのを目の当たりにした感じ。最前列で見ているお客さんのような気持ちで、ワクワクしていました。

映画『mentor』は10月16日より全国公開

綾野剛:ヘアメイク・石邑麻由/スタイリスト・佐々木悠介

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