『クジラに落ちた男』監督、クジラのネバネバ胃液まで忠実再現「オースティン・エイブラムスを痛めつけるのに最も完璧な粘度」

巨大マッコウクジラに呑み込まれた青年のサバイバルを描く映画『クジラに落ちた男』(全国公開中)で主人公ジェイを演じたオースティン・エイブラムズと、監督・脚本を務めたブライアン・ダッフィールドがリモートインタビューに応じ、クジラの体内を極限まで再現した巨大セットでの撮影を振り返った。
原作は、ピューリッツァー賞フィクション部門を受賞したダニエル・クラウスによる傑作ベストセラー長編小説。主人公ジェイはある日、一人で海に潜った先で巨大なマッコウクジラに丸呑みにされてしまう。タイムリミットは、酸素がゼロになるまでの1時間。肉体的・精神的なダメージが蓄積していく中、ジェイはダイビングの師である亡き父・ミット(ジョシュ・ブローリン)からたたき込まれた教えを頼りに、クジラの体内からの脱出を試みる。
クジラの体内は、『ロード・オブ・ザ・リング』『アバター』シリーズで知られるWetaの協力の下、胃、食堂、喉頭のセットが建設された。ダッフィールド監督は「自分が正気じゃないような感覚になりました」と完成したセットを見て驚きを隠せなかったという。
「この映画を作りはじめた当初は、どれほど大変な作業になるのか、あまり深く考えていなかったんです。撮影に入る前、ディズニーに向けて全てのセットを披露して案内するプレゼンテーションのような機会があったのを覚えています。その時、彼ら全員が私たちがやろうとしているクレイジーな試みをすごく面白がってくれたんです。そして私自身も、これがとてもユニークで一風変わった映画になることを確信したんです。監督としての私の仕事は、キャラクターや感情が常に物語の中心であり続けるようにすることです。そうすることで、クジラの体内というクレイジーな設定が、非常に人間味あふれるストーリーを支えるバックグラウンドになるわけです」
クジラの体内のシーンは、35日かけて撮影されてたといい、オースティン曰く「物語の時系列順に行われました」とのこと。質感までこだわりぬいて再現したセットでの日々について「水の中で演技していると、徐々に疲弊し、追い詰められていく感覚があるんです。それはキャストだけでなく、クルー全員についても言えることです。話が進むにつれて、身体への影響が積み重なっていくのを感じました。でも同時に、作品にとってはそれが重要なことなので、むしろ歓迎すべき影響でもありました」と振り返った。
またオースティンは撮影中、セットだと分かっていても、閉鎖的な空間に息苦しさや恐怖を感じることもあったという。「ある程度は感じました。特にクジラの胃に“噛み砕かれている”ような場面で、壁が自分に向かって圧迫してくるときは、精神的・身体的な影響があります。あのセットには、時にそうした圧迫感や恐怖を引き起こす力がありました」
中でもリアルなのは、ジェイにまとわりつくクジラの胃液だ。ネバネバとした質感は、スクリーン越しからも伝わってくる。ダッフィールド監督によると、胃液は口に入れても安全な可食性のジェルで製作されたとのこと。「カメラ映りが一番グロく見えるのはどれかを確かめるために、何度も実験会を行いました」
製作陣が求めたのは、「生理的に不快で耐えがたいものに感じられる」胃液だったという。「体内を通るのはオースティンだけではないからです。カメラマンや多くのスタッフも、胃液の中を苦労して進まなければなりませんでした。どのジェルを使うのか、ドロドロ具合をどれくらいにすればいいのか、オースティン・エイブラムスを痛めつけるのに最も完璧な粘度を見つけ出すために、何週間もの時間を費やしました。この映画におけるすべてのものは、何日もの試行錯誤の結果なんです」とダッフィールド監督は自信をのぞかせていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)



