「仮面ライダーカブト」石田秀範監督、転機は「クウガ」の改革 助監督時代を経て誕生した唯一無二の“石田節”

 20周年を迎えた特撮ドラマ「仮面ライダーカブト」(2006~2007)の完全新作となるVシネクスト『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』。監督を務めた石田秀範は、宇宙刑事シリーズからキャリアを積み、「唯一無二の自己主張“石田節”を作れ」という言葉を指針に歩んできた。転機となった「仮面ライダークウガ」での改革、パイロットを手がけた「仮面ライダーカブト」での取り組み、そして20年を経て再び向き合った『仮面ライダーカブト 20th』に込めた思いを語った。

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“石田節”を作れ 助監督時代にかけられた言葉

 監督として40年近くのキャリアを持つ石田が、初めて現場に就いたのは「宇宙刑事ギャバン」(1982)の終盤だった。以後、宇宙刑事~メタルヒーローシリーズで助監督を務め、8年後の1990年、「特救指令ソルブレイン」の第19話「涙の手錠を打て!」(※第20話「亀ちゃんと探偵娘」との2話持ちで撮影)で監督デビューを果たした。いわば生粋の大泉(※東映東京撮影所)育ちと言えるが、自身は助監督時代を「黒歴史」と厳しい口調で語る。

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 「勉強にはなりましたけど、全くいい思い出はなかったですよ。予算や時間的な制約もそうだし、当時は業界的な評価もあまり良くなくて、現場もあまり前向きではなかった」と振り返る。この石田の発言について補足するなら、当時の状況としては、映画会社の東映にあって、テレビ番組の製作を請け負う東映テレビプロダクションは「坂下」と言われており、また子ども番組自体も「ジャリ番」と低く見られていた時代であった。徐々にハイターゲットの注目を集めつつあったものの、現在と比べたら、まだまだ程遠い状況だったと言えるだろう。そんな中、助監督時代の石田は、あるカメラマンに言われた言葉が印象に残ったという。

 「この業界で生きていくためには、唯一無二の自己主張=“石田節”を作れと。そうしないと消えてしまう。その番組を1分でも見たら“ああ、石田監督ね”と思ってもらえるような演出を作りなさいと。それが自分の演出の基本になりました」。石田はしばしば「中途半端は嫌い」と公言しており、シリアスでもコメディーでも徹底的に描く作風で知られているが、それこそが“石田節”と呼べるのではないだろうか。

監督としての転機は「仮面ライダークウガ」との出会い

アクションシーンも真摯に向き合ってきた - (C) 2026 石森プロ・バンダイ・東映ビデオ・東映 (C) 石森プロ・東映

 「特救指令ソルブレイン」以降、石田は助監督を兼任しつつ、各シリーズで監督を手掛け、やがて監督としてローテーション入りする。製作サイドとしては、安定したクオリティーで作品を撮ることができる、信頼の証でもあるが、一方で「さっき黒歴史と言いましたけど、このままでいいのか? 変えていかなくてはいけない」と監督に昇進してからも、状況に満足することはなかった。そうした鬱憤が募っていた時に出会ったのが、平成仮面ライダーシリーズ第1作「仮面ライダークウガ」だった。石田にとっては初のパイロット(※第1&2話)の監督依頼でもあった。

 「これは高寺成紀プロデューサー(当時)の存在が大きかった。彼は僕が思っていたことをズバスバ言ってくれて、同じ想いがあったんだろうな。そこからはとにかく改革ですよ。プロデューサーとして高寺は大ナタを振るったことで叩かれたし、僕は僕でそれまで許されなかったような演出をスタッフに注文したし、役者にもこれまでになかった芝居を注文していった。ちまちまやっていたんじゃ変わらないので、時間がかかろうが予算がかかろうが、スタッフから文句が出ようが、自分が正しいと思ったことをとにかく強要した……強要するしかないんですよ。 合議制じゃ何も進まない。何かを改革しようとするなら、たとえ独善的であっても強要、強制しないと変えられない。徐々に変わって同じ思いを持つようになったら合議制にすればいい。だから、敢えてきつくやった側面もあるし、当然それで迷惑した人もたくさんいたことは自覚しています」

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 「クウガ」では、従来から変わった点が多々あるが、中でもよく知られているのが、ハイビジョンカメラの導入、またそれに伴って録音部を置き、同録に切り替えたことである。従来は16ミリのフィルム撮影、オールアフレコ方式であった。それについて石田監督は「いや、変わったんじゃなくて、それが本来の姿でしょう。それまでが本来やるべきことができてなかったんです。だから、アフレコから同録になったからと言って、別に特別なことをやったわけじゃないんです」と力説する。

 また、東映の特撮ヒーロー作品では、アクション監督がカット割りも含めて演出するスタイルが確立されているが、石田は「クウガ」以降、アクションにも積極的にコミットしていった。

 「自分の助監督時代にはアクションシーンの撮影になると、どこかに行ってしまう(ドラマ部分の)監督もいたんですよ(笑)。でも、映画って監督が全てをコントロールするものじゃないの? と。自分はそういうものだと思って映画を観てきだし、映画学校でも教わってきた。アクションも石田組の一部なんだから丸投げするのはおかしい。もちろん、自分にはアクションの技術はないから殺陣は付けられません。だけど、自分が納得できるアクション、自分の好きなようなカット割りにしてもらわないと困る。アクションシーンになった途端に組が変わるようなことは違うんじゃない。他の組はどうか分からないけど、僕はアクション監督にも口を出すし、アクターにも口を出しました」

「基本は好きか嫌いか」監督としてのスタンス

『カブト』の20年後を届けることに徹した - (C) 2026 石森プロ・バンダイ・東映ビデオ・東映 (C) 石森プロ・東映

 その「クウガ」から数えて7作目となる平成ライダーシリーズが「仮面ライダーカブト」だ。石田は、「クウガ」「剣」「響鬼」と4度目となるパイロット(※第1話&第2話)監督を任される。「あの頃は自信があったのでしょう」と当時を自嘲気味に語ると共に、「自分自身ではあまりこだわってやっている意識はない。人から見るとそれがこだわりに見えるんだろうけど、基本は好きか嫌いかでやっていっていただけ」と監督としてのスタンスを語る。

 たとえば、「カブト」ではアイコンとして東京タワーが印象的に使われていたが、それもまた「好きだから、という単純なことです。そこについて何がどうしてこうだからといったこだわりはなく、自分はあくまで感覚。これが田崎(竜太※崎はたつさきが正式表記)なら、理論を積み重ねていくところだけど、自分にはインテリジェンスはないんです。何か閃いたり、日頃思っていたり、感覚にパッと思い浮かべたらやる」。これもまた石田節のひとつと言えるだろう。

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 石田はパイロットだけでなく、テレビシリーズ全49話中13話(最終回含む)と劇場版『仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE』も手がけ、「クウガ」と並ぶ代表作となった。そして20年の歳月を経て、『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』の監督を務めることとなったが、特段構えることもなかったという。「『カブト』の20年後の映画を撮るので、監督をお願いします。ただそれだけですよ」。それも作品の方向性なども大きく打ち合わせることはなかった。「プロデューサーの白倉(伸一郎)さんとは『だいたいこういう話なんだ』『そうなんだね』といった程度。お互いどういう性分か知っているし、僕に事細かに『ああしろ、こうしろ』と言っても、その通りやらないのは知っているからね(笑)」

 当時のスタッフも参加しており、アクション監督の宮崎剛監督もそのひとりだが、石田のスタンスは変わらない。「アクションもただ殴る蹴るをやるわけじゃなくて、同じ芝居なんですよ。気持ちがあって殴ったり蹴ったりする。蹴り一つにしても感情が入ってないと嘘っぽくて、キックボクシングやプロレスやっているわけじゃないんだから、感情込めたアクションにしてもらわないと困る。今回は幸いなことに宮崎の尽力があってのことなんだけど、縄田雄哉、伊藤茂騎、高田将司ら主役級のアクターを揃えてくれたし、アクションの構成は宮崎に任せて、僕は安心して見ていられた」

「当時のようにやってくれ」とは一言も言わなかった

20年ぶりに集まった加賀美、矢車、大介 - (C) 2026 石森プロ・バンダイ・東映ビデオ・東映 (C) 石森プロ・東映

 主要キャストでは、佐藤祐基、徳山秀典、加藤和樹といった当時のオリジナルメンバーも20年ぶりに顔を揃えた。いずれも当時は新人だったが、改めて当時の役柄を演じてもらう上ではどのように狙いを伝えたのだろうか。

 「20年も経てば、楽しい想いもつらい想いも、いろいろ経験してくるわけじゃないですか。その“いろいろ”があった上での今回です。たとえば、みんなオヤジになった(笑)。それはいい意味でも悪い意味でもあるけど、どのみち昔と同じというわけにはいかない。だから、僕は『当時のようにやってくれ』とは一言も言わなかった。むしろ20年経って変わらなかったら成長してねぇのかって話だからね。もちろん三つ子の魂百まで、じゃないけど、ひとりの人間として変わらないところはあるけど、そうは言っても別にガチガチに決め込んでやるつもりもなかった。ゆったり、リラックスしてやろうよと。別に難しい話じゃない。そういったことを言った程度ですよ」

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 また、加藤演じる風間大介と行動を共にする少女・ゴンは、今回、馬場ふみかが演じている。グラビアでブレイクし、現在は女優として活躍中の馬場は、「仮面ライダードライブ」に登場した敵・ロイミュードのメディック役が演技初挑戦の俳優デビュー作。初登場の第11話に続く、第12話を手掛けたのが石田監督であった。

 「大人になったゴンは何人か若手を見たけど、プロデューサーが“馬場くんで行こう”と言ってきて決めました。『ドライブ』当時は何を考えてるか分からない娘だったけど(笑)、年齢的にも成長して、やはり“いろいろ”あったのでしょう。実に良かったですよ」と太鼓判を押す。

 風間大介と大人になったゴンの微妙な関係性についても、「大人が観る作品なんだから余計なセリフなんかいらないんですよ」と語る。「今回のテーマは人と人との関係性です。敢えて人間ドラマを描こうとする重い気持ちもないけど、生身の人間が20年経ち、別にセリフで言わせなくても、なんとなくお客さんに匂わせ、感じさせる。これは言葉で言えば簡単なことだけど、尺も食うし、ヘタすると安っぽく見えてしまう。だけど、2人のちょっとした頬の緩みや目と眉の上り方、ちょっとした手の仕草で20年間を表すことができる。想像以上の細かい芝居、心理、心理的な内面を表現してくれた。いい役者になったなと思いましたよ」と絶賛した。

「尖がったところがなくなった」新作に込めた今の心境

『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』メインビジュアル - (C) 2026 石森プロ・バンダイ・東映ビデオ・東映 (C) 石森プロ・東映

 本作では、人間とワームが共存する20年後の世界が描かれるが、石田としてはそこは特にこだわるべきことではなかった。「劇中でも『人類もワームもない』というセリフがあるんだけど、ごくごく普通のことですよ。別に大した問題じゃないっていう感じでやっていましたね」。石田が本作を撮るにあたってこだわったのは、「ホームドラマ」としての「カブト」であった。「テレビで毎年やっているのは、地球を守る仮面ライダーだけど、そればかりじゃ見飽きてしまうでしょう。『仮面ライダーアマゾンズ』もそうだったけど、いろいろな選択肢があっても構わないと思うし、ちょっと毛色の違うものを作ったほうが面白いと思うんです」

 特に本作では、非常にゆったりとした時間が流れており、テレビシリーズの石田節とは異なる印象を受けるファンも少なくないと思う。「それは年のせいですよ。もう若い頃のような尖がったものは作れない。それは、僕自身に尖がったところがなくなっちゃっているからね。『アマゾンズ』ではかなり尖ったことをやったけど、今やったらもうちょっと丸くなるかもしれない。それこそ『クウガ』の頃のように、『こうでなくてはいけない』と相手に何かを強要することはもうなくなりました。こだわりだけじゃ、人生やっていけないってことがようやく分かってきた、ということかもしれないね」と語り、まさにその石田の今現在の心境が『天を継ぐもの』には込められている。

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 「やっぱり、人それぞれに事情があるじゃないですか。そこを上から目線じゃなくて汲んであげないと。こちらから相手の事情まで言わなくてもいいけど、寄り添ってあげたり、人を大事にしないとね。20年経てば、言いたくないこと、隠しておきたいこともある。そういったころを、この作品から感じ取ってもらえれば嬉しいです」

 続けて本作について、こうも思いを述べた。「僕自身としては、ホームドラマをちゃんとやれたかな。それは俳優さんの力があってのことですよね。佐藤祐基、徳山秀典、加藤和樹、それから若い荒木飛羽、[小寺結花の2人。彼らが想像していた以上にいい塩梅だったんですよ。いくら監督が頑張ったところで、役者が頑張って表現してくれなければ始まらない。過不足なく、ちょうどいい感じの滋味溢れるVシネクストになったんじゃないかと思います」(取材・文:トヨタトモヒサ)

Vシネクスト『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』は新宿バルト9ほか期間限定上映中、Blu-ray&DVDは2027年2月10日(水)発売

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