押井守監督、『ボトムズ』2人の女性主人公を描いた理由 15年ぶり完全新作「謎をたっぷり仕込んだ」

映画『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女(ヘクセ)』を手がけた押井守監督が8日、TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて行われた完成披露上映会に出席。完全新作の世界観に圧倒された観客を前に「私は信用されていなかったらしいです。正直に聞くんですけど、まだ疑っている人いますか?」と呼びかけ、会場を盛り上げた。この日は、声優キャストの沢城みゆき(アッシュ・ヴァンプス役)、安藤麻吹(マキ・シュタウフェンベルク役)、三木眞一郎(アリクス・バラック役)、上坂すみれ(整備兵の少女役)が来場した。
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1983年のTVシリーズ放送以来、40年以上にわたりファンを熱狂させるリアル・ロボットアニメの金字塔「装甲騎兵ボトムズ」。15年ぶりの完全新作にして、『攻殻機動隊』シリーズなどの押井監督が手がけた本作は、アストラギウス銀河という星系で起きた百年戦争末期を舞台に、過酷な戦場でも必ず生き延びることから魔女と呼ばれる兵士と、彼女を追う密命を受けた女性士官を描く戦場アクション。サンライズ50周年企画として制作されている。
本編を鑑賞し終えたばかりで、熱気冷めやらぬ観客を前にした押井監督は「私は信用されていなかったらしいです。正直に聞くんですけど、まだ疑っている人いますか?」と尋ねて会場は大笑い。「まあ、今までが今までだから無理ないかな、というところもありますが。でも『ボトムズ』のいちファンとしてリスペクトした作品にしたいと思っていましたし、そうなっていると思います」と自信をのぞかせた。
本作を制作する際、最も大事にした点について質問された押井監督は「先ほども言いましたが、僕の作品であると同時に、(高橋)良輔さんの作品なので。絶対に世界観を壊さないようにしようということですね」とオリジナルへの深い敬意を語るも、「でもそれを一番心配されていたのかな、やらかすんじゃないかと思われていたみたいで」と付け加え、会場内はドッと沸いた。
「でもそれは考えすぎなんですよ。僕は職業監督なので。ましてやサンライズさん、バンダイさんの大事なIPですから。めちゃくちゃやれるわけないんで」と弁明しつつ、その上で「僕自身もボトムズのファンだったので、いつかやる機会が絶対あると思っていました。ようやくその機会が回ってきたので、やりたいことは最初から全部決まっていました。何の苦労もなかったというか、自分がやりたかったことを全部詰め込んだだけです」と力強く語った。
構想自体は「たぶん、20年ぐらい前」からあったとのことで、「懲罰部隊の話にしようというのは決まっていたし、アッシュとかマキとかは実は初見じゃないんですよ。自分の中で名前やシチュエーションを変えて何度か登場しているキャラクターなので、今回のアッシュは最終形態に近いのかもしれない。(『攻殻機動隊』の)素子もアッシュも同じだと言われればその通りなんだけど、実はちょっとずつ変わっていって。ある意味では自分の本音がどんどん出てきている」と解説する。
さらに「抽象的に見えて、実はかなり生々しいんです。一言で言えば、僕の大好きな『めんどくさいタイプ』。女性の趣味が偏っているなと思いますが、めんどくさいというか、一歩進んで“悪い女”になっているのは、この中では普遍的な女性のイメージ。だからキャラクターの造形的にはほとんど苦労しなかった」と創作の過程を明かした。
また、『ボトムズ』シリーズとしては初となる女性2人をメインに据えた理由についても「企画の段階ではやはり『男と女にしてくれないか』という要求がありました。現場的にもその方が普通なんでしょうけど、でもそういうのは苦手だし、嫌だったから。でも女と女にすれば、ドラマ的にまた煮詰まるだろうと思ったんです。魔女の物語になるし、もしかしたらマキさんも魔女なのかな、と含みを持たせることもできる。そこはがんばって押し通しました」とこだわりを説明。さらに「キャラクター全員に仕掛けがあって。前編にはたっぷりの謎を仕込んであるので、あとはそれをどう回収するのか、もしくは回収しないのか……」と意味深な言葉を発しつつも、観客の期待をあおった。
そのことを踏まえて「映画って謎がないとエンタメにならないんですよ」と続けた押井監督は、「最近の映画はみんな分かるようになっているんですけど、分からない部分があって初めてキャラクターは人格として機能するわけなので。僕自身が男なんで、女性に興味があるわけです。だからあらゆる女性は魔女であるというのが普遍的なテーマ。 それはいつもあったし、今まで分からないままやってきたし。興味がないキャラクターもいっぱいあったんですけど、今回に関しては最初からこの2人の物語なので。 だから女と女であることによって、逆にドラマの密度を上げていこうと思っていました」
一方、魔女と呼ばれ畏怖される兵士アッシュを演じた沢城は、「こんなに地声で低く喋(しゃべ)ってても怒られない現場はあんまりなくて。どんどんすごみが出てきた」と語ると、「人から見るとひどく見える行動も、彼女の中ではポリシーを貫いていた結果でしかなくて、純度が高い。やはり(クライマックスで)バラックに言ったセリフなんかは独特の快感があって。罵詈(ばり)雑言の気持ちよさ、切れ味のようなものを感じていました」とキャラクターの魅力を振り返った。
そんなイベントの最後、押井監督は「疑いは晴れたと思うんですが、まだ前編ですので、後編の方もぜひよろしくお願いしたい。たぶん順調にあがるかなと思っているんですけど、まだ分からないですね」と会場を笑わせると、「自分で想像したよりは、非常にクオリティーのしっかりした作品になったと思うし。これは久しぶりのアニメーションなんですよ。だから今夏はずいぶん戸惑ったことも多かったし、新しいスタジオ、新しいスタッフと組んでやった最初の仕事なので。初心に帰ったような気分でやらせていただきました。川井(憲次)くんとも、音響的にもがんばったので。音のバージョンもいろいろありますので、聞き比べていただけたら」とメッセージを送った。(取材・文:壬生智裕)
『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女(ヘクセ)』は11月20日(金)より全国公開



