新人発掘が目的の映画祭増加中!インディーズの聖地でもニューシネマウィーク東京開催
ぐるっと!世界の映画祭
【第90回】(日本)
誰もが映画を撮れるようになると同時に、新人発掘を目的としたインディーズのための映画祭が増加中。カナザワ映画祭、田辺・弁慶映画祭、ちば映画祭などいずれも元気がいい。その領域に新たに参戦したのが、インディーズの聖地K's cinema(東京・新宿)が会場の「ニューシネマウィーク東京2020」(以下、NCWT)。2月15日~21日に開催された第1回を映画ジャーナリストの中山治美がリポートします。(取材・文・写真:中山治美)

『カメ止め』『カランコエ』に続け!

NCWTの主催は、深川栄洋、今泉力哉監督らを輩出した映画学校ニューシネマワークショップ(東京・早稲田)で、ディレクターは同校主宰の武藤起一。武藤は若手映画監督の登竜門として知られるぴあフィルムフェスティバル(PFF)のディレクターを1985年から7年間務め、大谷健太郎監督『avec mon mari アベック モン マリ』(1999)や『とらばいゆ』(2001)のプロデュースも手掛けるなど、約40年に渡って日本のインディーズ映画に携わってきた。同校では2001年から実習作品やOB作品をお披露目する「Movies-High」(ムビハイ)を開催しているが、同校の作品に限らず上映作品を広げたのがNCWTだ。

転機となったのは、OBの中川駿監督が手掛けたLGBTをテーマにした短編『カランコエの花』(2016)だ。第26回レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~でのグランプリ受賞を皮切りに国内の若手対象の映画祭を総ナメに。主演女優・今田美桜の人気もあって、注目度も高かった。ただし39分という上映時間だったため、劇場公開にはハードルが高い。そこで2018年のムビハイの上映枠内で1週間限定公開を行ったところ連日満席の大盛況となり、全国での劇場公開へとつながった。
「その頃、ちょうど世間では『カメラを止めるな!』が爆発的ヒットをしていて、作品が面白ければ、うまく反応が起こるのだということを身を以て実感しました。これが、これからのインディーズのあるべき姿なのではないかと希望を抱きました。同時に、ムビハイでは一学校の発表会の域を出ないのだという限界も感じた。そこで新たにNCWTを立ち上げました。ここに来れば良い映画が見つかりますという映画祭にしたいと」(武藤)
50分未満の中短編を上映!賞は観客投票で決定

プログラムのメインは、選りすぐりの50分未満の中短編を上映する「ニューシネマセレクション」。今回は初回ということもあり、武藤の知人や学校関係者のネットワークを用いて出品を募り、四十数本の応募作の中から10本を武藤がセレクトした。
その中には第12回栃木・蔵の街かど映画祭グランプリや第2回いぶすき映画祭金のいぶすき賞&審査員特別賞などの受賞を重ねている浜崎正育子監督『ランチメイト症候群』のようにすでに他の映画祭で評価された作品もあり、結果的に、2019年の新人監督対象映画祭のおいしいところが集まった印象も。

またクロージングセレモニーにはニューシネマワークショップOBで、山戸結希監督『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019)の川田亮プロデューサーも登壇し、総評と各作品の講評、さらには急きょ川田Pによるプロデューサーズチョイスも発表された。受賞結果は以下の通り。
●観客賞(賞金10万円)
柳田慎太郎監督『パパ活のきみ』
●プロデューサーズチョイス(次回作で、川田亮プロデューサーの制作サポートを受ける権利)
松本恵監督『ゴールド』
●特別賞(K's cinema1年間フリーパスポート)
高橋雄祐監督『still dark』

まず、川田Pは総評で「商業映画は誰かの発注を受けたり、(漫画や小説など)ネタがあって自分発信で作ることはまずないのですが、インディーズは皆さんが第一発案者で、作りたいという気持ちが先行しているのが面白い」と語り、全てオリジナル脚本という新鮮さを感じたようだ。しかも観客賞を受賞した『パパ活のきみ』がSNSによるコミュニケーションの変化を描いていたが、「皆、バラバラで制作しているはずなのに多くの作品が社会を表していて、今の日本が見えてきた」そうで、映画が社会を反映していたことを指摘した。
それを最も象徴していたのが10作品のうち、ちょうど半分が女性監督の作品だったことで、川田Pは「作品の中でも佐藤陽子監督『わたしのヒーロー』は妻に代わって夫が育休に苦難する話であり、『パパ活のきみ』も女子高生がパパを翻弄する展開で、女性が強い」と時代の変化を実感していたようだ。

そしてプロデューサーズチョイスも松本恵監督へ。『ゴールド』は監督自身を主人公に投影したかのような、夢をかなえるべく故郷を離れ都会に出たものの、公私ともにうまくいかない女性の葛藤を描いたもの。松本監督はニューシネマワークショップのOGで以前、川田Pによる特別講義に参加。その際、脚本を提出したところ川田Pから「いろんな要素を詰め込み過ぎ」との指摘を受け、新たに執筆したのが『ゴールド』の脚本だったという。
「川田さんのあの一言がなければこの作品は作っていなかった」(松本監督)というだけに、受賞に感激もひとしおだった。川田Pは「オーソドックスな話ではあるが、他の作品が主人公以外の登場人物をケアしきれていない中、『ゴールド』はそれぞれに役割が与えられており、それが一つの形になっていた。物語の着地点もいい」と評価した。松本監督には次回作を制作する際、川田Pがサポートする権利が与えられた。
撮影はわずか4日!料理人を目指す盲目青年の奮闘描く

授賞式でもうひとつ急きょ設けられた賞が特別賞。観客賞は1プログラムだけ観ても投票できるが、中には2~3プログラムを鑑賞して投票した人も。その中で最もポイントが高かった高橋雄祐監督・主演『still dark』に特別賞が贈られた。高橋監督は『あいが、そいで、こい』(2018)など俳優として活躍しており、監督としては本作が2作目。自身が目をぶつけて危うく失明の危機に遭遇した経験をもとに、料理人を目指す盲目の青年の奮闘を描いた。撮影はわずか4日だけだったそうだが、役に入れ込み過ぎて初日に腸閉塞を起こして救急車で運ばれる事態に。約2か月間回復を待って撮り終えたという労作だ。
この作品に込められた熱量と、イタリアン・レストランの狭いキッチンでの躍動感あふれる調理シーンが素晴らしく、プロデューサーズチョイスを『ゴールド』か本作に与えるか迷ったという川田Pも「映像と音楽のセンスも含めて、(他の作品と比べて)抜けていた」と高く評価していた。

そもそも高橋監督は、自分が演じたい役をやるために映画製作に乗り出したという。同様の苦悩と有り余る情熱ゆえか。NCWTでプレミア上映された『愛うつつ』(葉名恒星監督)の主演俳優・細川岳も、内山拓也監督『佐々木、イン、マイマイン』(今秋公開)の出演・企画者として製作に全力投球中。
今泉力哉監督『街の上で』(5月1日公開)の主演俳優・若葉竜也も、長編映画『蝉時雨』(2018)が門真国際映画祭で作品賞・主演男優賞・助演男優賞を受賞したのに続き、短編『来夢来人(らいむらいと)』(2019)が山形国際ムービーフェスティバルで村川透監督賞受賞と監督としても期待されている。山田孝之、斎藤工と映画製作に携わる俳優たちは増えているが、インディーズ界でも起こっているこの新しい動きに注目したい。
10年後、日本映画界を担う才能たちが集結!!

ムビハイの上映枠を使って『カランコエの花』を一般公開した前例にならって、NCWTでもニューシネマワークショップOGの吉田真由香監督『サンキューフォーカミング』(2018)と、ニューシネマワークショップのアクターズワークショップに集まった俳優たちが出演した藪下雷太監督『BOY』を共に1日1回上映で1週間の限定公開を行った。前者は、親の敷いたレールに沿って生きてきた女性が自立していくまでをシュールに描き、ありそうな題材ながら大胆な展開と独自の視点に吉田監督の才気を感じる。一方後者は、記憶喪失になった主人公の交友関係を探るうちに、恋人と称する女性が2人現れて思わぬ事態を招いていく新感覚のラブミステリー。編集次第で大化けしそうな可能性を秘めた作品だ。

この2作品をはじめ吉野竜平監督『ミゾロギミツキを探して』(2018)の特別上映は、映画学校主宰者でもある武藤の「最終的には彼らがプロの監督になれるよう、ステップアップしていく姿を見守っていきたい」との思いからだ。おそらく今回「ニューシネマセレクション」に参加した監督たちの新作も、NCWTで上映していくこととなるだろう。
もちろん初回の開催で反省点もあるという。
「ニューシネマセレクションに関しては、なかなか一般の映画ファンには浸透しきれていなかったなということを実感しています。どうすれば興味を抱いてもらえるのか。これからの課題です。また、今回の公募はクローズドな形だったので、一般公募を受け付けた場合の体制をどのように整えるのか」(武藤)
今、日本映画は新鋭がなかなか国際映画祭の舞台に出ていけず、停滞している状態が続いている。その突破口を開くのは誰か。NCWTのカタログには次の一文が書いてある。
「10年後、日本映画界を担う才能たちが集結!!」
長い目で見守りたい。