間違いなしの神配信映画『ブロー・ザ・マン・ダウン～女たちの協定～』Amazon Prime Video
神配信映画
押さえておきたい監督編 連載第7回（最終回）
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は個性やメッセージ性の強い監督の作風に注目。毎日1作品のレビューをお送りする。
小さな港町で起きた殺人事件がその町の秘密をあらわにする
『ブロー・ザ・マン・ダウン～女たちの協定～』Amazon Prime Video
上映時間：91分
主演：ジューン・スキッブ、マーゴ・マーティンデイル、アネット・オトゥール
メアリー・マーガレット・コノリーが長い闘病の末に亡くなった。母を看取った姉プリシラ（ソフィー・ロウ）と妹メアリー・ベス（モーガン・セイラー）の姉妹に残されたのは、客もまばらな魚屋と借金、その担保になっており失いかけている家。
大学を中退して看病を手伝っていた妹は、町を出て行きたいが閉塞感と絶望しかない現状に怒りをあらわにして夜の町へ飛び出し、姉は手際良く魚をさばき、調理し、食べることで静かな怒りを胸の中に押し込める。だが、その夜、メアリー・ベスは外出先である男を殺してしまう。姉の助けを借りて死体を魚用クーラーボックスに入れて海に沈めるが、後日海から上がったのは、殺害された若い女性の死体だった……。
アメリカ・メイン州の架空の小さな漁業の町、イースター・コーヴを舞台にした『ブロー・ザ・マン・ダウン～女たちの協定～』は、冒頭から誰もがコーエン兄弟の『ファーゴ』（1996）を思い出さずにはいられないだろう。寒風が吹き荒ぶ雪景色に、ブルートーンで統一された、冷気が伝わるような映像世界（撮影監督はトッド・バンハーズル）。血まみれの殺人事件、魚の骨抜きナイフ、現金がつまった袋、海を見渡す売春宿。一方で住人たちは数十年来の知り合いだらけで、いかにも田舎の素朴で世話焼きな婦人たちの姿は一見すると平和的に映る。だが偶然にも犯罪に手を染めた姉妹の行為は、思いがけない形で町の水面下に横たわる暗い秘密を暴いていく。
雪だるま式に広がりを見せていく巻き込まれ型のクライムサスペンス。終始ノワールタッチでドライなユーモアと機知に富んだ作風は、まさにコーエン兄弟の犯罪コメディーの最新バージョンといった趣がある。必然的にノア・ホーリー版の秀作テレビシリーズ「FARGO／ファーゴ」の世界に近いテイストがあるとも言えるだろう。そしてこの世界観にドンピシャ過ぎて期待を裏切らないのが、マーゴ・マーティンデイルふんする売春宿のオーナー、エニッドのキャラクターだ。姉妹を軸にした展開ではあるが、ぐんぐん存在感を増すエニッド、そして伝統的なパイを作って客をもてなし、お茶会を開くタイプの女性たちが物語において果たす役割にこそ、本作の真髄がある。
監督兼脚本は、これが長編デビュー監督作となったダニエル・クルーディとブリジット・サヴェージ・コールの女性コンビ。本作がプレミア上映された2019年のトライベッカ映画祭で脚本賞を受賞して注目された。最近では『ハスラーズ』（2019）、あるいはテレビシリーズ「ビッグ・リトル・ライズ」（2017～2019）にも通じるメッセージ性にも優れているが、クルーディ＆サヴェージ・コールの女性たちの怒りと連帯のエンターテインメントへの落とし込み方は独創的で、その世界観は観客を魅了する。
タイトルの「Blow the Man Down（そいつをぶっ倒せ）」は、非常に示唆的だ。海の仕事に携わる者たちが歌う労働歌（シー・シャンティ）で、文字通り映画では冒頭から地元の漁師たちが素朴で力強くも美しいコーラスを聴かせる（音楽はジョーダン・ダイクストラとブライアン・マコンバーが担当）。この独特のムードを醸す海の男たちの労働歌の数々は、要所要所で効果的に使われている。その歌詞の意味深なことよ……！ 地元の漁師たち、海辺の“掘っ立て小屋”（シャンティ）、労働歌。男性たちが関わるこれらの要素は繰り返し登場し、最後には見事に女性たちの物語へと回収されていくカタルシスにぞわぞわ……。ダニエル・クルーディとブリジット・サヴェージ・コールの名前は今のうちに覚えておいて損はない。（今祥枝）
