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間違いなしの神配信映画『マ・レイニーのブラックボトム』Netflix

神配信映画

今観ておきたい6選 連載第1回(全6回)

 配信映画は、いまやオスカーほか賞レースの常連にもなっており世界中から注目されている。この記事では数多くの配信映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。今回は今観ておきたい6選として、全6作品、毎日1作品のレビューをお送りする。

名うての歌手と野心家トランペッターを通じて人種間の根深いディスコミュニケーションを描く

マ・レイニーのブラックボトム
Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中

マ・レイニーのブラックボトム』Netflix

上映時間:94分

監督:ジョージ・C・ウルフ

出演:ヴィオラ・デイヴィスチャドウィック・ボーズマングリン・ターマンほか

 原作は、1984年にブロードウェイで初演された、黒人劇作家オーガスト・ウィルソンの出世作。同じウィルソン作の「フェンス」の映画化で監督&主演を務めたデンゼル・ワシントンが製作にまわり、同作でアカデミー賞助演女優賞を受賞したヴィオラ・デイヴィスが主人公のマ・レイニーを演じた

 監督は、デンゼルが主演した2018年の「氷人来たる」のブロードウェイ公演で演出を手がけたジョージ・C・ウルフ。ニューヨーク演劇界を代表する黒人の巨匠で、「エンジェルス・イン・アメリカ」のアンサンブル演出、ミュージカル「ジェリーズ・ラスト・ジャム」や「ノイズ&ファンク」で実現させた音楽とダンスの魂を抽出する演出に定評がある。その持ち味を存分に発揮している。

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マ・レイニーのブラックボトム
Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中

 大枠のテーマは人種差別だが、黒人と白人の対立のような単純なものではない。差別の傷跡がいかに根深く、いかに複雑で、いかに長期的に、人の人生を左右するかを、2人の登場人物を通じて描いている。

 1人目のマ・レイニーは、「ブルースの母」と呼ばれた実在の黒人シンガー。1927年の夏、シカゴのレコーディング・スタジオにやって来た彼女は、1時間遅刻したうえに無茶な要求を連発。白人のマネージャーとプロデューサーを傍若無人な態度で振り回す。その背景にあるのは、キャリアを通じて白人社会から搾取の対象にされてきた苦い経験と、「白人から敬意を払われることは絶対にない」という確信だ。

 2人目のレヴィーは、マのレコーディングに参加した若き黒人トランペッター。作曲の才能があり、自分のバンドでレコードを出してスターになることを夢見る彼は、野心をかなえるために白人プロデューサーを利用しようともくろむ。幼少期に凄惨な差別を体験した彼にとっては、面従腹背(めんじゅうふくはい)こそがサバイバルのキーワードだ。

マ・レイニーのブラックボトム
Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中

 白人を上から威圧するマと、表面的には媚びへつらうように見せるレヴィー。アプローチは正反対だが、白人に対して揺るぎない不信感を抱いている点は共通している。白人と理解しあえる日は永遠に来ないだろうと、2人は肌で感じている。スタジオ到着時、車の事故をめぐって白人警官と口論になったマが、相手の言葉にいっさい耳を貸さない場面が、それを象徴的に物語っている。そして、この人種間の絶望的なまでのディスコミュニケーションが、今も確実に続いていることを、この映画は考えさせる。つまるところ、マとレヴィーが心で叫んでいるのは「BLM(ブラック・ライヴズ・マター)」なのだから。

 別の角度から見れば、白人を踏み台にしてのし上がろうとしているレヴィーは、白人社会に食い物にされながらスターに上り詰めていったマの過去形といえなくもない。ただし、2人には決定的な違いがある。マが自分の音楽を追い求めているのに対し、レヴィーは大衆に受ける音楽を追い求めている。その差が生み出す悲劇をみつめたドラマは、ブルースとは何かを物語るものでもある。

マ・レイニーのブラックボトム
Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中

 レヴィーを演じているのは、昨年43歳でこの世を去ったチャドウィック・ボーズマンさん。遺作となった本作は、がんの治療を受けながら撮影に臨んだという。自信過剰な気取り屋でありながら、腹の奥底に壮絶な悲しみと怒りをたぎらせたレヴィーの複雑な人物像を、見事に演じきった。特に、8歳のレヴィーの心身に凄まじい傷を刻み付けた事件の全貌を、5分間のモノローグとして語り上げる場面が圧巻だ。脂ギッシュなメイクでマ・レイニーを熱演したヴィオラ・デイヴィスともども、アカデミー賞候補になるのは、ほぼ確実だろう。

マ・レイニーのブラックボトム
Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中

 ちなみに、タイトルの「ブラックボトム」は黒いパンツ--ではなく、1920年代のアメリカで流行した腰振りダンスのこと。劇中では、テイラー・ペイジが演じるマの女性の恋人が、模範的なブラックボトムを踊って見せる。(文・矢崎由紀子、編集協力・今祥枝)

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