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日本と台湾ここが違って怖すぎる!台湾ホラーイッキ観の勧め

『人面魚 THE DEVIL FISH』(C)2018 Entertaining Power Co. Ltd. All Rights Reserved.

 テレビに流れた映ってはいけない存在、死者との結婚を促す因習……都市伝説や伝承をベースにした台湾発のホラー映画の数々を、映画専門サービス「BS10 スターチャンネル」が「特集:台湾ホラー最前線!」として8月に放送・配信する。

 日本との友好関係で知られ、風土や文化的な共通点も多い台湾だが、だからこそ見えてくる違和感も。そんな、日本に遠いようで近い台湾ホラーの魅力について、怪談研究家・吉田悠軌にインタビュー。特集作品とジャパニーズホラーとの対比から、意外な共通点や魅力が見えてきた。(構成:編集部・入倉功一)

スターチャンネル「特集:台湾ホラー最前線!」放送作品
※すべてAmazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」でも見放題配信中。作品名をクリックすると再生ページに飛びます。

『紅い服の少女 第一章 神隠し』(2015)
『紅い服の少女 第二章 真実』(2017)
『人面魚 THE DEVIL FISH』(2018)
『屍憶 -SHIOKU-』(2015)
『怪怪怪怪物!』(2017)
『哭悲/THE SADNESS』(2021)
『返校 言葉が消えた日』(2019)

日本ホラーの「赤い服の女」が恐怖の少女を生んだ?

『紅い服の少女 第一章 神隠し』(C)2015 The Tag-Along Co., Ltd

Q:近年、日本でも台湾ホラー映画が注目を浴びていますが、オカルト界隈でも盛り上がりを感じていますか?

そうですね。ホラーに限らず台湾の文化全体に言えることでもありますが、日本とかなり共通点がありながら微妙に違う部分もあるのが、日本人にとっては親しみやすく、また新味を感じるのだと思います。湿度が高いというか、あの独特の雰囲気は日本や韓国のホラーに近いものも感じますね。

オカルト方面でいえば、日本の妖怪は台湾で非常に注目されていて、かなりの数の書籍が翻訳されています。私は怪談が専門なのでそれほど詳しい訳ではないですが、そうした情報は入ってきていますし、もちろん、日本のホラー映画も昔から受け入れられている。「2ちゃんねる」そして「洒落怖」(2chオカルト板スレッドの略称)といったインターネット文化も紹介されているので、台湾のホラー文化に日本は確実に影響を与えていると思います。

Q:今回のラインナップで特に吉田さんが注目している作品はありますか?

やはり『紅い服の少女』ですね。私が、現代怪談に度々現れる「赤い女」をライフワークのように追っているという事もありますが。

Q:映画で描かれる“紅い服の少女”の正体は、魔神仔(モーシナ)という山に住む妖怪です。日本でも山の妖怪の話はよく聞きますが、日本からの影響は関係しているのでしょうか。

山に異界の者がいるという発想自体はもともと台湾の人々も持っていて、日本の植民地時代にもありました。日本が妖怪という思想を植え付けたわけではなく、もともとそういう発想や信仰があったからこそ、日本の妖怪が受け入れられているわけです。

理由としてはやはり、山への信仰が強いからではないでしょうか。山が多く、人里からかけ離れているわけではないという風土も日本と似ています。もちろん、霊山信仰はあらゆる国にありますが、人の生活圏から離れすぎてしまうと神様のような扱いになってしまい、日本や台湾のように、魔物とかちょっとした怪異という形では語られづらい。

本作は台湾の心霊番組で放送された映像※が元になっていますが、映像の女の子は普通の子供服を着ています。それが赤い服になったことに、日本のホラーが影響しているのでしょうか。 (※台湾GTVの心霊番組「神出鬼没」で放送された映像。ハイキングを楽しむ普通の家族のなかに、関係のない少女が映り込んでいたことで話題に)

『紅い服の少女 第二章 真実』(C)2017 The Tag-Along Co., Ltd

そもそも、あの女の子が魔神仔だという設定は映画向けの脚色ではなく、1998年に番組が放送されてから、2000年代に「PTT」という匿名掲示板で語られていくうちに醸成されていったイメージです。それが台湾における実話怪談のキャラクターとして定着し、映画に流用されたのだと思います。

おそらく“紅い服の少女”という存在も、動画が広まるなかで紅い服を着た存在になっていった。贔屓目になってしまいますが、そうやって山の魔物が「紅い服の少女」という存在になっていったことに、日本のホラー映像における「赤い女」の表現がある程度、影響を与えている気はします。もっと限定してしまうと、鶴田法男監督や黒沢清監督の作品に登場する赤い女の幽霊が影響を与えたのではないのかと推測しています。

>>吉田悠軌が語る!ほかにもあった台湾の土着怪談!
YouTubeチャンネル「オカルトエンタメ大学」

Q:黒沢清監督の『』などに登場する「赤い服の女」ですか?

テレビドラマ「学校の怪談」(1994)の「花子さん」もそうですね。黒沢監督の作品には赤い女がいくつも出てきますが、その元になったのが、鶴田監督のオリジナルビデオ版「ほんとにあった怖い話 第二夜」(1992)の一編「夏の体育館」に出てくる赤い服の女です。めぐりめぐって『リング』(1998)の貞子の描写にも間接的に影響はあたえてると思います。制作者同士もいわば仲間ですからね。

Q:素人がホームビデオで撮った映像から恐怖が広がっていくという描写にも、日本の心霊番組の影響を感じます。

むしろオリジナルビデオシリーズ「ほんとにあった!呪いのビデオ」(1999~)ですよね。あのシリーズは、基本的には素人が日常で撮った投稿ビデオを紹介する形をとっていますから。また、私自身は台湾の心霊番組まではチェックしていないのですが、そもそも「神出鬼没」という番組自体が、日本の心霊番組の作り方を踏襲したものだと、台湾の怪談やオカルトを専門にしている方から聞いたこともあります。映画の元になった出来事から、日本との間に断ち切れない関係があるという感じがしますね。

虫をむさぼり食う…体当たり演技で見せる憑依の恐怖

『人面魚』のビビアン・スー(C)2018 Entertaining Power Co. Ltd. All Rights Reserved.

Q:『人面魚』は『紅い服の少女』のスピンオフですが、かなり毛色が違います。まず霊媒師が主人公というのが珍しいですよね。日本では霊媒師が負けてから本番というか。

日本のホラーでは特に、伝統宗教のお坊さんなんかは弱く描かれますね。来る』(2018)のような例外はありますが、伝統宗教に属さない霊能者が強いパターンが多い。一方で『人面魚』に関していえば、伝統宗教の道士が非常に強いという設定ですね。

Q:台湾の映像作品という意味では、キョンシー映画に登場する道士のイメージが影響しているんでしょうか。

台湾だと『幽幻道士(キョンシーズ)』シリーズですかね。道士が主人公になるっていう意味では、影響は大きいのかもしれません。

Q:ビビアン・スーが魔神仔に憑依される女性役で強烈な演技を見せています。『赤い服の少女』でも、憑依されたヒロインが虫を食べる描写など、女優陣の体当たり演技が印象的ですね。

虫を食べるというのは、魔神仔の怪談ではよくある描写らしいです。取り憑かれて山をさまよっている間、食事をしていると思っていたら虫を食べていたというエピソードは割とある。

恐らく、憑依が怖いというイメージがあるのではないでしょうか。アジア圏だとタイの(体に彫った動物をおろす)「入れ墨祭り」のように、憑依というものが今も身近に存在している。タイ映画の『女神の継承』(2021)などもそうですよね。憑依されて獣のようになってしまうことへの恐怖がある。もちろん日本にも「狐憑き」などがありますが、ホラー映画における表現としては、違う方向に行きましたね。

Q:日本のホラーで、憑依されて獣のようになるイメージは今はあまりない気がします。

憑依された人が獣になってしまうというホラー映画は、日本でもありました。かつては大映などが制作した化け猫(怪猫)映画というジャンルが、数えきれないくらい作られていたんです。取り憑かれた人間が一回転するシーンが見せ場だったりするのですが、Jホラーブーム以降、そうした表現が日本では、いわば笑えるものになっていった。

Q:ホラー表現において、日本と台湾が違う方向を歩んだということでしょうか。

日本の場合、化け物が出てくる映画となると、今は特撮映画としてジャンル分けされる傾向がありますね。例えば『妖怪大戦争』のような作品をホラー映画だと思っている人って今はもういないですよね。清水崇監督が『呪怨』(1999)で、幽霊が直接襲ってくる表現に挑戦したことはありますが、特撮の化け物の恐怖を描こうとするホラーはないですよね。

逆に言えば、台湾では特撮映画というジャンルが日本ほどは確立されているわけではないと思うので、いい意味でホラーと特撮が混ざり合っているのかもしれません。スタッフがホラー映画で腕をふるっているということもあるかもしれないですね。

欧米人ショック!アジアンスプラッター描写

『怪怪怪怪物!』(C)2017 Star Ritz International Entertainment

Q:『怪怪怪怪物!』『哭悲』は強烈なスプラッター描写が特徴ですが、その点も作り手が腕をふるった結果ともいえるのでしょうか。

スプラッター映画に関しては、日本もアメリカも、今は本当の意味で恐怖を描くホラーを目指していないですよね。かつては『悪魔のいけにえ』(1974)のような本当に怖い作品もありましたが、今は血がブシャー! っと飛び散っても、どこか笑えるものとして描くというか。スプラッターならスプラッター映画という一つのジャンルとして作られる、ある程度の産業規模の大きさが必要ではないでしょうか。一方、台湾のホラー産業はそこまでの規模はないので一つの作品にいろんな要素が入った『怪怪怪怪物!』『哭悲』のような映画が生まれるのかもしれません。

Q:歴史的背景もあり、台湾で自由にホラー映画を制作するようになったのが2000年代以降とも聞いています。最近の日本のホラーにはない若さとパワーを感じる作品でもありますね。

日本も昔はひどかったですけどね。『ギニーピッグ』(1985~)シリーズとか、欧米の人から見たらスナッフフィルムのようなもので、「なんてひどい国なんだ」と思われていたかも。台湾ホラーはそうした、一つの作品にスプラッターも含めたさまざまな要素が入っているごちゃまぜ感がエネルギッシュではあります。馬鹿馬鹿しくて破綻しそうなところを、うまい形でまとめているのは、特徴のひとつと言えるかもしれません。

死者と強制結婚?コワすぎる風習のホントの話

赤い封筒を拾うと……『屍憶 -SHIOKU-』 (c)2015 GOOD FILMS CHINA / GOOD FILMS WORKSHOP ALLRIGHTS RESERVED.

Q:『屍憶 -SHIOKU-』は「冥婚」という風習がテーマの作品です。死者の体の一部や写真を入れた赤い封筒を拾ったら、死者と結婚しなくていけないという話は日本でもネットで話題になりましたが、台湾では広く知られている風習なのでしょうか。

そうですね。台湾では古くから広く知られているものです。冥婚自体は世界中にある風習で、日本の山形県なんかにもあります。実際に無理矢理結婚させられるわけではないですけどね。赤い封筒を拾ったら死者と結婚させられてしまうっていう怖さがポイントではありますが、実際は違うらしいです。

>>【怪談】台湾最恐の風習とは?
YouTubeチャンネル「オカルトエンタメ大学」台湾怪談会

Q:強制的に結婚させられるイメージでした。

(相手を選べないと)どちらにもメリットがないですからね。ある地方でそういう風習は確かにあったそうです。今はもうありませんよ。ただそれも、日本人旅行者のような赤の他人ではなくて、同じ村や共同体の人に封筒を拾ってもらって、形式上結婚する。その人はお金をもらえるし、別の人と結婚してもいいんです。だから怖いというよりも、神様と縁ができたんだよ、といったニュアンスの、割といいことづくしの風習のようですね(笑)。

Q:それがホラー映画になったのは、日台合作という点も大きいのでしょうか。

『屍憶 -SHIOKU-』 (c)2015 GOOD FILMS CHINA / GOOD FILMS WORKSHOP ALLRIGHTS RESERVED.

この作品のプロデューサーは(『リング』などの)一瀬隆重さんですが、そうした客観的な目があったからこそ、ホラー映画になり得た面はあると思います。冥婚という怖い風習が台湾にあるっていうのを聞いた、日本からのオリエンタリズムですよね。恐らく台湾だけで作っていたら、どこかの小さな村でそういう風習があって……という描写になると思うんです。『屍憶』のように、都会を舞台とした民俗ホラー映画にはならなかったのではないかと思います。

また、この作品の幽霊描写でいうと、台湾で怪談をやっているナオキさんという方が「Jホラー的な幽霊と台湾ホラーの幽霊が混在している」とも言っていましたね。

台湾映画に漂うノスタルジーと死の匂い

ノスタルジーと死の匂いが同居する『返校 言葉が消えた日』(C) 1 PRODUCTION FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED.

Q:『返校』は、日本の影響を受けていないオリジナリティーが感じられます。

台湾が独裁体制下にあった「白色テロ」の時代を描いた作品ですが、歴史の悲劇みたいなものを背景に、過去と現在が入り混じる映画という点で、テオ・アンゲロプロス作品のような格調の高さがありますね。誰かが幽霊になった理由を描くのではなく、歴史を描くために幽霊のような過去の人々が出てくる作品ですから、Jホラーとは違う。また、歴史的な悲劇とホラーストーリーが融合したような作品もJホラーではあまり見ないと思います。

私は映画の原作になったゲームもクリアもしているのですが、素晴らしい出来なんです。あれをしっかりと映画に仕立てた事は評価に値しますが、ゲームのクオリティーがもともと高い。

Q:ゲーム制作者はエドワード・ヤン監督の『クー嶺街少年殺人事件』(1991)に影響を受けたそうですね。

『クー嶺街』はホラー映画ではないですが、ノスタルジーのなかにヒリっとするような怖さが漂っていて、『返校』にもその匂いがすごくありますね。そういう部分で台湾映画って独特の空気があると思います。ノスタルジーを感じさせながら、すぐ側に死があるような感覚というか。繊細な人間描写をすごく淡々と、それこそ死者の視線のように見つめているような。そこには、エドワード・ヤン監督作品のような芳醇な土壌があって、だからこそゲームが生まれ、映画が作られたという点でも独自性を感じますね。

Q:日本との共通点が多いだけに、『返校』のような作品を観ると独自色が際立ちますね。

吉田悠軌氏

日本と台湾でホラー文化は密接に結びついているけれど、実際に映像作品を作るとなると、台湾の風土の中で、自分たちの伝統宗教をベースにした映画になる。映画の構造や側のイメージが似ている分、違いが余計に際立ってくるんです。町の風景なんかもほとんど一緒ですから。電車に乗っているシーンなんて、完全に日本の電車と同じ。そうした風土が似通っているだけに「霊能者が主人公になることってないよな」とか「こんなにはっきりとモンスターを描くことはないよな」といった違いが際立ってくるのは面白いし、特集作品を一気に観ることで、そういった興味深い違いも感じられるのではないでしょうか。

「特集:台湾ホラー最前線!」放送:【STAR1 字幕版】8月12日(土)~8月13日(日)午後3:00~ 2日連続放送ほか(全7作品)
配信:8月5日(土)よりAmmazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」にて順次配信開始>>
>>詳しくはこちら!

特集:台湾ホラー最前線!」×YouTubeチャンネル「オカルトエンタメ大学」
配信期間:
1. 8月5日(土)、8月6日(日) 吉田悠軌と若手怪談師たちによる怪談会 計2回
2. 8月7日(月) 吉田悠軌による講義会 計1回
スターチャンネルでの放送:8月12日(土)~ 講義会、怪談会を随時放送
>>詳しくはこちら!

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