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幻想で現実を救えるか?近未来のハリウッドをSF界の巨匠レム的に描くとは

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圧倒的な世界観!
圧倒的な世界観! - (C)2013 Bridgit Folman Film Gang, Pandora Film, Entre Chien et Loup, Paul Thiltges Distributions, Opus Film, ARP

 イスラエルの鬼才アリ・フォルマン監督が、SF界の巨匠スタニスワフ・レムの小説「泰平ヨンの未来学会議」を基に描いた異色作『コングレス未来学会議』が公開された。そんな中、“特殊翻訳家”として本作の日本語字幕を監修した柳下毅一郎氏と生前のレムと交流があった東京大学教授・スラブ文学者の沼野允義氏(以下敬称略)が3日、新宿にて行われたトークショーで本作におけるレム的要素などについて語った。

映画『コングレス未来学会議』予告編

 本作は俳優の絶頂期の姿をスキャンし、そのデジタルデータで映画会社は映像を作り出すというビジネスが誕生したハリウッドを舞台に、女優としてのピークを過ぎたロビン・ライトが子供たちのためにスキャンを受けることを決意するところから始まり、人類がたどる驚異の未来を活写する。『戦場でワルツを』で自らの戦争体験をドキュメンタリーアニメーションとして描いたことのあるフォルマン監督は、本作では実写とアニメーションを融合させた。

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 柳下は「(レムの)原作がこの映画の中で使われているのは、アニメの部分。要するにアブラハマシティ、それも原作には出てこないんですけれども、そのアニメタウンでみんながアニメになって生きているっていう、そこの部分からなんです」と説明。

 そのため「ストーリーは、ほぼオリジナルといってもいいくらい」だと柳下は語りながらも、「(本作を)観てて、レム的な物語になっているなと思うところがあって」と切り出す。本作は「俳優なんていらない、全部CGでできますよっていう、ものすごく身も蓋もない現実の論理に従って、映画が解体されていく。言ってみれば、映画っていうのは終わっているっていう話なんですけど、そうやって解体していった先に何か詩的なものが残る。それは親子の話とかになっているんですけど。でも、そうではないポエジー(詩情)みたいなものもあって、その解体の仕方がある種、レムの知性で小説を解体していく手順と似ている」と熱弁。

 それに同意する沼野はレムの代表作「ソラリス」について「宇宙の理性と人間の知性は理解し合えないんだっていう、知的相対主義っていうのがある。理知的なものを突き詰めていった部分に対して、『ソラリス』ではハリーっていう女性が出てきて、本物の人間じゃないんですけど、恋愛を禁じながらも(彼女に)どこか愛着を感じてしまうという、割り切れない部分が残る」と語り、「(本作における)ロビンをめぐる映画女優としての状況とか、彼女の息子が難病を患っているとか、すごく切なくて厳しい現実的な部分が、レム的なすごく派手な幻覚的、幻想的な部分と対比的なんだけど、うまく組み合わさっている。理知的なんだけど、理知では割り切れない部分が残るところが似ている」と指摘した。

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画像テキスト
制作に2年半かかったという本作のアニメーション -(C)2013 Bridgit Folman Film Gang, Pandora Film, Entre Chien et Loup, Paul Thiltges Distributions, Opus Film, ARP

 そして最後に柳下は「いかに幻想によって現実を救うのか」がフォルマン監督作の主題になっていることが多いと述べ、「レムの原作は、最終的には幻想では現実を救えないっていう話なんですよね。この映画では、映画女優ロビン・ライトの全てを奪う現実を、アブラハマシティのアニメの世界が救ってくれるのかという話になっているのでは」と締めくくった。(編集部・石神恵美子)

映画『コングレス未来学会議』は新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田にて公開中、ほか全国順次公開

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