美しい詩を書いた女性はなぜ迫害されたのか

ユダヤ迫害を扱った『イーダ』に対し、こちらはジプシーを描く。といってもクストリッツァやガトリフのジプシー映画のような人懐っこい抒情は全くない。かつてのポーランド派の再来と呼びたくなる硬質のモノクローム映像で“負の歴史”を丹念に掘ろうとする。
ヒロインは、詩人として評価されたことでジプシーのコミュニティから疎外されてしまった実在の女性だ。民族の尊厳と、同調圧力の表裏一体。またローカルな文化を外部に向けて記述し、伝達することの難しさも関わってくる。
独力で知性と感性を開花させながら、「読み書きさえ覚えなきゃ幸せだった」と嘆くパプーシャ。寓話的タッチの中に込められた問題提起は、射程が長く鋭い。