『ジョジョ・ラビット』徹底して子供の感性を貫くワイティティ監督のメッセージ

第92回アカデミー賞

ジョジョ・ラビット
『ジョジョ・ラビット』より - (C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

 第二次世界大戦下のドイツを舞台に、10歳の少年ジョジョが空想上の友達の助けを借りながら、立派な兵士になろうと奮闘する物語。この前提だけ聞けばそこまで目新しさを感じないかもしれないが、空想の友達がアドルフ・ヒトラーとなると途端に過激さが生じる。ともすれば不謹慎とも受け取られるユーモアと、子供の目を通して戦争とナチスの非道さを伝えるというアイディアの融合は、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)のタイカ・ワイティティだからこそ可能となったといえるだろう。(文・今祥枝)

 ベースになっているのは2004年に出版されたクリスティーン・ルーネンズの著書「Caging Skies」。ニュージーランド出身でマオリ系ユダヤ人のワイティティは、ファンタジーとユーモア、風刺を取り入れた大胆なアプローチで翻案を手掛け、自らヒトラーを道化として演じることでも本作の際立つ個性を演出している。第44回トロント国際映画祭で観客賞を受賞したことで大きく注目され、アカデミー賞では作品賞、助演女優賞(スカーレット・ヨハンソン)、脚色賞(ワイティティ)ほか全6部門で候補になっている。

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ジョジョ・ラビット
『ジョジョ・ラビット』より - (C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

 ジョジョのヒトラーへの憧れやヒトラーユーゲント(ドイツのナチス党内の青少年組織)に貢献したいと切望する気持ち、ユダヤ人に対する盲目的な憎悪は、最初こそぎょっとするものもあるが、すぐに当時の大人に洗脳された子供たちにとっては当たり前の感覚だったのだと体感できる。そして観客はジョジョの目を通して、よく知る事実を別の角度から再発見することになる。ヒトラーを笑いと痛烈な風刺で描いた作品として『チャップリンの独裁者』(1940)やメル・ブルックスの『プロデューサーズ』(1968)などと比較されることも多い本作だが、徹底して子供の視点と感性が貫かれている点にユニークさと新味があるだろう。

ジョジョ・ラビット
『ジョジョ・ラビット』より - (C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

 ジョジョは自身の経験を通して、子供ながらにデマゴーグ(大衆扇動者)の欺瞞(ぎまん)と狂信の愚かさ、罪深さを知る。その過程はあまりにもつらく過酷で、誰もが涙せずにはいられないエピソードもある。だが本作を、困難を乗り越えて生きる子供の感動的な物語と解釈することは、ワイティティの本意ではないだろう。なぜなら子供がこんな悲しい経験をすることを、社会は決して許してはならないからだ。子供を持つ親となったことが原作の映画化へのモチベーションの一つとなったと語っているワイティティ。「大人が子供の心に憎しみの感情を植え付けてはいけない」という彼の信念が、ジョジョのまっすぐな瞳を通して力強く観客に訴えかけてくる。

ジョジョ・ラビット
『ジョジョ・ラビット』より - (C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

 ジョジョ役のローマン・グリフィン・デイヴィスは、オーディションで抜擢されて本作の名演で一躍注目を浴びた。ジョジョの母ロージーがかくまっていたユダヤ人少女エルサ役のトーマシン・マッケンジーは、デブラ・グラニック監督の『足跡はかき消して』(2018・日本劇場未公開)でも存在感は際立っていたが、本作でも確かな演技力を発揮している。サム・ロックウェルアルフィー・アレンら個性的な脇役陣はいずれも好演。とりわけ太陽のように明るく輝く、真の意味でのジョジョのヒーロー、ロージー役のスカーレット・ヨハンソンが鮮烈な印象を残す。

タイカ・ワイティティ監督がヒトラーに!映画『ジョジョ・ラビット』日本版予告編

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