シネマトゥデイ

夏休み映画特集 ミニシアター編

 毎年夏休みの時期には洋画・邦画共に大作映画が多く公開される。今年も『ターミネーター:新起動/ジェニシス』『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』をはじめ、『HERO』『インサイド・ヘッド』など話題作がズラリと並ぶ。しかし、味わい深いミニシアター作品も映画ファンとしてはチェックしておきたいところだ。今週は7月&8月公開のミニシアター作品から、この夏のオススメ作品を厳選して紹介!(文・構成:編集部 吉田唯)

北欧版『ゴーン・ガール』!?夫婦に訪れる崩壊の雪崩

フレンチアルプスで起きたこと
(C)Fredrik Wenzel

『フレンチアルプスで起きたこと』
ストーリー
 フランスのスキーリゾートにバカンスで訪れたスウェーデン人一家の家族の危機を描いた、第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞受賞作。誰もがうらやむ理想的な家族に見えた一家だが、山際のテラスで昼食を食べている際に起きた雪崩に対する夫の対応が、家族の絆に暗い影を落とす。

フレンチアルプスで起きたこと
(C)Fredrik Wenzel

 本作は人間の自分本位な側面を主人公夫婦に当てはめ、鋭い観察眼で切り取った秀作だ。強烈な妻の恐ろしさで話題になったデヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』と比較されることも多いが、『ゴーン・ガール』の妻が一種の過激さでリアリティーに欠けていたのに対し、本作の夫婦はどちらも「あるある」とうなずいてしまうような行動をとる。雪崩への対応で自分の本性があらわになるも、自尊心からそれを認めない夫。夫の行動にショックを受け、他人の前でも痛烈に夫を糾弾する妻。それぞれの行動によってさらに事態は悪化し、夫婦に、家族に、崩壊の危機が訪れる展開は118分の長さを感じさせない濃密さだ。劇中で罪を問われるのは夫だが、決して夫だけが悪いわけではないことを暗示するラストに、「北欧のミヒャエル・ハネケ」と称されるリューベン・オストルンド監督の手腕が光る。

映画『フレンチアルプスで起きたこと』はヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開中
『フレンチアルプスで起きたこと』作品情報

「生きる死人」がさまよう世界を詩的な映像で紡いだ傑作

サイの季節

『サイの季節』
ストーリー
 イラン政府に許可を得ずに撮影した前作『ペルシャ猫を誰も知らない』以来、国外で亡命生活を送るイラン出身の監督バフマン・ゴバディによる人間ドラマ。クルド系イラン人の詩人サデッグ・キャマンガール氏の実体験を基に、詩人のサヘルとその妻ミナがイスラム革命によって引き裂かれていく姿を活写する。ある男のたくらみによって30年間獄中生活を送っていたサヘルは、出所後生き別れた最愛の妻・ミナの行方を捜すも、政府のうそによって彼はすでに死んだことにされていた。そしてそのうそによって悲嘆に暮れるミナのそばには、サヘルの不当逮捕を計画した男が……。

サイの季節

 登場人物たちの凍てついた心を表現するかのような暗い映像で、現実と精神世界が錯綜(さくそう)する詩的な描写が展開する同作は、巨匠マーティン・スコセッシがネームクレジットで称賛と敬意を表した傑作だ。劇中ほとんどセリフのないサヘルを演じたイランの伝説的な俳優ビーローズ・ヴォソーギは、沈黙すらもセリフの一部であるかのように操り、哀愁漂う背中と混沌を秘めた瞳で画面を支配する。ミナ役を務めたイタリアの至宝モニカ・ベルッチも、悲劇的な現実の中で静かに生を紡ぐ妻を好演。存在を消され、「生きる死人」として妻を捜してさまよう主人公の寂寞(せきばく)感がにじむ姿に心打たれると同時に、厳しい現実とかけ離れた思考世界を自由に歩んでいくシーンには、イランを去るしかなかったゴバディ監督の姿が重なり、希望と絶望がない交ぜになった「生」の余韻が鑑賞後に何度も胸をよぎる。

映画『サイの季節』は7月11日よりシネマート新宿ほか全国順次公開
『サイの季節』作品情報

生きることの本質を問う2,000マイルの心の旅

奇跡の2000マイル
(C) 2013 SEE-SAW (TRACKS) HOLDINGS PTY LIMITED, A.P. FACILITIES PTY LIMITED, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, SCREEN NSW AND ADELAIDE FILM FESTIVAL

『奇跡の2000マイル』
ストーリー
 1977年のオーストラリアを舞台に、2,000マイル(約3,218キロ)に及ぶ砂漠を、4頭のラクダと愛犬を連れて単独横断した女性の実話を基にしたロードムービー。思い通りにならない日常を捨て、インド洋を目標に砂漠を横断することを決意した24歳のロビン。苦労して手に入れたラクダと愛犬と共に、7か月にわたる旅に出た彼女を待っていたのは、想定外の苦難の連続だった。

奇跡の2000マイル
(C) 2013 SEE-SAW (TRACKS) HOLDINGS PTY LIMITED, A.P. FACILITIES PTY LIMITED, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, SCREEN NSW AND ADELAIDE FILM FESTIVAL

 『イノセント・ガーデン』などで神秘的な美しさを披露してきたミア・ワシコウスカだが、本作では日に焼け、埃(ほこり)まみれになり、時には暑さをしのぐために素肌をさらして、長い旅の間に自然へと寄り添っていく主人公を熱演。趣は女性版『イントゥ・ザ・ワイルド』のようだが、本作は主人公を支える周囲の人々の温かさが際立ち、より希望的な作品に仕上がっている。中でも心をつかむのは、主人公の旅を導く先住民のエディを演じたローリー・ミンツマだ。モデルとなった人物と同じ地域出身の長老である彼は、見事な溶け込み具合で愛さずにはいられないチャーミングな役柄を全う。主演のミアや『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』への出演でも注目を浴びている、写真家役のアダム・ドライバーに負けず劣らずの魅力を発揮している。時に牙をむく自然の中での過酷な旅は、居場所のなかった主人公が生きることの本質に触れる心の旅でもあり、ラクダ4頭&愛犬と2,000マイルの砂漠を横断するというシンプルな物語だからこそ、その答えが強く胸に響く。あらゆる物事が恐るべきスピードで流れていく現代社会の忙しさの中で埋没していく自己の在り方を、立ち止まって考える機会をくれる一作となっている。

映画『奇跡の2000マイル』は7月18日より有楽町スバル座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
『奇跡の2000マイル』作品情報

思春期の孤独と情報化社会の闇に迫った台湾発サスペンス

『共犯』
Double Edge Entertainment (C) 2014 All rights reserved.

『共犯』
ストーリー
 同じ高校に通う女子高校生シャーの変死体を偶然発見した男子高校生のホアン、リン、イエが、少女の死の真相を追う姿を活写するサスペンス。

『共犯』
Double Edge Entertainment (C) 2014 All rights reserved.

 台湾の青春映画といえば2013年に日本公開された『あの頃、君を追いかけた』が記憶に新しい。しかし、甘酸っぱい青春のきらめきを捉えた『あの頃、君を追いかけた』に対し、本作は、いじめや情報化社会といった要素を通して、思春期や現代社会の闇に迫る。それまでまったく接点のなかった三人が、少女の死を追ううちに一種の共犯関係になり、その秘密を共有することで結ばれていく。それまでの日常で置かれていた立場から解放され、満たされなかった孤独感や空虚さを“秘密の関係”で埋めていく少年たちの姿には、いつの時代にも通じる「ありのままの自分を受け入れてくれる誰かとつながっていたい」という人間の欲求が反映されており、チャン・ロンジー監督の鋭い観察眼に圧倒される。また、本作に登場する生徒役のキャストは、ホアン役のウー・チエンホーとチュウ役のウェン・チェンリン以外ほぼ素人だというが、それぞれの役者の人生経験をヒアリングして、役に合った演技をその都度指導したという監督のアプローチが、どこにでもいる若者たちの、どこにでもある苦悩を浮かび上がらせることに成功している。SNSでのいじめが横行する現代に呼応する秀作。

映画『共犯』7月25日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
『共犯』作品情報

感情も倫理も通用しない不条理な世界で、戦争という怪物に食い殺される人間

『野火』
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

『野火』
ストーリー
 大岡昇平氏の戦争文学の代表作を実写化した戦争ドラマ。第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島を舞台に、野戦病院を追い出されてあてもなくさまよう日本軍兵士・田村の姿を追う。

『野火』
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

 大岡昇平氏が言葉で戦争という現実の悪夢をとどめようとしたように、塚本晋也監督は言葉で、音で、映像で、戦争という途方もないうねりを、戦争が忘れ去られつつある今この時代にとどめようとした。容赦なく映し出される腐乱した兵士の死体は、人間は死んだら「生きもの」から肉塊という「物」に変わり果てるという現実を観客に突きつける。そこには「かわいそう」などといった感情が介入する余地はなく、観客は田村が経験することをただひたすらにのぞき見ることしかできない。あまりにも圧倒的な不条理の前には感情も倫理観も存在せず、目の前にある状況の中で「生」の希望にすがりつくしかないのだ。人間が生み出した戦争という怪物に食い殺されていく人たちと、そうした人間たちの凄惨(せいさん)な状態とは対照的なフィリピンの色彩豊かな自然を87分間見つめ続ける本作は、戦争映画であると同時に、田村の視点を借りた体験映画でもある。その衝撃故に鑑賞後は鉛の玉を飲み込まされ続けたかのようなずっしりとした心持ちになるが、数日後には網膜に焼き付いた映像の数々が静かに胸の内を覆うだろう。戦争を生き抜いてきた人たちによって自分の生が紡がれていること、そして、今も戦争の火種がくすぶり続けていること。理解しているようで身に染み込んでいない現実に、改めてまなざしを向けなければならないと警鐘を鳴らす怪作だ。

映画『野火』は7月25日より渋谷・ユーロスペースほか全国公開
『野火』作品情報
連載:『野火』への道~塚本晋也の頭の中~

ポップでセンチメンタル!おしゃれな音楽と衣装でつづられる若者の恋と痛み

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
(C)FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
ストーリー
 人気バンド、Belle and Sebastianのスチュアート・マードックがメガホンを取り、2009年のソロアルバムを自ら映画化したポップミュージカル。うつ病と拒食症で入院中の少女・イヴが、アコースティックギターを弾くジェームズと、彼に紹介された少女・キャシーと共に音楽活動に乗り出す姿を、恋や友情、思春期の痛みを交えて描く。

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
(C)FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012

 本作で描かれる「何か」になりたいともがく若者ならではの痛みは、イヴとジェームズの触れたら壊れてしまいそうな友情とも恋愛ともつかない曖昧な関係や、ジェームズの夢に対する葛藤などを通して、誰もが青春時代に一つは作ったであろう心の傷跡をじんわりと思い起こさせる。そうした切なさをはらんでいる一方で、目を楽しませるおしゃれな衣装や繊細な歌詞で紡がれるポップな音楽、それらを映し出す16mmカメラで撮影された映像の色合いなど、細やかな演出に心躍らされる場面も満載。どんどん魅力的になっていく主人公を好演したエミリー・ブラウニングと、ボーダー柄の服を着るとまるで『魔女の宅急便』のトンボのような素朴な雰囲気のオリー・アレクサンデル、センチメンタルになりがちな物語にほどよい笑いのエッセンスを利かせたハンナ・マリーそれぞれの個性が光る。

映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』は8月1日より新宿シネマカリテほか全国順次公開
『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』作品情報

ジェイク・ギレンホールの怪演×人間の狂気をしたためた緻密な脚本

『ナイトクローラー』
(C)2013 BOLD FILMS PRODUCITONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ナイトクローラー』
ストーリー
 人脈も学歴もないため仕事にありつけない主人公・ルーは、ある日事件や事故現場に急行して撮影した映像をテレビ局に売る報道パパラッチ(=ナイトクローラー)になり、過激な映像を求めるあまりに一線を越えていく……。

『ナイトクローラー』
(C)2013 BOLD FILMS PRODUCITONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 第87回アカデミー賞脚本賞にノミネートされた緻密な脚本を手掛けたのは、本作で監督に初挑戦した『ボーン・レガシー』などの脚本家ダン・ギルロイ。本作の何よりの見どころは、不気味さを強調するぎょろついた目や、心の底によどむ狂気を隠すための不穏な笑顔、2か月で約12キロ減量したことによるげっそりとした風貌……何もかもがこの役のためにあつらえられたようなジェイク・ギレンホールの怪演だ。また、劇中に頻繁に登場するカーアクションは、118分という長さの中で観客の緊張感を維持し続けるための効果的なシーンであると同時に、主人公の異常さを際立たせる象徴的なシーンでもある。他社との競争のために過激な映像を求めて倫理観すらも崩壊していく報道の在り方や、絶望的な境遇だった主人公が他人の絶望を撮ることによって成功していく姿で現代社会の暗部を風刺した、新たなサスペンスの傑作が誕生。

映画『ナイトクローラー』は8月22日よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開
『ナイトクローラー』作品情報

バレエに苦しみ、バレエできらめく少年たちの青春

『バレエボーイズ』

『バレエボーイズ』
ストーリー
 プロのバレエダンサーを目標に、日々レッスンに励むノルウェーの3人の少年たちの12歳から16歳までを追ったドキュメンタリー。仲間でありライバルでもある彼らだが、それまで通っていたバレエスクールを卒業するという人生の岐路を迎えたとき、ロンドンの名門ロイヤル・バレエ・スクールに招待されたのは1人だけだった……。

『バレエボーイズ』

 登場するのは、バレエ映画の名作『リトル・ダンサー』の主人公を思い起こさせるバレエを愛する3人の少年たち。プロのバレエダンサーになることしか考えていないと宣言する子もいれば、親に「いい学歴、いい収入」を期待されてバレエと勉強の間で揺れる子、このままバレエを続けて芽が出なかったときのことを考える子など、三人それぞれが愛ゆえにバレエに苦しめられる。しかし、それでも三人はおのおのの愛し方でバレエに寄り添い、青春をささげる。だからこそ、バレエへの愛でつながった彼らの絆は固く、宝物のように尊い。三人が笑顔でじゃれ合う更衣室のシーンは、長い人生における一瞬の出来事が、確かにきらめきを放つ瞬間だと感じさせられる一コマだ。また、バレエを踊るために血のにじむような努力で作り変えられた体の美しさ、そしてその体を存分に使って舞台上で自身を解き放つ姿には、感動を覚えること間違いなし。バレエファンだけでなく、夢に対する悩みを抱える全ての人に響く青春ドキュメンタリーだ。

映画『バレエボーイズ』は8月29日よりヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷・アップリンクほかで順次公開
『バレエボーイズ』作品情報

彼女の“女友達”は、親友の“夫”だった

『彼は秘密の女ともだち』
(C) 2014 MANDARIN CINEMA - MARS FILM - FRANCE 2 CINEMA - FOZ

『彼は秘密の女ともだち』
ストーリー
 親友を亡くして悲しみに暮れる平凡な主婦・クレールが、親友の夫・ダヴィッドが女装しているところに出くわし、「秘密の女友達」として絆を深めていくことで、女性として輝きを増していくさまを描き出す。

『彼は秘密の女ともだち』
(C) 2014 MANDARIN CINEMA - MARS FILM - FRANCE 2 CINEMA - FOZ

 『危険なプロット』『17歳』に引き続き、フランソワ・オゾン監督が今作であぶり出すのは、「本当の自分」とは何なのか? という問題であり、本作では同時に「本当の自分」を受け入れることに重点が置かれている。ダヴィッドの存在によって、自身も花開いていく主人公を見事に体現したのは、『間奏曲はパリで』などのアナイス・ドゥムースティエ。女装する親友の夫役を務めた『タイピスト!』などのロマン・デュリスは、男らしさを残しつつも、時にはっとするほどの女らしさを見せ、「性」にとらわれないダヴィッドを名演技で魅せる。特に、ダヴィッドが女装姿で初めてのショッピングに出掛けるシーンは、本当の自分を獲得していく喜びがあふれ出しており、観客も思わず笑顔になること請け合いだ。人生を変えてしまうほどの愛の強さと、ありのままの自分を受け入れることの素晴らしさが、スクリーンに刻み込まれている。

映画『彼は秘密の女ともだち』は8月にシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
『彼は秘密の女ともだち』作品情報

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