今こそ日本の映画文化の価値を考えるとき~濱口竜介監督

がんばれ!ミニシアター

『ハッピーアワー』(2015)がロカルノ国際映画祭、ナント三大陸映画祭を始め多くの国際映画祭で主要賞を受賞し、『寝ても覚めても』はカンヌ国際映画祭に出品された、濱口竜介監督
『ハッピーアワー』(2015)がロカルノ国際映画祭、ナント三大陸映画祭を始め多くの国際映画祭で主要賞を受賞し、『寝ても覚めても』はカンヌ国際映画祭に出品された、濱口竜介監督

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い発令された緊急事態宣言を受けて、現在全国の映画館では、休館など上映自粛が広がっている。なかでも経営規模の小さなミニシアターは大きな打撃を受けて閉館せざるを得ない可能性もある危機的な状況だ。今だからこそ、ミニシアターの存在意義について、今の日本映画界を担う映画人たちに聞いてみた。

 演技経験のない女性4人を主演に迎えた『ハッピーアワー』(2015)がロカルノ国際映画祭、ナント三大陸映画祭を始め多くの国際映画祭で主要賞を受賞し、海外からその才能を絶賛された濱口竜介。商業映画デビューとなった東出昌大主演の『寝ても覚めても』はカンヌ国際映画祭に出品され、日本の映画界を担う新進気鋭の監督として注目された。濱口監督は大学生の頃、ミニシアターに通い詰めていたという。

 「子供の頃は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に熱狂していたんです。『ターミネーター2』なんかもすごく衝撃を受けた気がしますね。10代の頃は邦画では、岩井俊二さんに興味を持ってシネスイッチ銀座に『PicNic』(1996)、『FRIED DRAGON FISH THOMAS EARWING'S AROWANA』(1996)を観にいきましたね。

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 それから、同世代のウォン・カーウァイやクエンティン・タランティーノなどだんだんとサブカル的な映画にはまっていき、大学になると気がつけばミニシアターに行くようになっていました。学生時代に通っていたのは、渋谷のユーロスペース。その頃、好きになった映画は全てユーロスペースで観たと言っても過言ではないと思いますね。印象に残っているのは、ツァン・ミン監督の『沈む街』(1998)。それまで自分が観てきた映画より、セリフも少なくて余白のある物語。非常に面白くてもう一回観に行ったことを覚えています」

 学生時代は年間何百本というペースでミニシアターに映画を観に行っていたという濱口監督。印象に残っている作品を聞くと、数多くのタイトルが溢れてくる。「当時とても影響を受けたのは、ジョン・カサヴェテス監督の『ハズバンズ』です。渋谷のシネ・アミューズ(2009年閉館)で初めて観たのですが、今まで観たことがない、本当に変な映画だったのですけど、ものすごく面白かった。とにかく印象が強くて、どこかの映画館でリバイバル上映があると聞くたびに、映画を追いかけて観に行っていました」という。

 「カサヴェテスの映画は、辛いっちゃ辛い時があるんですよね(笑)。だから映画館の席に自分の体を据え付けて、身動きが取れない中で光と音を浴びることが好きなんです。でも不思議なことに同じ映画でも、映画館ごとに観たときの感覚を覚えているんです。自分自身の人生のタイミングも違います。映画館までの行く道も、行くまでに食べたものも覚えていたりしますね」

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 濱口監督の言葉通り、映画館での体験は家で観るよりも体感として心に残る。現在、ミニシアターエイドではサンクスシアターというオンライン映画館を企画している濱口監督は「オンラインでは、なかなか観られない映画もたくさんあるので、ぜひ多くの方に楽しんでもらいたいと思っています。そしてオンラインで観ていただいた作品を劇場で観ていただけたら、映画館で観る体験の質の差が必ず分かると思います」と訴える。

 海外で多くの映画賞を受賞した映画『ハッピーアワー』は、5時間17分という異例の長さだった。通常2時間を超える長尺映画は、1日の上映回数が少なくなるという商業的なジレンマがある。「5時間になったので、イベントや映画祭と思っていて映画館での上映は正直、諦めていました。最初に元町映画館さん、イメージフォーラムさんでもかけていただいて。

 劇場にとっても大変な冒険だったと思います。ミニシアターは、皆スタッフさんたちが熱い思いを持った方々が多い。映画作家にもこれまで多くのチャンスが与えられてきたと思います。オーディトリウム渋谷さんは、一番最初に自分の映画の2週間の特集上映をしてくれて。しかも劇場公開もしていなかった映画が、SNSにいろんなクチコミを広がって行くのを目の当たりにしました。あの特集上映が、今の僕につながった」と感謝の意を表した。

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 濱口監督は、ミニシアターの危機にいち早く立ち上がり、盟友・深田晃司監督とともにミニシアターエイドを立ち上げた。現在多くの映画ファンがその思いに賛同し、寄付金の額は3億円を突破した(5月14日時点)。濱口監督は「映画に限らず、こういう動きができたということはとても嬉しい」と話す一方、「もちろんこうして資金が集まることはとてもありがたいです。でも、深田監督はよく「これを美談にしてはいけない」と言いますね。本来は個人や民間でやることになってしまったこと自体がいびつなことなんです。そして、これは単に制度の問題ではなくて、日本の中で文化が政策上、軽視されているということが問題の根っこだと思っています。

 もちろん芸術体験は金銭にも変えられないし、正確な言語化も難しい。でも、確実に価値があるものなんです。これまで行動としてその価値を示す機会がなかったけれど、今回、ミニシアターエイド基金でいろんな方が、支援をしてくださっている。映画に価値があると知っている人たちが、支援をしてくださっていることが目に見えた。映画体験が体に残っている人たちが動いてくださったんだと思います。言葉にも、お金に換算しづらかった価値が、不本意な形ではありますが、社会にとって可視化された。そういう体験を作るミニシアターには、他に換えがたい価値がとてもあるということは訴えていきます」と話した。

 ミニシアター支援のために濱口監督が立ち上げたミニシアターエイドは5月14日で終了する。新型コロナ禍は、大きな危機を映画業界全体に与えた。今こそ、ミニシアターだけではなく芸術文化の大切さを日本全体で考えていけば、日本のアート界は少しずつ変わっていくのではないだろうか。(森田真帆)

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